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◆41 雑木林を抜け、教会から孤児院へ

 ワタシ、白鳥雛しらとりひなは、マオの案内で、牛車に揺られながら、孤児院を併設する教会へとやって来た。

 幼児の兄妹、ピッケとロコ、そしてパーカーさんと一緒の来訪である。


 ワタシたちを出迎えてくれたのは、主任司祭のライリー神父だった。

 ガッシリとした黒人の中年男性だったが、細やかに気遣ってくれ、自らお茶を運んできてくれた。


 続いて、孤児院で働く職員を紹介する。

 助修士(ブラザー)修道女(シスター)である彼らは、みな修道着を(まと)って壁際で整列し、挨拶をした。


「ようこそ、おいで下さいました」


「ヒナ様でしたか? 聖女様候補と(うかが)っておりますが……」


 修道女たちがジロジロと、ワタシを見詰めてくる。

 やっぱ、肌の色がガチで気になるようだ。

 とはいえ、王宮で受けた視線とは、随分と趣を異にしていた。

 緑人の貴族連中とは違い、(さげす)んだ気配がない。

 物珍しがっているだけのようだ。


「こちらこそ、よろしく!」


 ワタシは、明るく挨拶を返した。

 助修士や修道女たちも、ホッと息をつく。

 彼らも緊張していたようだ。


「その子たちですね。新しく入る子は」


 と、神父様は尋ねながら身を(かが)めて、幼い兄妹と同じ目線になる。

 さすが、孤児院の院長を兼ねるだけあって、子供との付き合い方を心得ていた。

 ワタシが子供たちの紹介をした。


「はい、兄がピッケ。妹がロコといいます」


 ライリー神父はニコッと微笑み、ピッケと握手した。


「ピッケ、ロコ、仲良くしましょう」


「うん、ぼく、仲良くする」


「あたいもー」


 安心して任せられる。

 そう思わせる神父様だった。


 次に、お茶を一杯飲んで、ちょっとお菓子を(つま)む。

 それから挨拶もそこそこで席を立ち、全員で教会から外へ出た。

 ライリー神父が先導したのだ。


「さっそく、子供たちがこれから住まう孤児院をお見せしましょう」


 ピッケとロコが入所する孤児院を紹介するという。

 教会家屋をぐるりと回って、裏庭に出た。


 孤児院は、教会の裏庭の向こうにある、という。

 が、雑木林に邪魔されて視認できない。


 しかも、孤児院に(つな)がる道は、樹木の間を縫うようにうねっているため、初見者には迷わずに進むのは厳しい。


 案内したのは、助修士や修道女たちだ。

 彼らが孤児院の実務を取り仕切っており、上下とも黒と茶に限定された色合の服装をしている。五、六人でやって来た彼らの大半が白人で、みな寡黙であった。


(ヤベッ! マジで不気味。

 かなりホラーっぽくね!?)


 と思ったけど、さすがに言葉を飲み込んだ。


 ライリー神父とパーカーさんを中心に、集団で雑木林の奥へと進む。

 道すがら、ライリー神父が、孤児院の来歴を語り出した。


「ウチの孤児院は、もともと施療院(せりょういん)と呼ばれておりまして、聖地巡礼者に(ほどこ)しや宿を与える施設でした。

 しかし、時代とともに役割が変わっていきましてね。

 しだいに貧民や老人、寡婦などの生活困窮者に食事をしてもらう施設となり、さらには十数年前から始まった隣国との紛争を期に、大量に発生した孤児を引き取ることによって、孤児院になったのですよ」


「はあ」


 ワタシはつい、気のない返事を返す。

 こういう経緯に興味はない。

 そういうつまんないことはマサムネ相手にしてくれ、という思いだ。


 ワタシの内心の声が聴こえたのか、ライリー神父は微笑みを浮かべたまま話題を切り替えた。


「ピッケくんとロコちゃん、二人の孤児について話は(うかが)っております」


「ではーー」


「ええ。神父(私)が責任を持って、二人の白い子供を引き取らせていただきます。

 他ならぬパーカー商会の紹介とあらば」


 ライリー神父の言葉を耳にして、パーカーさんは得意げに胸を張る。

 日頃の献金が効いているようで、ありがたいことだ。

 ワタシは素直に頭を下げる。


「ありがとうございます」


「されどーー」


 ライリー神父は、ワタシをジロジロと見る。


貴女(あなた)ですか、王宮から追い出された聖女様というのは?」


「まぁ、そうなんですけど……。

『追い出された』と表現するのは、ちょっとーー」


 ワタシが口籠(くちごも)ると、ライリー神父は気さくに笑う。


「はっはは。今さら言葉を選んだところで、実態は変わりませんよ。

 王宮では、すでに〈白い聖女〉カレン様がご活躍中と伺っております」


「ご活躍ーーねえ……」


 性行為をしまくるのが活躍なのかしらね。

 あのヒト、〈聖女様〉ならぬ〈性女様〉なんじゃねえの?


「なにか?」


「いえ……」


 ワタシが〈白い聖女様〉に良からぬ感情を抱いているのを読み取ったのか、ライリー神父は真面目な顔付きになって断言する。


「とにかく、王宮でご活躍中の聖女様がおられる限り、教会としては、貴女を聖女様と認めるわけにはまいりません」


 ここでパーカーさんが割って入る。


「聖女認定は王宮ではなく、教会が行うものと伺っております。

 でしたら、教皇様がお認めくださればーー」


 ライリー神父は視線をパーカーさんに向けて微笑む。


「ええ。その教皇様が、今現在、王宮にお住まいの白い美少女を聖女様と正式にお認めになりましたのでね。

 一介の司祭にすぎぬ私が、独断でこちらの黄色いお方を聖女様と認めるわけにはまいりません」


 ライリー神父は照れくさそうに付け足した。


「それに、私は魔法は使えません。

 ですから、貴女様がお持ちと伺っております聖魔法も、自分では感知できないのです。

 緑人とは違って、黒人は魔力が微弱な者が多いのです」


 そこまで、あのふしだらな金髪少女が聖女様っていう話が進んでたのか。

 街中から噂になってーーと思ってたけど、のんびりしてるとマズイのかな。

 ワタシはちょっとばかし(あせ)りを強くした。


(でも、でもーー。

 こうして、いったんはニセモノが聖女認定されるってのは、王道じゃね!?

 ここからひっくり返すのが、主人公(ヒロイン)ってもんでしょ!)

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