◆11 王都でデート!
〈未公認聖女(?)〉のワタシ、白鳥雛と、緑騎士ハリエットの二人が、並んで王都の街中を歩く。
ワタシは、初めのうちは周囲をキョロキョロ見回して、往来を行き交う人々の姿ばかり見ていた。
王宮内では緑の人ばかりだったが、街中では緑の人はほんとうに少なかった。
たとえ緑人がいたとしても、たいがいは人目につかないありようをしていた。
ヴェールを顔にかけて、馬や牛、巨大トカゲ(みたいな?)に乗ってたり、馬車の窓から顔が覗いているだけだったり。
歩いている緑の人がいても、従者が何人もくっついている。
小学生低学年くらいの緑人の男の子が、五、六人の大人の従者を、黒白取り混ぜてゾロゾロ引き連れている姿は、なんだか笑えた。
ちなみに、従者のほとんどが黒人だった。
というか、街中に歩く人たちの八割が黒い人だった。
彼、彼女らのほとんどが、入墨みたいなのを手足や顔に付けていた。
何かの模様だ。
それぞれに意味があるのかもしれないけど、ワタシは興味ない。
ただ、顔の造形にあったデザインをしていたので、地球人が口紅塗ったり、アイシャドウを入れたりするのと似たようなもんかも。
白粉をつけてる女性は、見かけなかった。
だいたい、女性がいても、その顔があまり見えないのだ。
日差しがきついせいもあってか、彼女らのほとんどがヴェールで顔を覆っている。
真正面からじゃないと、顔も良く確認できない。
もちろん、彼女たちが顔につけている白や黄色の模様のデザインも、確かめ難い。
たしかに、地球でも、秘境に住む人なんかは、身体中に入墨してたりする。
けれど、こんなに大勢で、しかも中世ヨーロッパ風の街中を、入墨した黒人さんが大勢闊歩してるさまを見ると……う〜〜ん、異世界だなって思う。
さて、いいかげん、視線の向きを変えて、街並みや道路を見なきゃね!
そーなのよ。
ワタシは今、イケメン騎士とデートーーいや、〈街歩き〉に出てんだから!
石畳みの地面に、靴音がコツコツと鳴る。
(ああ〜。こーゆう街中を歩いてみたかったのよ、ワタシ)
ワタシの心は、ウキウキと弾んだ。
黄金色に焼きあげられた、パンが山積みになっているパン屋さん。
白生地にカラフルに模様付けられた、衣服店。
濃い原色の様々な花々が並べられている、フラワーショップーー。
ワタシは、見たこともない形や色をした、パンや花、衣服に、目を奪われる。
特に豪華に咲き誇った花々が気に入った。
フラワーショップに駆け寄って、店頭に並ぶ花々を指さした。
「ねえ、あれ、ヤバくね!?
ハリエットさん!
綺麗なお花!
初めて見たような?
ガチで濃い色してんじゃん、どいつもこいつも」
「そうですか。
この国では、女性の瞳の色に合わせて、花を贈る習慣があるんです。
ヒナ様の瞳の色は、黒ですね。
とても珍しくて、美しいと思います」
「えっ。目の色にあわせる!?」
そう言われて、歩いている大勢の黒人女性、そしてわずかに見かける白人と緑人の女性たちの目を、観察してみた。
瞳の色はみな、それぞれ違っていた。
グリーン、オレンジ、レッド、イエロー、パープル、ブラウン……。
召喚された時から感じていた違和感が、氷解した感じだ。
(そうか、みんな瞳の色が、様々だったんだね。気付かなかった……)
髪の色も様々な色味で、瞳の色と同じ人は、見かけない。
白人はそうでもないが、黒人と緑人は、それぞれの肌に合わせた色合いの着こなしをしていて、瞳の色が差し色になっている。
その色に合わせた宝石を身につけていて、豪華で美しい装いだ。
(街がカラフルに華やいで見えてんのは、オンナが美しいからってわけね。
ナットクだわ!)
感心して、辺りを見回す。
そこで、ようやく気付いた。
街を歩く人々のみなが、逆にこちらをチラチラ盗み見ていることに。
ワタシの姿が、珍しいらしい。
そういえば、ワタシに目を遣ってるのは、黒い人と緑の人ばかり。
白い人はみんな虚な目をしていて、ワタシに興味がないみたい。
大通りに出ると、かなりの数の白人を目にするようになった。
けれども、みな労働をさせられていて、優雅にお散歩を楽しんでいる者はいなかった。
働くにしても、表立って客引きやウエイトレスをしているのは黒人女性ばかり。
白人女はもっぱら店の掃除や雑用をこなして奥に引っ込んでおり、白人男は荷物を運んだり、家畜を連れる役を担っていた。
(豊かに潤ってんのは、黒と緑のようね……)
グレーの簡素な服に身を包み、働いている白い肌の人々。
彼らは一様に金髪に蒼い瞳をしている。
基本的な色合いは、あの〈聖女様〉になりおおせた美少女ちゃんとそんなに変わんない。
もっとも、美少女ちゃんは輝かんばかりの、透き通るような肌だったけど、街中で見かける白い人たちは燻んだかんじがする。
痩せていて、その表情は暗く、疲れが見えた。
栄養が足りていないのか、肌にも艶や張りがなく、荒れている。
「あの白い人たちは、みんな同じ服装だけど、どうして?」
「ああ、彼らはパールン王国の正式な国民ではないのです」
騎士ハリエットは、顔を曇らせた。
彼の説明によると、王国民と準王国民に分かれていて、白人は準王国民になるそうだ。
もともと、街の外れの荒野に住んでいた人たちで、どうしても街の中で暮らしたい人々が、国王の許しによって、街中に住まわせてもらっているとのこと。
「そもそも、どうして王国では、白い肌は嫌われてるんですか?」
「もとより白人たちは〈荒野の民〉ですし、準国民扱いーーそれに、白い肌は〈悪魔の肌〉ですからね」
「あ、悪魔ーーですか!? そこまで嫌われてる?」
「ああ、私自身は違いますよ。
私は、白い肌であっても同じ人間なんですから、他の肌の者と同じに遇するべきだと思っております。
ですが、長年の風習と申しますか、昔の〈人魔大戦〉以来の名残りや、現実的に冷遇され続けた結果による貧富の差などがありまして、白人の方はどうしても……」
もっとも、こっちの世界にも人権派はいて、
『肌の色に関係なく、みんな平等!』
と訴えている連中もいるそうだけど、やっぱり白人は差別されてる。
居住地も決められていて、仕事も緑人・黒人の下働きがほとんどだ。
服や食料も全て国からの支給品で、自分で好きに買い物もできない。
それでも荒野で暮らすより、快適な生活が送れるので、都市生活を希望する者が後を絶たないのだそうだ。
緑騎士は頭を振りながら、教えてくれた。
「長年、荒野で住み続けたためか、白人の寿命は五十年ほど。
長く生きても六十年です。
黒人は八十年、われわれ緑人は百二十年は生きます」
「そんなに、寿命に差があるんだ」
「一番長生きする種族は、魔族や悪魔ですがね」
ワタシは驚いて、思わず口に手を当てた。
(うわー。マジで魔族とか悪魔とかがいる設定かあ……)




