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◆40 孤児院来訪と、ヒナちゃんのお約束、そして出陣式

「出発、シンコウ!」


 ワタシ、白鳥雛しらとりひな(こぶし)を空に向けて突き立てる。

 わああ、とピッケとロコも、ワタシの真似をして拳を振り上げた。


 これからワタシたちは、マオの案内で、王都の西外れ、孤児院を併設する教会へと向かうことになった。


 午後の空は、どこまでも青く晴れていた。

 幼い兄妹と共に、マオが手綱(たづな)を握る牛車に乗って、教会に向かう。

 保護者役のパーカーさんも同乗していた。


 牛の歩みは想像以上にノロかった。


(これ、歩いた方が速くね?)


 ワタシはそう思ったが、今日はパーカーさんも一緒の〈公式訪問〉だ。

 牛車に揺られるのも、格式というやつだろう。

 歩いて行くわけにもいかないらしい。


 実際、荷台にはかなりの数の壺や木箱が詰められていた。


「後ろの荷物は?」


 ワタシが問いかけると、パーカーさんは渋い顔をする。


「献上品だ。

 教会の庇護下にあるパーカー商会(ウチ)が、頼み事をするってぇのに、手ブラってわけにもいかない」


「なんか、ごめん」


 頭を下げると、パーカーさんは照れながらも、左足に手を()る。


「いや、まあーー足を治してくれた代償と思えば、安いもんだがな」


「ふふふふ」


「どうした?」


「パーカーさん、口調が元に戻ってる。

 ワタシ、聖女様なんでしょ? 

 ヤバくね? ぞんざいな口をきいて」


 ワタシがからかうと、パーカーさんは居直って、腹を突き出す。


「ーーまあな。俺も考えたんだよ。

 俺はヒナ様が聖女様だと思うが、王宮や世間はそう思ってねえ。

 その段階で、過度に俺がヒナ様にへりくだると、怪しげな関係に見えるだろ。

 ヘタをしたら、ヒナ様ともども、教会から異端扱いにされかねん。

 だから、せめて教会に行くときは、ヒナ様は〈気心を許した客人〉という扱いにする、と決めたんだ」


「ふふ。それ、エマさんの考えじゃね?

 ああ、ーーそういえば、パーカーさんがワタシをお嫁さんに迎えようとしてるって、この前、エマさんが言ってたけど、本気(マジ)

 実際、ワタシ、パーカーさん、オトコとして甲斐性あると思ってるからさ。

 いっそのこと、カノジョさんにしてくれても?」


 ワタシが唇に指を立てると、パーカーさんは顔を真っ赤にした。


「バカ言え。

 とにかく、異世界から来た聖女様には大事なお勤めがあるんだ。

〈魔の霧〉を(はら)うっていう、重要なお仕事がな!

 それがかなって、王宮が貴女を聖女様とお認めになってからだ。

 俺がヒナ様にへりくだるのは」


「はいはい……。

 ーーところで、〈魔の霧〉ってーー?」


 と、派遣される前からズッと疑問に思っていた質問を、ようやくぶつけようとした。

 が、間が悪いことに、ここでマオくんが威勢の良い声をあげた。


「つきましたよ。教会です」


 わああ!


 ピッケとロコがはしゃいで、牛車から飛び降りる。


「危ないよ!

 気をつけて、降りな」


 ワタシも溜息ひとつ吐いてから、牛車を降りて後追いした。

 ピッケとロコの手を捕まえ、顔を上げる。

 目の前に教会があった。


(へえ……)


 教会は、おとぎの国を思わせるような、可愛らしいものだった。

 薄いベージュの色の壁にグリーンの三角の屋根があって、窓は色とりどりのステンドグラスが()められていた。

 シンボルは十字架ではなくて、正三角形のなかに小さな赤い丸が入っていた。

 日本の田舎で時折見かける小さな教会と似たような感じだけれど、どこか少し違うのが、異世界の面白いところだなと、思った。


 パーカー商会から、牛車で進んで一時間ほどの所に教会はあった。


「これだったら、毎日気軽に通えるんじゃね?」


 ワタシは嬉しくなった。

 ロコは、ワタシの顔を見ながら声をあげた。


「ヒナ姉ちゃんと毎日会えるなら、あたい、孤児院に入ってもいーよ」


 幼い妹の発言を耳にして、お兄ちゃんが叱責口調ながら、明るい声を出す。


「バカ。駄目だろ。ヒナ様とお呼びしなきゃ。

 聖女様なんだぞ、ヒナ様は!」


 幼い子供たちがはしゃぐ声を耳にしながら、マオが先導する。


「ヒナ様、こちらへどうぞ」


 まずは教会の応接室に通された。

 主任司祭はライリー神父という人で、中年の黒人だった。

 ガッシリとした体躯で、意思の強そうな眼をしていた。

 眼光の鋭さを、微笑みを浮かべることで緩和している。そんな感じだ。


(あら。渋いオジサマね。

 歌舞伎町の黒服さんみたいな雰囲気。

 教会の神父様ーー悪くないわ。

 眼鏡を掛けたら、似合いそう……)


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