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◆56 後日譚

 俺様、東堂正宗とうどうまさむねが日本東京に帰還した翌日ーー。


 バレッタ王国宰相ダバエル公爵から、正式な謝罪状が届いた。

 まだ向こうの世界と時空がつながっていたみたいで、分厚い書状が転送機の円筒に転移してきたのだ。


 その謝罪状には、今回の依頼における経緯(いきさつ)と、一連の奴隷騒ぎの結果が記載されていた。

 バレッタ王国の文字で書かれてあったが、これを異世界用翻訳機(そんなモノまであったとは!)で解読した。


まず、禁じられた奴隷売買で、私腹を肥やしていた王国騎士団の解散が決定した。


 冒険者スカイムーンを使って奴隷を集めさせた責任者として、騎士団長ザイン•ドメタス公爵を解任。

 恐るべき〈大爆裂魔法(ビックバン)〉の使い手として、誰もが彼に手を出せなかったが、異世界からの召喚者〈魔術師マサムネ〉によって、魔法能力を強奪された挙句、消し飛ばされた。

 そのため、書類上の起訴に終わったが、ドメタス公爵家の跡取りは、ザインの息子ではなく、ザインと反目していた弟になったそうだ。


 他にも、奴隷商人と結託していた騎士団員十名以上の生き残りを捕縛した後、その大半を死刑に処した、とのことであった。


 問題となったのは、冒険者たちの処遇である。

 平民主体の彼らが、貴族主体の騎士団や魔術師団を攻撃して破滅に追い込んだのだから、身分制社会のバレッタ王国としては、処罰しないわけにはいかなかった。


 だが、今回は、あくまで反撃であり、自らが奴隷落ちにならないための自己防衛といえた。

 しかも、王命で禁じられた奴隷売買をやろうとしていたのは、騎士団と魔術師団といえる。

 さらには、野盗を蔓延(はびこ)らせ、王国領土内に帝国軍すら招き入れて戦闘行為をおこなった。

 国防の観点からも、罪があったのは王国騎士団であることは明白であった。

 奴隷売買を餌に、領内に潜伏する帝国軍の一部を(あぶ)り出して掃討し、手柄にしようと画策したのが(あだ)となった。


 結局、今回の事件に関わった冒険者パーティーはすべて「過剰防衛」の罪に問われただけとなり、各人、禁錮一週間の刑に処されただけとなった。

 あまり刑を重くして反発を招くと、身分制社会が動揺しかねないので、宰相閣下が思案を重ねた結果の処置であった。


 ちなみに、東京異世界派遣会社への依頼は、王国騎士団が宰相ダバエル公爵の名を(かた)って、勝手に行なったものだった。


 宰相閣下が異世界から能力者を召喚して事件の解決を果たしたことが何度もあったため、騎士団長ザインがこれを利用しようと考えた。

 召喚魔法を心得た者を宰相府から騎士団の魔術師団に招聘(しょうへい)し、かつてと同じ方法で召喚したのが〈魔術師マサムネ〉であった。


 騎士団は奴隷売買の実績を宰相によって問題視される前に、大勢の冒険者を奴隷にしてしまうと同時に、異世界人にその奴隷売買の責任をなすりつける計画を立てた。

 そして、その異世界人を召喚した依頼主として、逆に宰相ダバエル公爵を告訴することを、騎士団長ザインは狙っていた。

 ザイン公爵は武闘派であると同時に、なかなかの策士だったのだ。


 さらに言えば、騎士団長ザインの背後では、数多くの反宰相派閥が暗躍していた。

 加えて、スカイムーンの工作のせいで、野盗狩りが行われたり、帝国軍の一部隊が侵攻してきたり、新たな奴隷商人グループが誕生したり、冒険者が軒並み奴隷にされて売り飛ばされる寸前にまでなってしまった。

 かくなる上は、さすがに騎士団員を全員、処罰せざるを得なかった。


 実際、〈魔術師マサムネ〉の規格外の活躍によって騎士団を丸ごと壊滅されていなければ、騎士団のほか、奴隷売買にまつわる腐敗を王国から一掃することは出来なかったであろう。


 とはいえ、今回の奴隷売買にまつわる事件の結果、バレッタ王国では問題が山積みとなってしまった。

 騎士団長ザイン•ドメタス公爵を失ったことは、王国の軍事力としては手痛い打撃となった。

 しかも、裏で暗躍していた反宰相派の貴族連中を軒並み追い落とすことはできなかった。


 異世界人の活躍によって被害が甚大なものとなったが、そもそも異世界人を召喚して事に当たらせる慣例を作ったのはダバエル宰相であったことが問題視されたのだ。

 結果、反宰相派の貴族たちは表面上はお(とが)めなし、という形で決着せざるをえなかった。


 そして、これ以上、異世界からの召喚者によって、政局を引っ掻き回されるのはゴメンだからと、王国宰相ダバエル公爵は、しばらく依頼を打ち切る、と東京異世界派遣会社に通達してきた。


 結局、今回の派遣は、異世界の王国の内輪揉めに悪用されたものだったのだ。

 東京異世界派遣会社は、まったくの被害者である。

 それもあって、謝罪も兼ねているのか、バレッタ王国から、謝罪状と共に大金が転送されてきていた。


 また、「女性二人から書状を預かった」と、小さな封筒も二つ、転移させれてきていた。


 マサムネは一通は差し出し名を見ただけでゴミ箱に棄て、もう一通は大事そうに抱えて自分用の布団の中に持ち込んだ。

 そして、その手紙を誰にも見せようとしなかった。


 他にも、もう一つ。

 誰にも明かさないモノを、正宗は部屋に持ち込んでいた。

 黄金の魔法杖である。

 密かに魔法鞄(マジック・バック)で、日本東京に持ち込んでいたのだ。


 ちなみに、バレッタ王国の秘宝である黄金杖の所在を、宰相閣下本人から、星野新一は直々に通信機で問われていた。


「黄金の魔法杖は、騎士団長ザイン公爵と共に消し飛んだ」


 とされていたが、念のための確認をしたい、とのことだった。


 バレッタ王国としては、騎士団長ザインのみならず、国宝である黄金杖を失ったことは、防衛力が酷く減退する由々しき事態であった。


 だが、もちろん、新一は「まったく知らない」と答えた。

 ほんとうに新一たちは、黄金杖の行方を知らなかったのだ。

 魔法鞄は正宗から回収したが、結局、「バタバタして、何も持って帰れなかった」という彼の報告を真に受け、星野兄妹は揃って安堵の吐息を漏らしたものだった。

 つまり、魔法鞄に隠し持って帰ってきた東堂正宗だけが、黄金の魔法杖の在処(ありか)を知っていた。


 彼は東京に帰還する直前、魔術師団の生き残りの女性に迫った。

 正宗としては、〈混合〉も〈能力剥奪〉も手中に収めたのだから、できるだけ他の魔法能力も吸収し、試してみたいと思っていた。

 が、せっかく能力を得ても、日本東京に帰ったら、その際に個性能力(ユニーク・スキル)混合(カクテル)〉以外は、すべてリセットされてしまう。

 もったいない。

 だったら、直接、日本東京にこの魔法杖を持ち込んでしまえば良いーー。

 そう判断したのである。


 結局、生き残りの魔術師団員に、刻まれた呪文を解除してもらった。

 結果、黄金杖から〈剥奪反転〉を除去するのに成功した。

 それから魔法鞄に黄金杖を納めたのだった。


 正宗は布団の中で、杖を撫で付けながら、ほくそ笑んでいた。


(この杖に内包された魔力量は15000だったな。

 こっちの世界でも魔法が使えるのかな?

 付与機能も確かめたい。

 まあ、いずれにせよ、使うこともあるだろう)


 ふふふ。

 布団を(かぶ)りながら、思わず笑みがこぼれる。


 そこへ、犬のベスが乱入してきた。

 ベスは奇妙に正宗に(なつ)いており、布団の中に潜り込むことが多かった。

 挙句、杖を(かじ)ろうとする。

 正宗は慌てて杖を持ち上げた。

 そして、ベスの頭をパシンと平手打ちする。


「バカ! コイツは骨じゃねえぞ!」


 正宗に叱られ、シューと息を漏らしながら、ベスは腹見せをする。

 そんなビーグル犬の腹を撫でながら、正宗は思案した。


(さて、この杖、どこに仕舞っておこうか?)


 正宗に、新たな悩みの種が生まれた。


 彼は今後、いろいろと工夫する。

 だが、その甲斐なく、この黄金の魔法杖を巡って騒動が巻き起こってしまうのだが、それは、ずっと先の話ーー。

今回で、第三章、終了です。

 読んでくださって、ありがとうございました。


次回、第四章に入る前に、三話ばかり『閑話』が入ります。

 現実世界、日本東京において、東堂正宗とうどうまさむねの、誰にも言えない、言いたくない〈秘密〉について描きます。(ちなみに、黄金杖を異世界から持ち帰ったことではありません)


 彼なりに、事情があったとわかって頂けると幸いです。


追記:

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 今後の創作活動の励みになります。

 よろしく、お願いします。

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