表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
206/290

◆18 〈聖魔法〉の力、そしてヒナの全身に電流が走った件

 ワタシ、白鳥雛しらとりひなは、〈救世の聖女様〉として、異世界のパールン王国に派遣された。

 が、聖女様の役目を、「カレン•ホワイト」と自称する金髪の白い美少女に奪われた挙句、王城を追い出され、街中のパーカー商会という店舗で働くことになった。

 おまけに、『異世界から来た〈聖女様〉だったら、聖魔法で薬が作れるはずだろ』と店主から無茶振りされてしまった。


「原料は、コイツを使うのさ」


 店主のパーカーさんの手のひらから、サラサラと白い粉が袋に落ちていた。


 ワタシは目を(またた)かせる。


「それは塩?」


 でも、その割には白くない。

 色は白っぽいけど、灰色だ。


 パーカーさんは顔を赤くして、怒鳴(どな)った。


「バカ。塩を使っちゃ、もったいないだろ!

 灰だよ、灰!

〈聖魔法〉を込めた灰を、酒や水に溶かして飲むんだ。

 普通の灰でも効くんだ。

〈聖魔法〉が加われば、ソイツは立派な薬だろ?」


 彼の話によれば、コッチの世界では、灰を薬剤にも使っているとのこと。

 

 ちょいと本部と交信したら、マサムネいわく、古代ローマと同じなんだそうだ。

「細胞を傷付けるだけ」なんだそうだけど、コッチでは今でも立派にお薬扱いだった。

 ついでに言えば、灰にも様々なブランドがあるようで、パラリア山産が最も高品質で、ドンペタ鉱山産、デオラス海底火山産などと、色々あって、値段はピンからキリまであるらしい。


「薬にならなくても、実験する価値はある。

 そうだ、なんだったら、灰はもったいない。

 まずは小麦から試して、様子を見てみよう!」


 ーーとのことだ。


 パーカーさんは、どうやら低品質の灰を持て余しており、聖魔法で薬として価値を高めようとしているようだった。


 ワタシは軽く肩を落とすと同時に、頬をふくらませた。


(マジで信用されてねーんだな、ワタシ……)


 実際、彼はワタシが〈聖女様〉とは思っていないんじゃね?

 クソ真面目なハリエット(兄貴)が(だま)されてるんじゃないかと、眉唾(まゆつば)に思っている?

 だから、灰よりも安価な小麦粉で、聖魔法の実験をした方が良いのでは、と言い出した?


 このまま言いなりになるだけってのは癪だけど、だからって、このまま答えを渋ってると、パーカーのオッサンはさらに商売っ気を出してきて、


「灰もタダってわけにはいかない」


 とか言い出しそーな気がする。


 ーーでも、ここで何も出来ないってんじゃ、ワタシの『聖女伝説』も始まらない。

 それに、

『薬を聖魔法で作って、貧しい人々にも分け与える』

 ってーーなんだか、いかにも〈聖女様〉っぽくね?


 ワタシは腹を(くく)った。


「じゃあ、ワタシ、灰の代金を払うからさぁ。

 とりま、それで薬が作れるかどうか、試させて?」


 これも人助けにつながるかもだし。

 ワタシの聖魔法、どんな力があるか見せてもらおーじゃないの。


 大袋一つ分の灰をツケで買う。

 そこから、まずは手の平に、灰をひと摘み取り出す。

 そして、力いっぱい、念を込めた。


(えいっ……!!)


 新一さんによれば、〈聖魔法〉の効果は、それぞれの世界で信仰されている宗教によって違う、とのことだった。

 そして、この世界の〈聖魔法〉は、(現地人(パーカー)が言うには)鎧兜や杖といった物体に力を込めることができる、という。


 だから、今、ワタシは、ひと掴みの灰に〈聖魔法〉を込めている。

 まずは本当に、物体に魔力を込めることができるかを検証しなければ。


 ワタシの両手から、ゆっくりと青白い光が出る。

 どうやら、この光が、この世界での〈聖魔法〉発動の(あかし)のようだ。


 やがてワタシの手は輝きを失い、代わりにひと掴みの灰色の粉が、青白く光り始めた。

 どうやら灰に〈聖魔法〉の魔力が宿ったらしい。


 灰の輝きは次第に薄まっていき、青みがかった粉が出来上がった。


「やった!

 あとはこの青い灰を飲んでみれば、効果がわかるんじゃね?

〈薬〉になってるかどうかってのも!」


 ワタシが放つ〈聖魔法〉は、物体に力を込められることは検証できた。

 あとは〈薬〉として、疲労回復・体力増強の効果があるかどうかを確かめるのみーー。


 ところが、パーカーさんは〈聖魔法〉入りの灰を飲もうとしない。

 ちょっと物珍しそうに(つま)んではみたものの、サラサラともう片方の手のひらに落とすばかりで、口の中に入れようとしない。


 ワタシは、マジで(あき)れた。


「なに? 飲まないの?」


『〈聖魔法〉を灰に込めて、〈薬〉を作れ』って、自分で振っておいて、自分は飲まないってーーなんか、タチの悪い悪徳業者みたいじゃね?


「ヒナちゃんが飲んでよ」


 とまで言い出す始末だ。


「なに、それ。信用ないにもほどがあるっしょ!?」


 ワタシは唇を(すぼ)める。


 でも、自分の魔法で作った薬だ。

 ワタシはワタシを信じてる。

 だから、ワタシはコイツを飲むことにした。


 青くなった灰を両手いっぱいに(すく)って、水と一緒に一気に流し込む。

 ちょうど喉が渇いていたから、素直に飲み込めた。


 効き目はすぐにわかった。

 瞬時に全身に力が込み上げてきたかと思うと、すぐさまスッとした。

 身体中にさわやかな風が吹いたようになった。

 自画自賛しても恥ずかしくないーー薬はそれほどの出来だった。


「わあ、〈聖魔法〉って、マジやべえ!

 すっかり疲れが取れちゃった!?」


 元気を確かめるために、ワタシは両腕をブンブン勢い良く振り回す。

 四肢の可動域が、一気に広がったかんじだ。


 それでもパーカーさんは、腕を組んで渋い顔をする。


「う〜〜ん。

 そうは言っても、自己申告じゃなあ……」


 どんだけ信用ないのよ?

 ワタシはさすがにムクれた。


「やっぱ、パーカーさん自身が飲めば?

 飲まないと、効果がわかんないでしょ」


 それでも、パーカーさんは気後れする。

 顔を()らすと、後ろの方を向いて大声をあげた。


「おおい、マオ!

 こっちに来い」


「はぁい。いかがなさいました、旦那様!」


 若い声とともに、青い目をした白人少年が姿を現す。

 一目見ただけで、ワタシの身体に電流が走ったようにビリビリきた。


(わっ、なに、この男の子!?

 ゲキ可愛(かわ)じゃね?

 マジ天使!)


 ワタシは、思わず口許に(あふ)れた(よだれ)を、(ひじ)(ぬぐ)った。

 それほど、マオという少年は知的で優しげ、それでいて(しん)があるかんじがする、まさにワタシ好み、どストライクの男の子だったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ