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◆15 パーカー商会、そして塩と金が……!?

 王都の大通りに面した、大商店パーカー商会ーー。

 その店舗の外れで、白鳥雛しらとりひな(ひそ)かに東京本部と連絡を取った。

 その過程で、ナノマシンからの特別映像により、現在の王宮内の様子を脳内で視聴した。

 結果、(ヒナ)の代わりに〈聖女様〉になりおおせた金髪の美少女が、魅了(チャーム)魔法を駆使して、王子や貴族、騎士たちを籠絡(ろうらく)するさまを観た。


 一日も経ないうちに、同日同時刻に召喚されたにも関わらず、二人の〈聖女様〉の立ち位置が、大きく(へだ)たってしまっていた。


 一方の〈白い聖女様〉は王子様から溺愛され、魅了(チャーム)によって、王宮内での権力を着実に確かなものにしつつあった。

 かたやもう一方の〈黄色い聖女様〉であるヒナは、聖女と認められないまま王宮から追放され、緑騎士とともに街中をブラつき、ようやく民間の店舗での働き口を得たばかりであった。


 だが、ヒナは(あせ)ってはいなかった。

 ますます、「ヤベッ! やっぱワタシ、〈(マジ)の聖女様〉じゃね!?」という確信を深め、新たな闘志を燃やしていた。


 事態は刻一刻と、今も変化し続けている。


 緑騎士ハリエットは、ヒナに対し、深々とお辞儀をしてから立ち去った。

 王宮でのお仕事が、立て込んでいるらしい。


 もちろん、ハリエットは、現在、王宮内で〈白い聖女様〉であるカレン•ホワイトが魅了(チャーム)魔法を駆使して王子や騎士たちを言いなりにしているという現状を知らない。

 それでも、これからすぐに、嫌でも現実を知ることになるであろう。


 そしてヒナにとっては、王宮のお目付け役がいなくなったといえる。

 けれども、彼女の心情としては、イケメンを間近で鑑賞する機会を失って、ちょっとガッカリといった具合で、いたって能天気だ。


 とはいえ、闘志を新たにしたばかりである。

 ふん、とヒナは気合を入れた。


(ヤバめなのは、超わかってる。

 とりま、身体、動かして、なんとかする!)


 白鳥雛(ワタシ)は、さっそく『パーカー商会』の店頭に出る決心をした。


 パーカー商会で扱う商品は、多岐(たき)にわたっていた。

 日本の小売店業種の(くく)りで言えば、食品を扱う大型雑貨店といったところか。

 それぞれの商品が、ザルに入ってる。

 店頭では、小麦粉や片栗粉、砂糖、胡椒などの香辛料を販売していた。


 昼間から、大勢のお客様が、ザルを前に群がっている。

 お客様の何人かは、ヒナの存在に気がついた。


「なによ、この店員。気持ちの悪い肌をしてるわね……」


「黒くもなし、白くもなし。黄色って……?」


「嫌だわ。売ってる食べ物まで不味くなる」


 おおむね、大不評だ。

「ぺっ!」と、唾を吐き捨てるオバチャンまでいた。


 厳しい反応である。

 が、さすがは大店の従業員は、教育が行き届いていた。

 来客の不遜(ふそん)な態度にも、慣れているようだった。

 ササっとワタシを店の奥に下がらせると、愛想笑いを浮かべて、お客様に新商品の口上を始めたりして、珍奇な新人から注意を()らしていく。


 同時に、パーカーさんが、ワタシの腕を掴んで、さらに奥へと引っ張った。


「悪いな、ヒナちゃん。

 俺は構わないんだが、客がな。

 騎士職の兄貴と違って、俺は商人。客商売なんで」


 パーカーさんは気軽な口調で、ワタシの耳許でささやく。

 とても〈聖女様〉に対する言葉使いではない。

 兄のハリエットがいないと、素の言葉使いが出るようだ。


「お得意さんに、逃げられたくない。

 とりあえず、陰に引っ込んでおいてくれ。

 それから、コイツを(かぶ)んな」


 緑色のヴェールが付いた頭巾を、頭にかけられた。

 ついで、女性従業員の手によって、長袖の上下に着替えさせられた。

 たしかに、これで肌の色を誤魔化せる。

 店内は薄暗いから、肌が黄色とはバレにくくなった。


 パーカーさんは、ワタシの姿を上から下まで眺め渡してから、バンと背中を叩いた。


「これはこれで、似合ってるぞ。

 気を悪くしないでくれ。

 幸い、店内で働く方が、ウチじゃあ格上なんだ。

 言ってみりゃ、昇格だ」


 パーカー商会では、見習いさんほど、店頭に立たせるそうだ。

 計算が立ち、大きな金額が任せられるようになってから、徐々に奥に引っ込んでいって、大口のお得意様を相手に商売できるようになる。


「実際、パーカー商会(ウチ)の売り上げの大半は、店の奥で稼いでる」


 店舗奥の様子を紹介しながら、パーカーさんは胸を張った。


 薄暗い中に、幾つものランプが輝いている。

 見回せば、ワタシは多くの袋に取り囲まれていた。

 それぞれの麻袋に、白や灰色、赤色をした粉が、大量に入っている。


(まさか、いかがわしいクスリ!?)


 ワタシは恐る恐る白い粉を指につけ、舐める。


(あ、これーー塩だ!)


 そういえば、店頭に並んでいるザルには、塩がなかった。


「どーして、塩を奥で売ってるんですかぁ?

 店頭に並べた方が、良くね?」


 小麦粉とか胡椒なんかは、袋でドッサリ並んで置かれていた。

 だから()いたのだけど、パーカーさんは青褪(あおざ)め、声を張り上げた。


「塩みたいな高級なもの、無造作に店頭になんか並べるはずないだろ!

 ーーあ、いらっしゃい! いつも、ご贔屓(ひいき)に……」


 緑色の肌に豪奢な衣装を着込んだ、見るからに豊かそうなお客様が、店の奥にまで、従者を引き連れて入り込んできた。

 お得意様らしい。


 パーカーさんはそのまま、さらに奥の部屋にまで案内する。

 店員に命じて、麻袋から塩を(ます)いっぱいによそって、運ばせる。


 その枡を目にして、お客様は、満足そうな笑みを浮かべた。

 従者に命じて、袋を出させ、無造作にブツを取り出す。

 そのブツは、光り輝く金塊(きんかい)だった。

 人の拳ほどはある大きさだ。


(ええっ!

 (ゴールド)よね、コレ!?

 ヤバくね!?)


 ワタシは驚いて目を()いたが、他の面々は慣れた様子だった。


 パーカーさんは笑顔で金塊と塩の入った枡を手に取ると、机にあった天秤にかける。

 ちょうど重さが釣り合っていることを確認すると、塩を袋詰めにしてお客様に手渡す。

 そして同時に、パーカーさんは金塊の方を布で包んで、小さな箪笥に仕舞い込む。


 ーーこれで取引が成立したようだった。


 この店では、塩と金塊が、同じ重さで取引されていたのである!


 ワタシは両手を口に当てて、息を呑んだ。


(ちょっと、待って!

 ヤバくね!?

 フツーの塩が、ガチで金と同じ重さで交換なんて、マジ!?)

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