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◆47 いきなり、ワタシを貢ぎ物にすんなよな!

 ワタシ、白鳥雛しらとりひなは、異世界の店先で売り()になって、自分の聖魔法で精製したお薬を「持ってけ泥棒!」とばかりに、タダでばら撒いた。


 呆然とするパーカーさんを尻目に、ワタシは店の奥に引っ込んだ。


 ワタシとしては、薬の効果をじかにお客さんに知ってもらうための戦略だった。

 が、パーカーさんはわかってくれない。

 ワタシがヤケを起こしたようにしか思っていないかんじだ。


 でも、構わない。

 このまま、誰にも使われることなく、文字通り〈聖魔法入りの薬〉が棚ざらしになってるのは、いかにも忍びない。


 店の奥に進むと、エマが待ち構えていた。

 彼女にはピッケとロコを(あず)けていたはず。


「あら、エマさん。お疲れさま。子供たちは?」


「おやすみしてます。

 それより、先程、店頭でヒナ様が無料でお薬をお客様に配っているのを見て思ったんですがーー」


 エマは(うかが)うような目付きで、(たず)ねてくる。


「まさか、ケショウスイとかいうのも、孤児院の子供たち全員にも使ったのですか?」


 孤児院からやって来たピッケとロコの肌が、緑がかって、ツヤツヤしているーー。

 エマがそのことに気がついたらしい。


「ええ。それがなにか?」


 ワタシは気軽に応じる。

 そこで、いきなり怒声にも似た大声が浴びせかけられた。


「冗談じゃない!」


 エマからではなく、(うしろ)からの声だ。

 いつの間にかパーカーさんが、マオを(ともな)って背後に立っていた。


 なんだよ、アンタは。

 さっきまで店頭にいたのに、ワタシの背後霊か何かか?

 マジでビビるから、(おど)かさないでくれる!?


「なんなのよ、いきなり!

 マジでビビるんですけど!?」


 振り返るワタシの両肩を、パーカーさんはガシッと(つか)んだ。


「いいですか!?

 ヒナ様が生み出されるケショウヒンは貴重なんです。

 それこそ、大金を産む、大事な商品なんですよ!」


「あら。化粧品や薬の売り上げは、『教会に寄付する』だの、『孤児院のために使う』だとか言っていたのに」


「それはパーカー商会(ウチ)が薬や化粧品を売り出すための、表向きの口実というヤツですよ。

 他店や組合に対しての、ね。

 ーーとにかく、薬も化粧品も、貴重品!

 富貴な貴族のご婦人にこそ、相応(ふさわ)しい品物なんだ。

 それを孤児なんぞに使うのは……」


 ワタシは頭を横に振って、決然とした表情で断言した。


「いえ、孤児だからこそ、なんじゃねーの!? この場合。

 孤児ってのは、見るからに貧しい格好してんでしょ!?

 そーいった、今までの身なりをみんなが知っているからこそ、化粧品の効果が良く伝わるんではなくて!?」


 ワタシが食い下がると、マオが横合いから援護射撃してくれた。


「ケショウヒン、孤児院で好評でしたよ。

 特に修道女(シスター)さんは、涙を浮かべて……。

 ライリー神父様も、お喜びでした」

 

「………」


 パーカーは喉を詰まらせ、頭を抱える。


 そこへ、さらに頭を抱える事態が報された。

 王宮に出向いていた番頭の一人が、早馬で帰ってきたのだ。


「どうした?」


 問いかけるパーカーに、年配の番頭が耳打ちする。

 パーカーの顔がサッと青褪(あおざ)め、表情が硬くなる。


 ただならぬ雰囲気に、妹のエマが声をかける。


「どうしたの? 王宮でなにかーー?」


「兄貴のハリエットが、叛逆罪に問われて投獄されたーー」


「ええっ!? ど、どうして?」


「俺が知るかよ!」


 そう怒鳴ってから、パーカーさんは両手で顔を覆いながら、ブツブツと言い始めた。


「ーーいや、この際、理由(わけ)なんざ、どうでもいい。

 問題は、これから先、俺がどうするべきか、だ……」


 王家に対する叛逆罪となれば、一族郎党皆殺しだ。

 兄は緑人だから刑死免れるだろうが、俺やエマはヤバイ。


 ーーそんなことを思い巡らしているパーカーさんに、ワタシはあえて基本的な疑問を投げかけた。


「そういえば、どうして兄弟なのに肌の色が違うの?」


 ワタシとしては、緊迫した空気を少しでも和らげたかったのだが、当然、パーカーさんは苛立ちながら答える。


「ああ? なんだよ、こんなときに!

 言うまでもないが、上位貴族の血筋以外は、緑肌に固定されない。

 中級以下は緑だったり黒だったり、相手次第では白にもなる。

 そんなこたぁ、常識だ」


 ビックリな〈常識〉だった。

 なにそれ?

 肌の色は遺伝しないの?

 それとも、遺伝するけど、その法則性がわからない、というかランダムなものなの?


「なんなん? それ、メチャクチャじゃなかと?

 それなのに、肌の色で差別するなんて。

 おかしくね?」


「なにがおかしい?

 肌の色は神様の愛情のバロメーターだ」


 当たり前そうな顔をして、パーカーさんが声を上げる。

 ワタシは小首をかしげた。


「ふうん。

 日本でいえば、イケメンかブスか、といったよーな違いなのかしら?」


 ルッキズムと批判する向きもあるだろーけど、ワタシ的には、異性を見る目の絶対基準なんだから仕方ない。


「なに?」


「いえ」


 ワタシとの話を切り上げ、パーカーさんは再び独り言を始めた。


「とにかく、ハリエットの兄貴を助けないと。

 ドビエス王子が投獄を命じたそうだからーー」


 あの王子か。

 なんだか、性急な男だったな。


「なんとか、王子にも手出ししがたい後見役を持たないと、パーカー商会(ウチ)なんざ即座に取り潰されるぞ」


 焦るパーカーさんに、マオが口を挟む。


「ボクには大人の事情はよくわかりませんが、ライリー神父様ならばなんとか助けてくださいますよ」


 少年の発言を受けて、オッサンはパッと喜色を浮かべた。


「そうだな。ヒナ様を教会に差し出すか?」


 パーカーさんが血走った眼で、ワタシを見る。


 へ? 差し出すって、なに?

 キョトンとするワタシに目もくれず、パーカーさんは腕を組んでブツブツと考え事に(ふけ)っていく。


「ーーそうすれば、〈もう一人の聖女様〉を教会は抱えるわけで、結果として対王家のカードとして使えるように……いや、すでに教皇様が白い女を聖女と認めてしまってるからーーう〜〜ん……」


 おいおい、パーカーさん、それはちと物騒じゃね!?

 いきなり、ワタシを(みつ)ぎ物にすんなよな!

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