◆5 あちゃー、醜いもの、見ちゃったよ。せっかくの美貌が、台無しじゃね!?
ワタシ、白鳥雛は、絵本に出てくるような白亜のお城で、絶体絶命の危機に陥っていた。
本来、〈聖女様〉として召喚されてきたはずなのに、ワタシとは別に、もう一人の女の子も、召喚魔法陣の上に登場してしまったのだ。
しかも、彼女は、どう見てもワタシより十歳は下の女の子ーー金髪に蒼い目をした、白人の美少女だ。
オトコどもがロリばかりだからか知らんが、王子と思しき男は彼女に手を差し伸べる一方で、ワタシのことを〈魔族〉呼ばわりしちゃってる。
マジで、違うし!
ワタシは〈魔族〉なんかじゃねー。
そもそも、コッチの世界に〈魔族〉がいるってことも知らなかったぐれーだし。
ワタシ、こー見えても、日本東京から派遣されてきた〈聖女様〉です! って叫びたい。
王城の中心で、ガチで叫びたい。
でも、なぜだか〈世界言語〉機能が不全らしく、ワタシの言葉が現地の人によく通じてない。
ワタシの方も、向こうの人が話す言葉がカタコトしかわかんない。
だから、弁明しようにも、方法がない。
慌てて東京本部に連絡しようにも、これまた通信ができない。
いや、そもそも、ナノマシンの働きってヤツで、体格も肌の色も派遣先仕様になるはずなんじゃねーの!?
なのに、今のワタシ、ほとんど日本にいる時の姿のまんま。
派遣先の人たちは緑色の肌してるんだけど、今のワタシのような、白味がかった黄色い肌の人は珍しいみたい。
だから〈魔族〉疑惑をかけられてる始末。
ガチで、ヤバい……。
ざわざわ……。
居並ぶ貴族然とした面々が、再び騒ぎ始めた。
雑音の合間に、彼らが交わす言葉が、かすかに聴き取れる。
「あの女…見ろ。肌の色が緑でもなけ…ば、黒でも白でもない……」
「そんな人間…いる…か?」
「見ない色の肌…」
「でも、尻尾はない…魔族ではなさそう…」
「あれで人間な…か?
言葉も聞き取…ないで…ないか」
「とすれば、あの黄色い女も、異世界…召喚者なのか……?」
「聖女様の召喚に紛れ込…だ魔物とい……か」
「いや、聖女様の侍女か……かもしれん」
「それは…聖女様も、ご存じ……ようだ。
王子の問い…にも首を振るばかり……」
良く聴き取れなくても、みなの仕草や表情でわかる。
(ええ!? なんかワタシ、お呼びでない?
マジモンの邪魔者になってる?
わざわざ召喚に応じて、やって来たってのに?)
玉座にある王様らしき老人が、近侍する騎士に何か声をかけている。
若い騎士は軽くうなずいてから、ワタシの方を見て、大きく胸を張る。
緑の肌に、白銀の鎧が映えて輝く騎士さんだ。
その緑騎士が赤絨毯を踏みしめて、ワタシの許にやって来る。
そして、微笑みを浮かべてワタシの手を取り、外へとエスコートしていく。
つまり、〈謁見の間〉から、ワタシを連れ出そうとしているのだ。
振り向くと、人々の視線はすっかり白い美少女と王子様のペアに向けられていた。
言葉が良く聴き取れなくても、白い女の子がみなから祝福を受けているのはわかる。
ワタシはちょっと悲しくなって、涙が目尻に溢れた。
だけど、負けない。
拳を強く握り締めた。
(テメエに用はねーから出ていけ、と。
そういうことね……!)
名残惜しさを振り払い、視線を前へーー。
〈謁見の間〉の扉に向けようとした、その時ーー。
視界の端に、嫌なモノが映った。
ワタシと違って〈聖女様〉になりおおせた白い美少女が、王子のマントに隠れながら、口許を綻ばせていたのである。
しかも、胸元で小さく十字を切りながら。
「おお、怖い。お助けください、王子様。
私、カレン•ホワイトは、あのような者と同席するのは……」
彼女の目は明確にワタシに向けられており、白い顔には嘲りの表情が浮かべられていた(ドヤ顔とも言う)。
ワタシは心中、舌打ちした。
(あちゃー、醜いもの、見ちゃったよ。
せっかくの美貌が、台無しじゃね!?)
あれは〈女〉として、〈勝ち誇ったカオ〉ってやつだ。
ガールズバーで働いてたときのお姐さんにもいたわ、ああいうの。
しかも、マズイことに、その女の子の表情を、庇うような姿勢で真横にいながら、王子サマはまったく見ていない。
一途にワタシに向けて警戒する視線を投げかけているだけだ。
ワタシはヤレヤレとばかりに、息を漏らした。
(ったく、わーった、わーった!
どーせ言葉も良く聴き取れてねーんだし。
〈聖女様〉になんか、選ばれなくって清々するってもんよ、マジで!)
今、ワタシは、〈聖女様〉として召喚されたはずなのに、謎の性悪美少女とバッティングした挙句、聖女認定されずに、王宮から追い出されようとしていた。
ーーそれでも、じつを言うと、ワタシは希望を失ってなかった。
ワタシも、少しはマンガやアニメなどを観ている。
おかげで、
『異世界に召喚された女性主人公が、いきなり冷遇される』
っていうのは、ド定番のオープニングだと知っている。
しかも、『〈聖女様〉役が、他人に奪われる』っていう展開もありがち。
こうした出だしには、慣れっこになっていたのだ。
(ふふん。わかってる、わかってる。
でも、ワタシ、メゲたりなんかしねーし!
だって、選ばれないほうが〈聖女様〉確定なんだからね。
パターン的には!)




