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◆10 追放されて自由の身になった聖女様ってのは、ゆったりと過ごすって決まってっから。

 ワタシ、白鳥雛しらとりひなは、日本東京から異世界に〈聖女様〉として派遣された。

 にもかかわらず、自分ではなく、もう一人、ほぼ同時に召喚された、人形さんのように可愛くて美しい、白い肌の女の子が〈聖女様〉の扱いを受け、ワタシは王城から追い出されようとしていた。


 どうやら、ワタシばかりがおミソにされるにも原因があるっぽい。

 ワタシの肌が黄色く、こっちの世界では見かけないっていうのが、関わっているように思われる。

 ビックリしたけど、お城にいる人たちって、みんな緑色の肌をしてた。

 服装や建物が、シンデレラとか白雪姫といったおとぎ話の絵本のようなデザインをしてるのに、そこんところがザッツ異世界ってかんじ?


 実際、ワタシではなく、なぜもう一人の女の子ばかりが〈聖女様〉だと思われたかについて問いかけると、ワタシを〈謁見の間〉から出ていく際、エスコートしてくれた、緑の肌をしたハリエットと言う騎士サマが、懇切丁寧に教えてくれた。


「それはーーやはり、貴女様(あなたさま)の肌の色のせいかと思われます……」


 彼は申し訳なさそうな顔をしながらも、訥々(とつとつ)と語る。


「外国には赤い肌をした種族がいるとも聞き及んでおりますが、貴女様のように黄色い肌をした種族は、聞いたこともございません。

 わがパールン王国のみならず、隣国である共和国や帝国でも、見たことがございません」


「へー。緑以外の色もあるんだ?」


「もちろんです」


 じつは緑色の肌の方が、人口的には少数派。

 大半は黒、白いのは黒の五分の一くらいなんだそうだ。


「ほら。ご覧ください」


 ハリエットは、城外を指差す。

 目を細めると、たしかに、街を行き交う人々の大半が、黒い肌をしていた。

 白人もチラホラ見かけはする。

 それでも、黒人が圧倒的に多く、たしかに白人は少ないようだ。

 緑色の人は、王城の中にはやたらといるのに、街中では見かけない。


「緑色の肌は、支配階級の(あかし)なんです。

 平民であっても緑の肌をもって生まれて来たら、成人を期に爵位をもらえます。

 貴族の家に生まれても、緑色が薄かったり、黒や白だったら、平民に降下します。

 滅多とありませんがね」


「じゃあ、ワタシも平民扱いってこと?」


「いえ。召喚者であられる〈聖女様〉は別です。

 先代ーー五十年前の聖女様は、白い肌をしておられたと記録されております」


「そうよね。

 そうじゃないと、あの金髪の白い美少女も、聖女様扱いにはできないもんね」


「でも、貴女様は、見たこともない色の肌をしている……」


 イケメンにジロジロと見られて、恥ずかしい。

 なんとなく、両腕で身体を覆う。


(もう、面倒くさいわね。

 ナノマシンたちがちゃんと仕事してくれてたら、緑の肌でこの世界で登場できたのに。

 そうしたら、あの美少女ちゃんよりも重視されて、王子様も手を取ってくれたよね?)


 ヒナは舌の根も乾かないうちに、ナノマシンに対して悪態をつく。

 そんなヒナの内心の声を聴いたかのごとく、ハリエットは笑顔でポットを傾け、ヒナのカップに紅茶を注ぐ。


「たしかに私どもには、貴女の肌は不吉に見えます。

 でも、

『一見、魔に見える存在が聖であったり、聖に見える存在が魔だったりするものだ』

 と、マローン閣下もおっしゃっておられました」


 ほんと、ハリエットって、マジメくんなんだね。


「いいのよ、気にしないで。

 ワタシはワタシで、好きにやるから」


「そうですか。

 まだ、貴女様のお名前を伺っておりませんでしたね」


「私の名前はヒナ・シラトリです」


「ヒナ様ですね」


「はい。ヒナでいいです」


「よろしかったら、この街をご案内いたしましょう。

 お泊まりになるお宿も、まだ決まっておられないことでしょうし……」


〈謁見の間〉から追い出されただけではなく、やっぱりワタシは王城から追い出されることに確定しているみたい。

 でも彼、騎士ハリエットのおかげで、雨露ぐらいはしのげるよう、宿泊先を手配してくれるようだ。

 とりま、良しとする。


「じゃあ、これから貴方(あなた)とデートってことね!

 ありがとう、ハリエットさん。助かるわ」


 長身の騎士は「でぇと?」と口にして、首をかしげる。

 が、すぐに気を取り直し、胸に手を当て、お辞儀をする。


「では、ヒナ様が街を散策するための許可状を取ってまいりますので、しばしお待ちを」


 緑騎士が駆け足で、城内へと入り込んでいく。

 ワタシ独り、庭に残された。


(そろそろ、良いんじゃね?)


 地球への通信も可能になったばかりか、異世界(コッチ)の言葉も解るようになって、ワタシもいくらか喋れるようになった。

 ナノマシンたちの調子が悪いといっても、少しは機能が改善されているに違いない。

 改めてステータス表を出してみよう。


「ステータス、オープン!」


 ワタシがそう念じただけで、空中にステータス表が現れた。


 名前:ヒナ 年齢:27 職業:聖女

 レベル:%●⁂

 体力:▲〆@ 魔力量:⁂※§

 攻撃力:2Å※ 防御力:○♀※

 治癒力:999/1000

 スキル:聖魔法、治癒、★✳︎♬、鑑定

 個性能力ユニーク・スキル魅了チャーム


(やった! 

 やっぱ、少しは読めるようになってんじゃね!?)


 いくつか文字化けが解消され、魔力量数値はいまだ未確認だ。

 それでも、〈聖魔法〉や〈治癒〉〈鑑定〉、そして〈魅了〉が表示されていた。


(文字が読めるようになった。

 ってことは、魔法が使えるようになったってこと?)


 たしか、新一さんが言ってた。


『〈聖魔法〉ってのは一つの能力(スキル)ではないんだ。

 一つの魔法体系(マジック・カテゴリー)なんだから、〈聖魔法〉が能力としてあるってことは、多様な魔法が使えるようになるってことなんだ』と。


(やっべぇ!

 マジ、助かったぁ!

 聖魔法が使えなきゃ、〈聖女様〉って言えないもんね。

 ハズくって)


 緑騎士ハリエットが、息を弾ませながら戻ってきた。

 (まぶ)しいほどの笑顔だ。

 無事、王城から出る許可を取ってきたようだ。


 よおし、まずは真の〈聖女様〉を目指しての第一歩!


 ガンガンに街に馴染んで、ワタシならではの〈聖女伝説〉を作り上げやる!

 そっからは定番のスローライフを満喫してやるんだ!

 ふふんと鼻息を荒くする。


(どーして、ワタシがスローライフするかって?

 決まってんじゃん。

 追放されて自由の身になった聖女様ってのは、ゆったりと過ごすって決まってっから。

 そーしたら、なぜだかイケメンなカレピができたりするの。

 これ、スッゲェ王道ってヤツ!?

 もっとも、すでに素敵な騎士さんが、いらっしゃるんだけどぉ?)


 ヒナは振り返って、騎士ハリエットを見上げ、ニマッと笑う。

 緑色の肌をしたイケメン騎士は、不思議そうな顔をして首をかしげるばかりだった。

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