◆43 パールン王国初の……ヒナさんお約束!
ワタシ、白鳥雛は、みんなでワイワイと賑わうのが大好きだ。
だったら、パリピも喜ぶ、あのサイコーなおもてなしイベントをやるっきゃない!
大きな銀の皿と、ありったけのグラスを所望した。
「わかりました。ヒナ様」
ワタシの突然の注文に、美少年マオは素直に応じた。
大きなお皿とグラスがテーブルに置かれると、みんなに呼びかけた。
「ねえ、みんな!
そのお菓子、ぜーんぶ集めて、お皿の上に、大きな山を作ってくんない!?
目で見て楽しんでから、お菓子を美味しくいただくってのは、どうよ?
ヤバくね!?」
「わーい! 面白そう」
「やるやる!」
子供たちは大はしゃぎだ。
素直な良い子たちで、ワタシは嬉しくなった。
「みんな、賢く頭、使ってね!
でないと、上手に並べらんなくて、お菓子の山がキレイにならねーから!」
「わかった! ヒナ姉ちゃん」
ピッケの声を受け、子供たちはそれぞれにお菓子を手に取り、お皿の上に並べ始めた。
ワタシは、にっこりとした。
「さあ、こっからが本番よ。
マオもパーカーさんも手伝って!」
もう二枚の銀のお皿に、たくさんのグラスを円形に並べる。
そして、その上にもグラスを丁寧に置いていった。
「こうやって、グラスのタワーを作るの!」
ワタシは上機嫌で、手を動かした。
パーカーさんは不思議そうな目付きで、ワタシのしていることを見ていた。
マオが笑顔で言う。
「これが、ヒナさんの国のお祝いの形なのですね」
「う〜〜ん、国ーーではないけどぉ……。
私の大好きな、歌舞伎町って街のお店のやり方なんだよね。
マジでテンション爆上がり。ヤベェんだから!」
「グラスが倒れなければいいがーー危なくないか」
パーカーさんが、重ねたグラスを心配そうに見上げる。
グラスが割れた場合の損害を気にしていることが露骨にわかる。
マオは雇主(ダンナ様)の懸念を無視して笑う。
「面白そうだから、いいじゃないですか。
だって、こんなお祝いの会は生まれて初めてです!」
マオが、眩しそうに、ワタシとグラスタワーに目を遣った。
歓迎会は、大きな歓声に包まれた。
全員が順番にグラスタワーの上から、ジュースを注ぎ込んだからだ。
小さな子は、椅子の上に乗り、ワタシに手を添えてもらって、ジュースの瓶を傾ける。
その度に、歓声や拍手が湧き起こった。
「マジで、シャンパンタワーはヤベェわ!
ノリノリで盛り上がるぅ!」
ワタシ自身、ウキウキ気分になって、グラスから流れるジュースを眺める。
ジュースの色は、ピンク、オレンジ、ブルーと3種類あったけど、全部ドバドバと注いだ。
パーカーさんが、流れ落ちるジュースを目にして、オロオロしていた。
「もったいない、もったいない!」
と叫んでいたけれど、大勢の子供たちの笑いの渦に掻き消された。
ワタシはノリノリでシャンパンコールを始めた。
「みんなーー。
今日は、ピッケとロコのために歓迎会してくれてありがとーね。
これから孤児院のシャンパンコールするよー。
ヨイショ!
みんな盛り上がっていこーぜ!
イーヨイショ!」
ホールには、聞いたことのない言い回しとリズムが響き、みなは驚いていた。
なぜか誰の心にも激しい動悸が起こり、喜びと興奮状態になった。
空き瓶をマイクの代わりにして、喋りまくった。
「ジュース入れてくれて、ありがとねー。
これからみんなのためのシャンパンコールするよ!
いーよいしょー!
さあ、みんな!
このマイクが向けられたら、ひと言好きなこと喋んな!
なんでもいーから。
じゃあまず、ワタシから言うね!」
ワタシは顔を上気させ、
「〈姫様〉から、一言どうぞ!」
と自分で言って、自分でコメントした。
「はぁい!
ワタシ、王子のために、頑張りました。
これからもよろしくね、マオ!
アンタがワタシの推しの王子様なんだからぁ!
ヨーイショ!」
ワタシは躊躇うことなく、エアマイクをマオに振った。
ピッケとロコの歓迎会なんだから、彼らにマイクを向けるのがスジだけど、彼らはまだ幼すぎる。無茶振りに機転が利かない。
だけど、マオだったら、頭が回るに違いない。
それに、ピッケとロコがこの孤児院に入れるようになったのは、なんといってもマオのおかげ。
このパールン王国初のシャンパンタワーが建つに至った、最大の功労者は間違いなくマオだ。
「王子様」呼ばわりされたマオは、よくわからないけど嬉しさと恥ずかしさでいっぱいになっていた。
子供たちも手を叩いて大はしゃぎをしている。
ライリー神父や助修士、修道女たちは若干引き気味だったけど、パーカーさんまでが笑いころげていた。
孤児院から商会に下働きに出ている奴僕の白人少年を「王子様」と呼ぶセンスに、不敬な感覚を通り越して、異世界出身者ならではのブラックジョークに感じたのだ。
ワタシは乾杯コールを派手にかましたあと、空き瓶のマイクをマオに向けた。
「さあ王子、コメント!」
「こ、こめんと……ああ、なんか言えってことですね。
ええっとーーヒナ様、この〈しゃんぱんたわー?〉作ってくれて、ありがとうございます。
こんな楽しい一日は、生まれて初めてです。
ヒナ様と出会えて、本当に良かったです。
これからも、よろしくお願いします」
マオが照れながら、でもはっきりと自分の思いを伝えた。
ワタシは「ヨイショ、ヨイショ!」と声を張り上げ、場を盛り上げ続けた。




