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◆38 商売人の画策

 家政婦エマの、店主パーカーさんに対する言葉使いに、ワタシ、白鳥雛しらとりひなは目を丸くした。


「ヤベッ!

 ガチで、ヤリ手の営業レディみたいじゃね!?

 エマさんって、家政婦さんじゃねーの?」


 エマはワタシの方を見て、ふんっと鼻息を荒くして胸を張る。


「ワタクシ、家政婦も兼ねておりますが、旦那様の補佐役も務めさせてもらっております」


 ああ、そうだった。

 エマさん、パーカーさんの妹だったっけ。

 そう思い出して、大きくうなずいてたら、パーカーさんが眉根を寄せた。


「腹違いの妹なんだよ、俺の。

 夫を亡くして以来、()かず後家で困ってるんだが」


「なに言ってんですか。

 旦那様(にいさん)も良い年齢(トシ)なのに、オンナ一人囲えないくせに」


 マジ!?

 パーカーさん、てっきり遊び人かと思った!

 ーーと、思わず口にしそうになったのを、危うく飲み込んだ。

 そんなところで、エマが爆弾発言をした。


「旦那様、正直におっしゃってください。

 ヒナ様を迎え入れようと、密かに画策なさっているのではありませんか!?」


 なんと!?

 ワタシが驚いてパーカーさんの方を見ると、彼は顔を真っ赤にしていた。

 図星だったかもしれない。

 が、さすがに常識はわきまえていたようだった。


「バカ言え。聖女様だぞ!

 俺みたいな平民の手に負えるか!?

 客人だよ、客人。

 遠方からの行商人も泊めたりしてるだろ。

 あれと一緒だ」


「でも、行商人たちからは、宿代をキッチリ取ってるはずですよね」


「ヒナ様は行商人とは違う。

 異世界から召喚された聖女様だぞ。

 それに、俺の足を治してくれたんだ。

 コッチの方が謝礼を支払うのがスジってもんだろ。

 まして、宿泊代を取るなんて……。

 本当は食費や、部屋代もらいたいよ」


 話が落ち着いてきて、ようやくワタシも口が(はさ)めた。


「でも、私、お金持ってねーし」


 そう言って、ワタシは口をとがらせる。

 すると、エマは満面の笑みを浮かべた。


「ヒナ様。お金が儲かる方法、お教えしますよ」


「本当? ワタシ、お金儲けできんの?」


 薬がまったく売れなくて、悔しく思っていたところだ。

 なんとしても、市井(しせい)で生きていく実績が欲しい。


「簡単です。

 ヒナ様が昨日、私や子供たちに塗ったケショウスイとかくりーむとかを売ればいいんです。

 絶対、裕福な商家や貴族のご婦人方の評判を勝ち得ますよ。

 ええ、絶対です。

 本音をいえば、セッケンとかニュウヨクザイってのも素晴らしいものだったんですが、いかんせんお風呂を設置している家はごく少数ですのでーーあ、浴場なんかには売り込めますかね?」


「でも、ワタシ、原料になってる灰とか粉とか、どうやって手に入れるか知らないし。

 無理、無理!」


 ワタシは両手を左右に振って、出来ないことを強調した。

 が、エマはクスッと笑う。


「材料や素材集めは、もちろん商会が行ないます。

 ヒナ様には聖魔法を使っていただけましたら、それで充分です」


「そんなものかしら?」


「価格は、市販品の五〜十倍になるでしょうね。

 それでも、飛ぶように売れるはず」


 自信満々に胸を張るエマ。

 パーカーさんは腕を組み、眉間(みけん)(しわ)を寄せる。


 以降、商会の主人兄妹で話を進めた。


「もっとも、評判や儲けが大きいと、(ねた)まれやすいからな。

 他の商人や貴族から、()らぬ横槍や嫌疑を受けないためにも、利益の幾分かは教会に寄付する方がいいだろう」


「そうですね。

 薬もケショウスイも売るとなれば、普段取引がある食品や香辛料、乾物雑貨などの業界とは違った団体との(から)みも出てきますわ。

 教会を後見にしなきゃ、安心できませんわね」


「そうだなーー薬もケショウスイ、くりーむなんかも、あくまで孤児のために、聖女様が作ってくださったってことにした方がいいかもしれん」


 パーカーは商売人らしく、思案を進める。

 エマはしきりにうなずきながら、これからの手筈に思いを巡らせている。

 二人の幼児はボンヤリ。

 ワタシは目を丸くしながら、パーカー、エマの兄妹がする話を聞くばかりだった。

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