◆14 見てな、ガチで〈聖女様〉の地位をひっくり返してやんよ!
東京異世界派遣会社のモニターには、信じられない光景が映し出されていた。
派遣バイトの白鳥雛の視点から離れて、突然、王宮内の様子が上映された。
しかも、そこでは、〈聖女様〉認定されて王宮に居残った、金髪の白い女の子が、王子様と濃厚な口付けを交わしていた。
あまつさえ、キスを終えた王子様が、白い金髪美少女に跪いたのである!
「おいおい、いくら聖女様が相手だからって、へりくだりすぎてないか!?
仮にも王子様だろ?」
声をあげて動揺するのは、東堂正宗だけではない。
星野ひかりも、モニター画面を指差して指摘する。
「見て。王子だけじゃないわ。
王子にお付きの者たちの態度も、おかしいわよ。
この雰囲気ーー既視感がある……」
〈聖女様〉となった白い女の子を前にして、王子が跪く。
それだけではない。
二人を中心にして、少なくとも五、六人の騎士や貴族たちが取り囲み、平伏していた。
みなの目が、妖しく光っている。
これに似た光景を、東京本社モニターで、三人は見たことがあった。
今度は、星野新一が立ち上がって、声をあげた。
「そうだ。ヒナちゃんの個性能力(ユニーク•スキル)〈魅了〉だ!」
以前、白鳥雛が〈魔法使い〉として派遣されたとき、〈魅了〉を使用した。
その術中にかかった者たちが、あんなふうにーー〈魔法使いヒナ〉を、あたかもご主人様として、崇め奉るようになっていた。
ということはーー。
あの〈白い聖女様〉は、〈魅了〉の魔法で王子たちを操っている!?
「この映像ーーヒナに見せろよ。そうしたらーー」
うわずった声を、正宗があげた、その瞬間ーー。
「ふん! 見てるわよ」
と、いきなりモニターから、ヒナの声が響いてきた。
ヒナの方から、通信してきたのだ。
「ようやく、交信する気になったのか!」
正宗が安堵の吐息を漏らすと、ヒナは文句を言う。
「なに言ってんの?
ワタシ、何度も連絡しよーとしたんだけど、つながらなかったじゃん?
そっちでワタシのこと、無視したんじゃね!?」
ヒナの言いがかりに、新一が、
「それはない。誤解だよ、ヒナちゃん」
と、間髪入れず、フォローする。
ヒナは尖った口調で、そのまま問いかける。
「でさぁ、これ、マジで王宮の映像よね。
アンタたちが、送りつけてきたの?」
正宗が当惑気味に、応える。
「いやーーなんだか、急に映像が切り替わっちゃって……ソッチでも映ってるのか?」
「ええ。ワタシの頭の中でね。
音声はねーけどぉ……。
でも、これで、フフフフ……」
ヒナのほくそ笑む声が、モニターから流れる。
「これで、勝ちじゃね!?
ワタシが、ガチの〈聖女様〉ってことよね!」
ヒナの突然の宣言に、正宗が、
「なんでだよ!?」
とツッコミを入れ、以降、二人の会話となった。
「だって、あんなの、マジで〈聖女様〉の振る舞いじゃなくね!?」
「バカ。なに、カマトトぶってるんだ!?」
「? かまととーー? なに、ソレ?」
「悪い。オヤジ世代の死語だ。
ーーそれよりも、ウカウカ(これも死語)してらんないぞ。
相手は悪どい魔法を使って、王子たちを取り込もうとしてるんだ。
幸い、オマエも〈魅了〉が使える。
魔法能力で、あの金髪少女に対抗しろよ。
王子はすでにあの女の子に籠絡されてるようだけど、まだ王様が残ってる。
〈魅了〉合戦なら、おまえも負けないはず!」
「嫌よ。ワタシ、〈魅了〉は使わないって言ってるでしょ!」
「悪かったよ、おまえをからかったりして。
だからーー」
「心配なんか、いらねーし!
あのお人形さんが、お偉いさんから手懐けようってんなら、ワタシは街角から地道に『聖女伝説』ってのを作ってやるんだから!
見てな、ガチで〈聖女様〉の地位をひっくり返してやんよ!」
やはり、ヒナに聞く耳はなかった。
東京本社にいる三人は、ほとんど同時に深い溜息をつくしかなかった。




