◆18 〈聖魔法〉の力、そしてヒナの全身に電流が走った件
ワタシ、白鳥雛は、〈救世の聖女様〉として、異世界のパールン王国に派遣された。
が、聖女様の役目を、「カレン•ホワイト」と自称する金髪の白い美少女に奪われた挙句、王城を追い出され、街中のパーカー商会という店舗で働くことになった。
おまけに、『異世界から来た〈聖女様〉だったら、聖魔法で薬が作れるはずだろ』と店主から無茶振りされてしまった。
「原料は、コイツを使うのさ」
店主のパーカーさんの手のひらから、サラサラと白い粉が袋に落ちていた。
ワタシは目を瞬かせる。
「それは塩?」
でも、その割には白くない。
色は白っぽいけど、灰色だ。
パーカーさんは顔を赤くして、怒鳴った。
「バカ。塩を使っちゃ、もったいないだろ!
灰だよ、灰!
〈聖魔法〉を込めた灰を、酒や水に溶かして飲むんだ。
普通の灰でも効くんだ。
〈聖魔法〉が加われば、ソイツは立派な薬だろ?」
彼の話によれば、コッチの世界では、灰を薬剤にも使っているとのこと。
ちょいと本部と交信したら、マサムネいわく、古代ローマと同じなんだそうだ。
「細胞を傷付けるだけ」なんだそうだけど、コッチでは今でも立派にお薬扱いだった。
ついでに言えば、灰にも様々なブランドがあるようで、パラリア山産が最も高品質で、ドンペタ鉱山産、デオラス海底火山産などと、色々あって、値段はピンからキリまであるらしい。
「薬にならなくても、実験する価値はある。
そうだ、なんだったら、灰はもったいない。
まずは小麦から試して、様子を見てみよう!」
ーーとのことだ。
パーカーさんは、どうやら低品質の灰を持て余しており、聖魔法で薬として価値を高めようとしているようだった。
ワタシは軽く肩を落とすと同時に、頬をふくらませた。
(マジで信用されてねーんだな、ワタシ……)
実際、彼はワタシが〈聖女様〉とは思っていないんじゃね?
クソ真面目なハリエット(兄貴)が騙されてるんじゃないかと、眉唾に思っている?
だから、灰よりも安価な小麦粉で、聖魔法の実験をした方が良いのでは、と言い出した?
このまま言いなりになるだけってのは癪だけど、だからって、このまま答えを渋ってると、パーカーのオッサンはさらに商売っ気を出してきて、
「灰もタダってわけにはいかない」
とか言い出しそーな気がする。
ーーでも、ここで何も出来ないってんじゃ、ワタシの『聖女伝説』も始まらない。
それに、
『薬を聖魔法で作って、貧しい人々にも分け与える』
ってーーなんだか、いかにも〈聖女様〉っぽくね?
ワタシは腹を括った。
「じゃあ、ワタシ、灰の代金を払うからさぁ。
とりま、それで薬が作れるかどうか、試させて?」
これも人助けにつながるかもだし。
ワタシの聖魔法、どんな力があるか見せてもらおーじゃないの。
大袋一つ分の灰をツケで買う。
そこから、まずは手の平に、灰をひと摘み取り出す。
そして、力いっぱい、念を込めた。
(えいっ……!!)
新一さんによれば、〈聖魔法〉の効果は、それぞれの世界で信仰されている宗教によって違う、とのことだった。
そして、この世界の〈聖魔法〉は、(現地人が言うには)鎧兜や杖といった物体に力を込めることができる、という。
だから、今、ワタシは、ひと掴みの灰に〈聖魔法〉を込めている。
まずは本当に、物体に魔力を込めることができるかを検証しなければ。
ワタシの両手から、ゆっくりと青白い光が出る。
どうやら、この光が、この世界での〈聖魔法〉発動の証のようだ。
やがてワタシの手は輝きを失い、代わりにひと掴みの灰色の粉が、青白く光り始めた。
どうやら灰に〈聖魔法〉の魔力が宿ったらしい。
灰の輝きは次第に薄まっていき、青みがかった粉が出来上がった。
「やった!
あとはこの青い灰を飲んでみれば、効果がわかるんじゃね?
〈薬〉になってるかどうかってのも!」
ワタシが放つ〈聖魔法〉は、物体に力を込められることは検証できた。
あとは〈薬〉として、疲労回復・体力増強の効果があるかどうかを確かめるのみーー。
ところが、パーカーさんは〈聖魔法〉入りの灰を飲もうとしない。
ちょっと物珍しそうに摘んではみたものの、サラサラともう片方の手のひらに落とすばかりで、口の中に入れようとしない。
ワタシは、マジで呆れた。
「なに? 飲まないの?」
『〈聖魔法〉を灰に込めて、〈薬〉を作れ』って、自分で振っておいて、自分は飲まないってーーなんか、タチの悪い悪徳業者みたいじゃね?
「ヒナちゃんが飲んでよ」
とまで言い出す始末だ。
「なに、それ。信用ないにもほどがあるっしょ!?」
ワタシは唇を窄める。
でも、自分の魔法で作った薬だ。
ワタシはワタシを信じてる。
だから、ワタシはコイツを飲むことにした。
青くなった灰を両手いっぱいに掬って、水と一緒に一気に流し込む。
ちょうど喉が渇いていたから、素直に飲み込めた。
効き目はすぐにわかった。
瞬時に全身に力が込み上げてきたかと思うと、すぐさまスッとした。
身体中にさわやかな風が吹いたようになった。
自画自賛しても恥ずかしくないーー薬はそれほどの出来だった。
「わあ、〈聖魔法〉って、マジやべえ!
すっかり疲れが取れちゃった!?」
元気を確かめるために、ワタシは両腕をブンブン勢い良く振り回す。
四肢の可動域が、一気に広がったかんじだ。
それでもパーカーさんは、腕を組んで渋い顔をする。
「う〜〜ん。
そうは言っても、自己申告じゃなあ……」
どんだけ信用ないのよ?
ワタシはさすがにムクれた。
「やっぱ、パーカーさん自身が飲めば?
飲まないと、効果がわかんないでしょ」
それでも、パーカーさんは気後れする。
顔を逸らすと、後ろの方を向いて大声をあげた。
「おおい、マオ!
こっちに来い」
「はぁい。いかがなさいました、旦那様!」
若い声とともに、青い目をした白人少年が姿を現す。
一目見ただけで、ワタシの身体に電流が走ったようにビリビリきた。
(わっ、なに、この男の子!?
ゲキ可愛じゃね?
マジ天使!)
ワタシは、思わず口許に溢れた涎を、肘で拭った。
それほど、マオという少年は知的で優しげ、それでいて芯があるかんじがする、まさにワタシ好み、どストライクの男の子だったのだ。




