◆19 異世界へと旅立つ手続きが激ヤバ!? おかげで魔法が使えるようになる??
東堂正宗と白鳥雛ーー求職者二人が、実りのない会話を繰り広げてから、ほんの十分。
星野新一・ひかり兄妹が、待合室に顔を出してきた。
「ちょっと来て。これから仕事部屋を見てもらうから」
「採用するかどうかは、その部屋での説明後になるんで、もうちょっと付き合ってくれないかな」
ゴクリと喉を鳴らして、求職者二人は席を立つ。
なんだかんだ言って、二人は緊張していた。
向かった先は、地下の仕事部屋である。
到着した部屋は〈転送室〉と呼ばれていた。
さして広くない部屋だが、二、三十畳分ぐらいの広さはあった。
四方の壁にはギッシリと機械が埋め込まれてあり、なにやら明かりが点滅している。
求職者二人は部屋に入るなり、驚いた顔で周囲を見回した。
「おお……SF映画かなにかで出て来そうな施設だな」
「なに? あの透明な筒みたいなの」
二人が真っ先に目に付けたのは、部屋の奥にある、天井から床までつながっている透明の円筒だ。人間ひとり入るのがやっとな大きさのものが、二つ並んでいる。
私、星野ひかりは、指さしながら説明した。
「あれが異世界への転送装置よ。
左側の筒に入ってもらって、異世界へ行ってもらうの」
正宗くんは、二つの転送装置に交互に目を向け、問いかける。
「右側の筒はなんだ? 二人用の転送装置じゃないのか?」
私は観光ガイドのお姉さんにでもなった気分で解説した。
「右側の筒には、転送のための媒質が、量子結合状態で満たされているーーとのことです」
私は早口で、知ったように解説する。
だけど、内心では、かなりビビっていた。
(ごめん……。ほんとは私、〈媒質〉だの〈量子結合〉だのって自分で言ってて、じつは意味わかんない。
これ、お父さんや兄貴からの受け売りなんだよね。
というか、こんなわけわからん説明で、理解できるヤツなんかいるのかよと正直、思ってるんだけど、説明することも仕事なんで、仕方ない……)
などと思って、ちょっとした罪悪感に浸っていた。
ところがーー。
私の曖昧な説明が終了するやいなや、なんと驚いたことに、正宗くんは感嘆の声をあげたのである。
「おお、〈量子テレポーテーション〉ってやつか!」
そう叫ぶと、彼はさっそく右側の筒の方に駆け寄り、透明な材質をコンコンと叩いた。
「へえ、目には見えないけど、ここに人間一人分のデータが放り込める媒質があるのか。
〈観測できない〉という条件を満たさないと駄目だから、目に見えないってわけなんだな!」
彼は納得したげにうなずきながら、改めて私の方へ振り向く。
「でも、テレポーテーションって難しいんだよな。
たしか、これと同質同量の媒質を転送先にあらかじめ用意しておかないと、テレポートできないんじゃなかったっけ。
どうやってあらかじめ転送先に保存させてんの?」
(う……そんなの、わかるわけないじゃない)
助けを求めるように、兄の新一を見る。
すると、新一の方は、ゆとりの表情を浮かべていた。
「そうだね。こちらからそんなことはできない。
だから、その媒質にピッタリ対応するだけのモノが充満されている所にしか転送できないんだよ。
それはたいがい、そっちの世界では〈魔素〉だとか〈魔法因子〉とか呼ばれてる。
そして、それを無観測で隔離して、人体を再構成できるだけの技術ーーつまりは〈魔法〉を使える世界にしか、転送できないんだ」
兄の説明を受けて、正宗くんは声を張り上げた。
「つまり、魔法が使える世界ってわけなのか、転送先は!?」
ここで、ようやく白鳥雛さんが食い付いてきた。
正宗くんの隣で立ち上がる。
「なになに?
魔法が使える世界って、ワタシも魔法が使えるようになるの!?」
正宗くんが横を向き、勝手に上から目線で応じる。
「そうだ。ダテに〈異世界派遣〉って謳ってるわけじゃないってことだ!」
なんとも理解が早いようで、助かりますーー私は安堵の吐息を漏らす。
ということで、星野兄妹は、とりあえず転送機の近くに備え付けられたソファに求職者二人を誘った。
コホンと一つ咳払いをしてから、私は従業員契約書を彼らに手渡す。
「さっそく契約に入りたいと思います。
が、その前にいくつか注意事項がございます。
契約書に署名、捺印をしていただくのは、その説明を受けて納得した後になります」
〈異世界派遣〉の仕組みの解説、第一弾でした。
次回も、お付き合いくだされば幸いです。




