◆9 イケメン緑騎士から、デートのお誘い?
地球との交信ができるようになったせいか、翻訳機能も良く働くようになった。
ワタシ、白鳥雛の監視役(?)•緑騎士さんの言葉がわかるようになった。
(ラッキー! ナノマシンたちが、ようやく頑張ってくれたってわけね)
〈変容〉の機能はうまくいかなかったようだけど、通信や翻訳の機能が働くようになったのなら、まあいっか。
ホッと一息。
ワタシは両腕を空に上げて、のびのびと伸びをした。
その様子を傍らにいた緑騎士が、面白そうに眺めていた。
緑騎士は鍛え上げられた体躯を持つ、鼻筋がシュッとしたイケメンさんだ。
〈謁見の間〉からエスコートされて以来、ずっとワタシに付き添ってくれている。
(なかなかイケてんじゃん!?
このシチュエーション……)
筋肉質のイケメン騎士が今、ワタシがいる場所を解説してくれた。
「こちらは王城内に設けられた臨時の庭です。
ちょっとした芝生と庭木が植えてありますが、本来は守備兵が使う武具や兵器を揃える空間で、天守閣を取り囲む三の曲輪に相当します。
幸い、わがパールン王国には、このところ戦乱はなく、王都は平和ですので、今では守備兵や王城に務める下士官たちの憩いの場になっています」
「へえー、そうなんだ」
どうやら、先程までいた〈謁見の間〉がある王宮は、王都の中心に聳える王城の一画にある、迎賓館のような施設らしい。
騎士や将兵が詰める場所や、王家が生活する区域は、それぞれ別になってるらしい。
ともあれ、難しいことはわからないけど、お城のど真ん中にあるお庭からのロケーションは抜群だった。
高く聳える塔のような天守閣を背後にして、城外に広がる王都の街並みを一望できる。
そんな空中の庭先のテーブルで、今、ワタシはお茶をいただいているってわけ。
斜め後ろには銀鎧をまとった、緑肌のイケメンが控えてくれている。
うん、たしかに悪くない。
緑騎士の名前は、ハリエット・フォン・ドノヴァンというそうだ。
騎士さんだからドノヴァンという苗字もあるけど、もとは平民出身だから養家の苗字であるため、普段は省略するんだとのこと。
そんなことよりーー。
(ハリエットってーーバッチリ、英語っぽい名前ね。
彼は緑色の肌をしてる異世界の人なのに、どうして……あ、そうか!)
そういえば、新一さんが言っていた。
異世界での言葉は実際に耳にしても、地球人ーー少なくとも日本人には聴き取りにくく、まして発話しようにも舌が上手く回らないほど、異なった言語が大半らしい。
だったら、なぜ聞き取れるのか。
その謎言葉を、例えば今回みたいに英語っぽく聴かせてくれるのは、これまたナノマシンの活躍と、転送時に付与される〈世界言語〉能力によるらしい。
異世界言語に似た発音や概念を持つ、日本人に馴染みの言語を選択して変換し、派遣員の頭に記憶させる(ここまでが〈世界言語〉能力作用)。
そのうえで派遣員が発する言葉も、その記憶を頼りに口にするだけで、異世界の言葉を喋ることができる(これが主にナノマシンの活躍。〈世界言語〉能力を使用した後の、宿主の記憶を利用する)。
ちなみに、東京の会社本部のモニターで、星野兄妹たちが異世界の様子を視聴できるのは、映像と音声を送信しているのが、派遣員の体内から発出したナノマシンだからだ。
ナノマシンが異世界言語を音声変換して、視聴者である日本人に聴き取りやすい言葉にして放送しているのである(映像についても、明るさや色彩の調整が、視聴者用に調整されているらしい)。
(はぁ、なんだかパネェお仕事をしてんのね、ナノマシンたち。
目に見えないほどちっちゃいのに、マジで、ご苦労さん)
「どうしたんですか。ボンヤリして」
「いえ。ちょっと知恵熱出ちゃって。ははは。
ほんと、ウチのナノマシンって有能よね、と。
こうして言葉を聞き取れるようにしてくれるだけでもスゲーことなんだから、ちょっとうまく働かなかったからって、怒っちゃいけないなって反省してるとこなんですぅ」
「チエネツ? ナノマ……?」
不思議そうな表情をして、ハリエットがこちらに顔を近づけて来る。
やっぱ、イケメンだわ、この男。
緑の肌が全然、気にならないーー。
あ、今、気づいたけれど、彼の眼は宝石のアメジストのようだわ。
ワタシはニ月生まれなので、誕生石は紫水晶。
おかげで親近感、湧くわぁ。
ワタシはコホンと咳払いして、居住まいを正す。
「いえ。ワタシ、本当は〈聖女〉として、この世界に召喚されたはずなんですけど?
お偉いさんから、ガチで無視されるとは思いませんでした」
「本来、このようなことは、あり得ないのですが、本当に申し訳ございません……」
騎士ハリエットは、頭を下げた。
「〈魔の霧〉が王都を襲うさまを幻視しなされたのは、予言省長官マローン閣下なのです。
ところが、あいにく今現在、長官は病に伏しておりましてーー本来なら聖女召喚儀式を執り行なうのは、時期尚早だったのです。
まさか、マローン閣下不在のうちに、王家が儀式を強行なさるとは……」
ハリエットは予言省付きの騎士だそうで、聖女召喚の儀式が強行されると聞き、王様の許可を得て予言省代表として、監督官となったそうだ。
「じゃあさ、監督官として、ハリエット様はどーいったお考えなんスか?
なんで、二人も聖女が召喚されたのか?
そして、どーして、あの白い女の子のみを〈聖女〉として迎え入れ、ワタシは追い出されちゃったのか?」
ハリエットは言いにくそうな顔をしつつも、答えてくれた。
「なぜ二人も召喚されたかは、わかりません。
前例もありません。
ですが、たとえ二人が召喚されたとしても、一人だけを歓迎し、もう一人を除外するのは間違っていると、私は思います。
そうした振る舞いを勝手にしたのはドビエス王子であって、ダマラス王の意向でも、予言省の提言に基づくものでもありません。
もちろん、本来だったら聖女召喚儀式に立ち会うはずであられた、予言省長官マローン閣下がおられたら、決して貴女様を粗略には扱われなかったでしょう。
そう思うからこそ、私は王の許可を得て、貴女様にお仕えするよう決心したのです」
キリッとした顔付き。
誠実さが滲み溢れていた。
でも、まだまだ、わかんない。
ワタシはハリエットに喰い下がった。
「でもさ、どーして王子サマは、ワタシを聖女と認めないで、無視したんでしょう?
周りのオッサンたちの振る舞いもそーだったけど、ごく自然に、ワタシばっかし除けもんにしてた気がするんですけど……?」




