◆2 ああ、うるさい、うるさい! ガチでセッキョーすんな。だったら、ワタシ、これから〈魅了(チャーム)〉は使わないっ!
ワタシ、白鳥雛は、今、二回目の異世界派遣に臨んでいる。
向かう先どんな世界なのか知らないけど、とりま〈聖女様〉として派遣されることは知っている。
大勢のイケメンに傅かれてる場面なんかを想像したりしちゃって、マジで嬉しい。
だけど、そもそも〈聖女様〉って、何するヒト?
どんなスペックしてんのかも、わかんない。
よく考えたら、ヤバくね!?
ーーってことで、上司のひかりちゃんの説明を、ガチで頭にいれようって思う。
ひかりちゃんは手帳を取り出し、メモを確認しながら語り始めた。
「今回、ヒナさんに付与される魔法は、主に〈聖魔法〉です。
あと、聖女様らしく〈治癒〉〈回復〉〈解毒〉とかの治癒系魔法。
そして、水回りとか火の管理とかができる生活系の〈創造魔法〉ね」
ふんふんと指折り数えて覚えていると、またもや東堂正宗のヤツが横入りしてくる。
「なぁ、前から思ってたんだけど、そもそも〈聖魔法〉ってなんだ?
以前、俺が派遣されたときにも、現地の神官が使ってたんだけど、普通の魔法とはどう違うんだ?」
そう。それ、ワタシも疑問に思ってた。
マサムネのヤツも、たまには良い質問をしてくれる。
これには、新一さんが答えてくれた。
「うん。たしかに〈聖魔法〉は独特な魔法系統なんだ。
基本的には、生き物に宿る生命力や魔力を高める魔法だ。
けれど、発揮される能力や効果が、その世界ごとで違うっていうかーー正確に言えば、それぞれ派遣先で信仰されている宗教ごとに、効果や作用が異なってる。
どこであっても魔物や悪霊、病疫なんかを祓ったりする力があるのは同じなんだけど、効果や作用のありようが、世界や国、宗教ごとで違う。
世界によっては、〈延命〉や〈精神強化〉、〈運の強化〉なんかができるのもある」
ワタシは両手を合わせ、目を輝かせた。
「それって、マジ!?
〈運の強化〉って、要は好運にしてもらうってことっしょ?
激ヤバじゃね?」
一方のマサムネは両目をつむって、相変わらず、理屈っぽくわかろうとする。
「つまり、〈聖魔法〉っていう一つのカテゴリーのなかに、色んな魔法効果が秘められるっていうことか。
逆に言えば、能力を表示することが、あまり意味をなさないってわけだ」
依然として手帳から目を離さないで、ひかりちゃんが応じる。
「そうなの。
それに効果のほどが、派遣先でマチマチだから、一概に括れないのよね、〈聖魔法〉って」
〈聖魔法〉の魔法効果は、その世界で信仰されている内容に左右される。
信徒数の多さや信仰の強さなんかも、魔法の威力に関わるとのことだ。
(う〜〜ん、それって、ガチで普通の魔法と違くね!?
どんなパワーかっての自体、ソッチの世界でのカミサマ信仰次第ってかぁ……)
ワタシが唇を窄めて思案してると、マサムネに結論を先取りされた。
「じゃあ、付与能力に〈鑑定〉は必須だな。
自分が使った〈聖魔法〉の効果がわからないんじゃ、不便極まりない」
マサムネの提案を、新一さんがあっさり受けた。
「そうだね。〈鑑定〉を付与しておこう。
ついでに、派遣先の世界で、ほぼ最強の魔力量を授けておこう」
「おいおい、甘やかしすぎ」
と、マサムネのヤツが突っ込んでるけど、ちょっと待て。
今、話してんのは、ワタシのスペックについてでしょうが!
それになんだよ、「甘やかしすぎ」って!?
アンタはワタシのパパか!?
思わず、詰んのめって抗議する。
「マジでウザいんですけどぉ!?
アンタだって、似たようなもんだったじゃん?
前回の派遣の時だって、ホントはよわよわな魔術師設定だったのに、ワタシのおかげで〈雷〉だの〈炎〉と派手な魔法が使えたんじゃん!」
ワタシの当然ともいえる指摘に、マサムネのヤツは待ってましたとばかりに言い返してくる。
おかげで、ここのところの定番になってる言い争いになってしまった。
「なんだよ、この前のは、契約自体が詐欺ってたんじゃねえか。
危険の度合を考えれば、あれでも不十分な能力だった。
俺様は派遣先で必要な能力を、最小限だけ装備してるに過ぎない。
その能力の範囲内で〈混合〉を使って、やりくりしてるんだ。
それに比べて、おまえは必殺技ともいえる個性能力(ユニーク•スキル)〈魅了〉があるじゃないか。
派遣先で現地の人たちを操って、事態を好転させることができる。
それに、その気になれば、ナノマシンも好きに動かせる。
まったくの他人任せでOKなんだよ、おまえは!」
「なに、その言い草?
他人任せだろうが、なんだろーが、勝手じゃね!?
僻み?」
「ああ、そうだな。僻んでるよ。
ヒナみたいに、他人の力に頼り切って任務がこなせるんだったら、さぞ楽だろうってな。
だいたい、なんだよ、〈魅了〉って能力。
チート過ぎんだろ。
そのくせ、ちゃんと使いこなせていないのが、イヤミなんだよな。
ナノマシンすら操れるんだから、ちっとは頭使って……」
「ああ、うるさい、うるさい!
ガチでセッキョーすんな。
だったら、ワタシ、これから〈魅了〉は使わないっ!」
「ちょ、ちょっと待て。なんで、そうなる?」
「アンタなんかに、セッキョーされる口実、ひとつだってくれてやんねー。
それでも、大勢の人々を惹きつけてやまないワタシを見て、反省しな!
僻んで、すいませんって。
ワタシが生まれついての〈お姫様〉だってこと、見せつけてやんよ。
もち、歌舞伎町じゃあ、すでに証明済みなんですけどぉ」
「バカいえ!
〈魅了〉がなきゃ、オマエなんか、なにも出来やしないだろうが!」
「ほんと、マジで失礼なオトコ!
アンタがそんなふうに言うから、ワタシ、〈魅了〉を使わないって決めたしぃ」
「また、短絡的な……」
「ウゼェっちゅうの!
ワタシ、魅了なんかなくったって、オトコどもの視線をガチで釘づけにできるんだから!」
ワタシは腰に手を当てて、胸を張った。
ふふふ。
ワタシ、世界一の神々しい〈聖女様〉になってみせる!
異世界でも、ワタシが人々から崇められること、間違いなし!
〈魅了〉なんて使わなくても、〈聖女様〉としての魅力だけで、充分、オトコどもをたらしこめられるはず!
なんだか想像(妄想)したら、ワクワクしてきた!
白く輝く長衣をまとったワタシは、民衆に笑顔を向ける。
人々の顔は、〈聖女ヒナ様〉に対する尊敬と憧れで満ちている。
そして、ワタシは数多のイケメンに傅かれるーー。
このとき、ワタシはすっかり空想の世界に浸っていた。
おかげで、他の面々が、それぞれの思いをヒソヒソと口にしてるのに、まるで気づかなかった。
「表情を見るだけで、どんな妄想をしてるか、想像がつくわ。
このまま派遣して、大丈夫かしら?」
と星野ひかりが嘆息する。
すると、兄の新一が「たしかに」と相槌を打つ。
「ーーでも、向こうの世界では、国難に際して〈聖女様〉を召喚することには慣れている。
それに、『一刻も早い、聖女様の派遣をお願いします。お待ちしております』って、お願いされちゃってるしなぁ……」
眉間に皺を寄せる彼の横で、マサムネも真面目な顔付きとなっていた。
「あくまで目的は、予言された国難ーー〈魔の霧〉を祓うために、派遣されるんだからな。
そこだけは忘れないようにしないと、仕事にならねえぞ」
と、ワタシに向けて、忠告をかます。
けど、もちろん、ワタシは聞いちゃいない。
みなの心配を気にかけることなく、元気よく声をあげた。
「じゃあ、行ってくる!」
転送機に入り込むと、ワタシの視界はすぐさま暗転ーー。
次いで、白く輝き始めた。
さあ、異世界への旅立ちだー。
テンション、爆上がり!
見事な〈聖女様〉に変身してやる!




