◆4 まさかのバッティング!? ーーって、これまた、ありがちなことで……
ワタシ、白鳥雛は、東京異世界派遣会社の転送機で、異世界に飛ばされてきた。
〈滅びの予言〉を受けた王国を救済する〈聖女様〉として。
幸い、派遣先の世界は、建築様式も衣装も、デザイン的には、絵本で描かれたような、まさに〈王子様とお姫様の世界〉であった。
周囲を一目見るなり、ワタシはすっかり上機嫌になった。
でも、幾つか、予想だにしていなかった事態に遭遇した。
まず、よく言葉が聴き取れない。
異世界に派遣されたら、〈世界言語〉機能で、すぐに言葉がわかる設定になっていたはずなのに。
そして、〈聖女様〉として召喚された人物が、ワタシ、白鳥雛だけではなかった。
ワタシの隣に、透き通るような白い肌をした、美しい金髪美少女が座り込んでいたのだ。
さらに言えば、この異世界の人間の肌は、緑色であった。
地球上では、ちょっと見慣れない。
それでも、彼ら異世界人の美観も、地球人であるワタシと、さしたる違いはなかったようだ。
だって、ワタシから見ても、「美しすぎてごめんなさい」ってかんじの金髪白人美少女が、みなの視線を集めていたからだ。
そして、当然の如く、若い王子様が手を差し伸べた相手も、その蒼い目をした白い美少女であった。
すぐ隣で女の子座りしているワタシは、存在ごと無視された。
ワタシは深く深呼吸し、自分自身に向かって言い聞かせた。
(うん。仕方ない。当然だよね。
誰が見たって、天使のような金髪美少女が〈聖女様〉に見えちゃうよね。うん。
服装も真っ白で、いかにも清楚ってかんじだし……)
その一方で、ワタシの服装は、いつも通りというか、転送時に白いガウンみたいなのを羽織ってたはずなのに、なぜかユ◯クロで買ったモノトーンの普段着姿なんだもん。
ナノマシン、仕事してよ、マジで。
ヤバい。
なんか、釈然としない。
ワタシだけが、〈謁見の間〉のど真ん中で、魔法陣の上に座ってるのに、無視かよ!?
ワタシは心中、怒りで煮え滾ってた。
だけど、事態はサクサク進行中。
王子様が白い美少女だけ手を引いて玉座に向かい、王様らしき老人に何事かを語りかけ、周囲に居並ぶ貴族どもが盛大に拍手し始めた。
その頃には、さすがにワタシも我慢ならなくなった。
「ちょい、待ち!
マジで無視こいてんじゃねえよ。
ここにも〈聖女様〉がいるんだけど!?」
ワタシは甲高い声で、居並ぶ緑男ども向かって、クレームをつけた。
そうだ。
このワタシーー白鳥雛こそが〈聖女様〉として、この世界に派遣されてきたのだ。
だから、無視はないっしょ、無視は!
ワタシの立場、どうなっちゃうわけ!?
マジで、ムカツク。
でも、ワタシの発言は、相手にされなかった。
ーーというより、どうやらここにいる連中の誰もが、ワタシの言葉が聴き取れなかったようだ。
ワタシが彼らの言葉が良く聴き取れないように、彼らの方もワタシの発言の意味が汲み取れないみたい。
これーーガチでヤバくね!?
ザワザワと騒がしくなるばかりで、居並ぶ緑人たちは互いに顔を見合わせて、何やら声を張りあげ合うだけ。
王子様らしき若い男にいたっては、まるで庇うようにして白い美少女を身近に抱き寄せつつ、ワタシを睨み付けてくる。
まるで不審者から、カノジョを守るかのように。
(ザケんじゃねえよ、ったく!)
ワタシは頬を膨らませる。
そして、みなから守られてる白い美少女が、ワタシに語りかけてきた言葉を思い出した。
そう。
なぜだか彼女の発言だけは、ハッキリと聴き取れたのだ。
『あら? あなたも召喚されたのかしら』と。
そもそも、なんなの!?
その、金髪のお人形さんルックの美少女は?
彼女も〈聖女様〉なの!?
ああ、そういやあ、言ってたな、このお人形さん。
『あなたも召喚ーー』
ーーそうか。
そういうことね。
ワタシは、ようやく納得した。
魔法陣が描かれた召喚の地に、二人の女性が姿を現わしたらしい。
そう。
ワタシと金髪の美少女の二人が、同時に召喚されてしまったのだ。
(は? そんなの、おかしくね?
まさか、人材派遣がバッティング!?)
ワタシが疑念を口にするも、聴き取れない男どもは、当惑げに眉を寄せるだけ。
「うるせえな、このオンナ」ーーって表情だ。
仕方ない。
お互いに、言葉もよく聴き取れないんだから。
(いったいぜんたい、マジで、どうなってんのよ?)
ワタシは急いで東京の本部に、連絡を取ろうとする。
ところが、強く念じてもステータス表が現われないし、脳内には雑音ばかりが響き渡って、ちっとも交信できない。
地球との通信が出来なくなっていたのだ。
突然の非常事態に動揺して、ワタシはあたふたしてしまった。
すると、ようやく王子様らしき若い男性が声をかけてきた。
白い美少女を庇い立てしたまま、ジロリとワタシを睨み付けながら。
「な…だ、キサマ…まさか、魔族…!?」
段々、こちらの言葉にも慣れてきたのか。
くぐもった声ながら、なんとか聴き取れた。
でも、事態が好転したわけではない。
しかも、この緑色のイケメン、聞き捨てならない言葉を吐いてた。
(なに? マゾクーー魔族? ワタシが??)




