◆36 ガチ目に、お肌のお手入れの仕方、教えてあげちゃう。
ワタシ、白鳥雛は、パーカー商会のゲストルームで、翌朝までぐっすりと眠った。
ピッケとロコを引き取れたことと、思い通りに基礎化粧品が出来たことに満足したからだと思う。
聖魔法を連発して、疲れたのかもしんない。
それでも、翌朝に疲労を持ち越すことなく、スッキリ目覚めた。
エマが起こしに来てくれた。
「おはようございます。
二階にお食事の用意ができました。
旦那様もお待ちしております」
もうすっかり、商会は午前の活動を始めていた時刻だった。
「ありがとう。エマ。
それにしても、よく寝たわ。
ピッケとロコも、よく寝たね?」
「うん。ぼく、こんなに寝たの初めてだ。
ふかふかのベッドだからかな。背中が痛くないや」
「あたいもー」
「じゃあ、顔洗って、身支度しようね。食事ができてるって」
「ぼく、腹減ったー」
「あたいもー」
二人の子供が、ドタドタと洗面に走る。
彼らは昨夜、入浴した際、脱衣所に洗面器と水差しが置いてあったことを覚えていた。
駆け去る子供たちをマジマジと見詰めてから、エマがワタシの袖を強く引っ張る。
「いったい、どのような奇蹟をおこなったのですか、聖女様!」
エマは目を丸くしていた。
驚きの光景を目にした顔になっていた。
「白い子供たちのお肌が、ツヤツヤになってます。
清潔感もグッと増してーー正直、子供には過ぎた扱いですわ!」
「ヤベッ!
さすがは、オンナってこと?
やっぱ、気になる?」
「なりますよ!
たった一日だけで、こんなに変わるとは。
さすが〈聖女様〉は違う!」
「マジで、エマさんが色々と素材を用意してくれたおかげなんだけどね」
小振りの瓶や壺を、ズラッとテーブルに並べる。
昨晩、聖魔法で精製した基礎化粧品だ。
ちょうど整理し終えた頃に、子供たちが駆け帰ってきた。
ピッケとロコが、嬉しそうに声をあげた。
「これ!
ヒナ姉ちゃんが、ぼくの顔に魔法のお水をつけて、マッサージしてくれたんだ。
気持ち良かった」
「あたいの顔も! いい匂い。
ヒナ姉ちゃん、大好き」
「それは、良かったわね」
家政婦のエマが、優しくうなずいた。
そして、ヒナの方へ熱い眼差しを向ける。
「これ、昨晩、入浴前にいただいた〈しゃんぷ〉とは違いますわね?」
「ええ。
お水で洗顔したあと、化粧水とクリームを使ったの」
青白いクリームが詰められた壺を取り出す。
聖魔法の効果なのか、地球での使用よりはるかに効き目があるクリームとなっていた。
ワタシは決心して、膝をパシンと打った。
「わーった!
今からエマさんに、ガチ目に、お肌のお手入れの仕方、教えてあげちゃう。
まずこれ、化粧水っていうんだぁ。
ヒアルロン酸っていう、お肌をしっとりさせる成分がはいってる(と思う)。
お肌に外から刺激や汚れを防いでくれるセラミドって成分もある。
そしてね、この化粧水を両手で掬って、パシャパシャするの。
これ、少しのお水で、洗顔するマジの要領ね」
ふんふん、とエマはワタシが実演するさまを、両眼を皿のようにして見詰めている。
ワタシは実演販売員になった気分で、説明を続行した。
「でね、化粧水を顔につけたあとは、このクリームを指に取るの。
そうね、第一関節で、軽くちょっと掬う感じね。
それを手に取って、手のひらで温めながら、薄ぅくクリームを伸ばす感じで、お顔に塗りつけるの。
そうそう。
肌荒れや乾燥が気になるところには、クリームをさらに重ねて塗ると良いわね。
ーーあと、これはアロマオイル」
ワタシは緑の小瓶を引き寄せる。
蓋を開けて、エマの鼻に近づける。
「ほら、良い香りでしょ?
これはオレンジの皮を入れてあるんだから。
あっちのはラベンダー。他のも色々と。
この香りが強い原液をちょっとだけ、油に垂らすんだ。
香り付けにね!
それで、油をこうしてーー」
エマの服の袖を捲り、二の腕に油を塗る。
そして、そのままワタシは、エマの身体のマッサージを始めた。
「ほら、オレンジの香りがするっしょ?
リラックス効果があるの。
こうやって、肩や首筋、鎖骨あたりをマッサージするんだぁ。
足の腿やふくらはぎも、この油をつけて揉んであげると良いんだよ、マジで」
ーーなどと言いながら、エマの身体をほぐしてあげた。
すると、驚くべき現象が起こった。
エマの褐色の肌が、光り輝き始めたのだ。
しかも、うっすら緑色に。
ワタシは妙に得心が入った。
(やっぱ、緑かぁ。
正直、肌の色としては、ワタシの好みじゃないんだけどーーそれほどこっちの人には、緑色と相性が良いってこと?)
エマは両眼を瞑っているから、自分の身体が光っていることには気づいていないようだ。
でも、今にも眠りそうな、心地よさげな表情をしているから、気持ち良くは感じているのだろう。
しばらくして、エマは椅子から立ち上がると、眠ってはいけないとばかりに、両頬をパンと叩いた。
「さあ、朝食のお時間ですよ。
旦那様がお待ちです」




