表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/290

◆11 王都でデート!

〈未公認聖女(?)〉のワタシ、白鳥雛しらとりひなと、緑騎士ハリエットの二人が、並んで王都の街中を歩く。


 ワタシは、初めのうちは周囲をキョロキョロ見回して、往来を行き交う人々の姿ばかり見ていた。


 王宮内では緑の人ばかりだったが、街中では緑の人はほんとうに少なかった。

 たとえ緑人がいたとしても、たいがいは人目につかないありようをしていた。

 ヴェールを顔にかけて、馬や牛、巨大トカゲ(みたいな?)に乗ってたり、馬車の窓から顔が(のぞ)いているだけだったり。

 歩いている緑の人がいても、従者が何人もくっついている。

 小学生低学年くらいの緑人の男の子が、五、六人の大人の従者を、黒白取り混ぜてゾロゾロ引き連れている姿は、なんだか笑えた。


 ちなみに、従者のほとんどが黒人だった。

 というか、街中に歩く人たちの八割が黒い人だった。

 彼、彼女らのほとんどが、入墨(いれずみ)みたいなのを手足や顔に付けていた。

 何かの模様だ。

 それぞれに意味があるのかもしれないけど、ワタシは興味ない。

 ただ、顔の造形にあったデザインをしていたので、地球人が口紅塗ったり、アイシャドウを入れたりするのと似たようなもんかも。


 白粉(おしろい)をつけてる女性は、見かけなかった。

 だいたい、女性がいても、その顔があまり見えないのだ。

 日差しがきついせいもあってか、彼女らのほとんどがヴェールで顔を覆っている。

 真正面からじゃないと、顔も良く確認できない。

 もちろん、彼女たちが顔につけている白や黄色の模様のデザインも、確かめ(がた)い。

 たしかに、地球でも、秘境に住む人なんかは、身体中に入墨してたりする。

 けれど、こんなに大勢で、しかも中世ヨーロッパ風の街中を、入墨した黒人さんが大勢闊歩(かっぽ)してるさまを見ると……う〜〜ん、異世界だなって思う。


 さて、いいかげん、視線の向きを変えて、街並みや道路を見なきゃね!

 そーなのよ。

 ワタシは今、イケメン騎士とデートーーいや、〈街歩き〉に出てんだから!


 石畳みの地面に、靴音がコツコツと鳴る。


(ああ〜。こーゆう街中を歩いてみたかったのよ、ワタシ)


 ワタシの心は、ウキウキと(はず)んだ。


 黄金色に焼きあげられた、パンが山積みになっているパン屋さん。

 白生地にカラフルに模様付けられた、衣服店。

 濃い原色の様々な花々が並べられている、フラワーショップーー。


 ワタシは、見たこともない形や色をした、パンや花、衣服に、目を奪われる。

 特に豪華に咲き誇った花々が気に入った。

 フラワーショップに駆け寄って、店頭に並ぶ花々を指さした。


「ねえ、あれ、ヤバくね!?

 ハリエットさん!

 綺麗なお花!

 初めて見たような?

 ガチで濃い色してんじゃん、どいつもこいつも」


「そうですか。

 この国では、女性の瞳の色に合わせて、花を贈る習慣があるんです。

 ヒナ様の瞳の色は、黒ですね。

 とても珍しくて、美しいと思います」


「えっ。目の色にあわせる!?」


 そう言われて、歩いている大勢の黒人女性、そしてわずかに見かける白人と緑人の女性たちの目を、観察してみた。


 瞳の色はみな、それぞれ違っていた。

 グリーン、オレンジ、レッド、イエロー、パープル、ブラウン……。

 召喚された時から感じていた違和感が、氷解した感じだ。


(そうか、みんな瞳の色が、様々だったんだね。気付かなかった……)


 髪の色も様々な色味で、瞳の色と同じ人は、見かけない。

 白人はそうでもないが、黒人と緑人は、それぞれの肌に合わせた色合いの着こなしをしていて、瞳の色が差し色になっている。

 その色に合わせた宝石を身につけていて、豪華で美しい(よそお)いだ。


(街がカラフルに(はな)やいで見えてんのは、オンナが美しいからってわけね。

 ナットクだわ!)


 感心して、辺りを見回す。


 そこで、ようやく気付いた。

 街を歩く人々のみなが、逆にこちらをチラチラ盗み見ていることに。

 ワタシの姿が、珍しいらしい。


 そういえば、ワタシに目を()ってるのは、黒い人と緑の人ばかり。

 白い人はみんな(うつろ)な目をしていて、ワタシに興味がないみたい。


 大通りに出ると、かなりの数の白人を目にするようになった。

 けれども、みな労働をさせられていて、優雅にお散歩を楽しんでいる者はいなかった。

 働くにしても、表立って客引きやウエイトレスをしているのは黒人女性ばかり。

 白人女はもっぱら店の掃除や雑用をこなして奥に引っ込んでおり、白人男は荷物を運んだり、家畜を連れる役を担っていた。


(豊かに(うるお)ってんのは、黒と緑のようね……)


 グレーの簡素な服に身を包み、働いている白い肌の人々。

 彼らは一様に金髪に(あお)(ひとみ)をしている。

 基本的な色合いは、あの〈聖女様〉になりおおせた美少女ちゃんとそんなに変わんない。

 もっとも、美少女ちゃんは(かがや)かんばかりの、()き通るような肌だったけど、街中で見かける白い人たちは(くす)んだかんじがする。

 ()せていて、その表情は暗く、疲れが見えた。

 栄養が足りていないのか、肌にも(つや)や張りがなく、荒れている。


「あの白い人たちは、みんな同じ服装だけど、どうして?」


「ああ、彼らはパールン王国の正式な国民ではないのです」


 騎士ハリエットは、顔を(くも)らせた。

 彼の説明によると、王国民と準王国民に分かれていて、白人は準王国民になるそうだ。

 もともと、街の外れの荒野に住んでいた人たちで、どうしても街の中で暮らしたい人々が、国王の許しによって、街中に住まわせてもらっているとのこと。


「そもそも、どうして王国(ココ)では、白い肌は嫌われてるんですか?」


「もとより白人たちは〈荒野の民〉ですし、準国民扱いーーそれに、白い肌は〈悪魔の肌〉ですからね」


「あ、悪魔ーーですか!? そこまで嫌われてる?」


「ああ、私自身は違いますよ。

 私は、白い肌であっても同じ人間なんですから、他の肌の者と同じに遇するべきだと思っております。

 ですが、長年の風習と申しますか、昔の〈人魔大戦〉以来の名残りや、現実的に冷遇され続けた結果による貧富の差などがありまして、白人の方はどうしても……」


 もっとも、こっちの世界にも人権派はいて、


『肌の色に関係なく、みんな平等!』


 と訴えている連中もいるそうだけど、やっぱり白人は差別されてる。

 居住地も決められていて、仕事も緑人・黒人の下働きがほとんどだ。

 服や食料も全て国からの支給品で、自分で好きに買い物もできない。

 それでも荒野で暮らすより、快適な生活が送れるので、都市生活を希望する者が後を絶たないのだそうだ。


 緑騎士は頭を振りながら、教えてくれた。


「長年、荒野で住み続けたためか、白人(かれら)の寿命は五十年ほど。

 長く生きても六十年です。

 黒人は八十年、われわれ緑人は百二十年は生きます」


「そんなに、寿命に差があるんだ」


「一番長生きする種族は、魔族や悪魔ですがね」


 ワタシは驚いて、思わず口に手を当てた。


(うわー。マジで魔族とか悪魔とかがいる設定かあ……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ