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◆45 奴隷がダメだっていっても、結局は、見習いだの、従者だのの名目で、弱者はこき使われるのさ

 東京異世界派遣本部では、モニターを見ていた女性陣二人が憤慨していた。

 今、モニター視聴に、星野兄妹だけでなく、白鳥雛しらとりひなも参加していた。


「いくらピンチだからって、これはないでしょ?」


「マジで女の人格、無視してんじゃね?

 ガチでハズイ男だよ!

 メンタルつよつよにも程があるっしょ!?」


 ひかりもヒナも激発するが、新一だけは溜息をつく。


「でも……現実的に考えれば、ここで奴隷商人側と仲間にでもならないと、この窮地は切り抜けられない」


 兄の指摘を受け、ひかりは口に手を当てた。

 いつものように熱くなるのを抑え、メモを取り出して、これまで〈魔術師兼冒険者マサムネ〉が辿った軌跡を思い起こす。


(たしかに、そうだ。

 今、彼は生命が終わるか否かの瀬戸際に立っている……)


〈肉体強化〉を奪われた今のマサムネは、探索系や治癒系、それに〈鑑定〉といった非戦闘系の魔法能力しか持ち合わせていない。

 しかも、奴隷商人を陰で率いていたスカイムーンは、王国騎士団ともつながっている。

 その結果、法律では奴隷売買が禁止されていようと、この事件現場においては、奴隷売買が国家権力によって認めらているに等しい。


 王国騎士団の人数は五、六十名程度しかいないが、強大な力を有している。

 対象に応じて、あらゆる系統の魔法を付与できる魔法杖を三本も独占している。

 加えて、なによりも騎士団長ザインの魔力量はまさにチートだった。

 一般人の十倍もの魔力量を誇る〈魔術師マサムネ〉の、さらに十倍、10000ポイントもの魔力量を有していた。


 彼が放つ〈大爆発魔法ビックバン〉は、とんでもない破壊力だった。

 今回、発射されたモノは加減されたものらしいけど、それでも凄かった。


 帝国軍が繰り出して来た、何十体もの岩石人形(ゴーレム)が一瞬で壊滅した。

 千を超える敵軍勢も消し飛んでしまった。

 最大規模だと、一気に十万もの将兵を蒸発させるという。

 まさにこの世界での核兵器ーー最終兵器(リーサル・ウエポン)だ。


 改めて現状を把握したひかりは、表情を曇らせる。

 兄の星野新一はとうに顔色を悪くしていた。


 ところが、その一方で、白鳥雛だけは明るい。


「ま、なんとかなるでしょ。

 マサムネのヤツはバカだけど、悪運だけは強いんだから!」


 奇妙に明るい雛の様子を見て、星野兄妹は不思議そうな顔をした。


◇◇◇


 遠く異世界の日本東京で星野兄妹がヤキモキしている間にも、事態は粛々(しゅくしゅく)と進展していた。


 スカイムーンの指揮で、新たに結成された異装の奴隷商人たちが活躍する。

 次々と冒険者たちに首輪を()めて、これを拘束魔法が付与された鎖で引っ張る。


 これまでは地縛魔法によって地面に縛り付けられたように身動きが取れなくされていた。

 が、首輪を嵌められた今では、首輪による拘束魔法でますます動けなくされていた。

 異国風の奴隷商人どもが大柄の冒険者の頭を小突いたり、女冒険者の尻を撫でながら、カタコトの言葉を投げかける。


「ハヤク。馬車、乗リ込メ!」


 冒険者たちは放心状態のまま、幌馬車へと列をなして進む。

 奴隷が積み込まれているとされていた幌馬車の中はじつは空っぽで、奴隷用の首輪しかなかった。

 今、その首輪を嵌められて、冒険者自身が奴隷として、幌馬車に積み込まれていく。

 奴隷の解放どころか、自分のほうから奴隷になりに行っていたなんてーー冒険者たちにしてみれば、あまりに皮肉な結果だった。


 もっとも、冒険者たちを馬車に運ぼうとする奴隷商人たちも手を焼いていた。

 身体は痺れて動けないが、冒険者たちは図体が大きい者が多い。

 首輪や鎖には、電気ショックのような効果を持つ拘束魔法が込められているが、必死に抵抗する冒険者たちが相手では言いなりにもし難い。

 おかげで、馬車への歩みが遅い。

 冒険者全員を奴隷として馬車に積載するには、しばらく時間がかかりそうだった。


 それでも、スカイムーンが企図した計画ーー奴隷解放の依頼(クエスト)を口実に大勢の冒険者を動員して、逆に、彼ら自身を捕縛して、大量の優良奴隷を調達するーーが、完璧に果たされようとしていた。

 おまけに、利権を喰い合う野盗や帝国軍の一部も、彼ら冒険者を使って撃退するーーという追加目的も果たせた。

 貴族に復帰するための、最後の大仕事が完了しつつあった。


「ご苦労さん。

 スカイムーン、上手くやったな。成功だ」


 彼の働きを祝すかのように、騎士団員が数人、スカイムーンに近づいてきた。

 彼らは騎士団の下っ端で、スカイムーンら〈青い眼旅団〉との(つな)ぎ役を担い、今も異国風の奴隷商人らと同行して、現場に姿を現していた。


 彼らに対し、スカイムーンは金髪を自らの手で払いながら応じた。


「まあね。無事、奴隷は大量に確保した。

 途中、帝国軍を相手にするアクシデントはあったけど、それも折り込み済みだったし。

 終わってみると、どうってことはなかった」


 二人の騎士は、さも残念そうに口を(すぼ)めながら言った。


「ジュン、といったっけ。

 彼女を殺したのは、もったいなかったな」


「そうだ。あれほどの上玉はなかなかいない」


 騎士たちの反応に、スカイムーンは憮然(ぶぜん)とした。


「アレは僕の従者ですよ。

 それなのに、僕を裏切った。

 当然の報いです。

 しかも、騎士爵家の娘を奴隷落ちにするわけにはいきませんからね」


 スカイムーンの返答を耳にして、騎士たちは急に馴れ馴れしい態度になった。


健気(けなげ)だったのになあ、彼女。

 団長も副団長も、随分と可愛がってたよな。朝まで」


「そうそう。

『ご主人様の爵位を復帰させてください』

 って、何度も騎士団(ウチ)に嘆願して来て」


 ひひひ、と騎士どもは下品に笑う。


 初耳だったのだろう。

 スカイムーンは目を見開き、顔を赤くする。


「でもーーもう死にましたから……」


 つぶやくスカイムーンの横に、一人の男が両手を広げて騎士団員たちの前に立った。


「なあに、これからだって、いくらでも新鮮な娘をお呼びいたしますよ。

 俺様の手腕でね」


 騎士たちは怪訝(けげん)な表情になる。


「そいつは誰だい? スカイムーン」


「あまり冒険者と馴れ馴れしくされると困るんだが」


 スカイムーンは、俺の方を見て、誇らしそうに紹介した。


「紹介するよ。

 これから、一緒に仕事をすることになった、マサムネくんだ。

 結構、使えるヤツだから、頼もしい相棒ができた感じかな」


 俺様は、騎士団員たちをジロリと見返した。

 彼らの心象はあまり良くないかもしれないが、ここは紹介者のスカイムーンの面子(メンツ)を立てて、彼の内心を代弁するよう、敢えて皮肉を込めた口振りで話した。


「奴隷売買は王命で禁止されてるってのに、王国を守護する騎士団が後見役についているなんて、誰も思わないでしょう。

 ほんとに上手い商法です」


 俺様の堂々とした態度と嫌味を含んだ物言いに、単なる平民冒険者ではない、と勘づかせたようで、騎士たちはゴホンと咳払いした。


「まあな。人間それ自身が、いつの時代も価値ある商品になるんだから仕方ない。

 奴隷がダメだっていっても、結局は、見習いだの、従者だのの名目で、弱者はこき使われるのさ」


「奴隷は首輪の魔法で言いなりに出来るから、従者より扱い易い。

 だから、需要は尽きない」


 少し体裁を取り繕おうとする騎士たちの様子を見て、俺はかなり御しやすい相手だと値踏みした。

 だから、俺は敢えて揉み手をしておどけた。


「そうっスよね。

 だから、俺にも(もう)けさせてくださいよ。

 一枚、噛みたいんです」


 緊張が解けたようで、二人の騎士は「はっははは」と声を上げ、互いに話し始めた。


「そりゃあ、いい選択をしたな。

 奴隷を扱ってりゃあ、いつも(ふところ)には、金がぎっしりさ。

 非合法になったぶん価格は高騰するし、売る商品は尽きないからな。

 あはは……」


「買う奴もだろ!」


「全くだ。

 買う奴がいるから、売る奴がいる。

 だから、儲かるのさ」


「ワハハハ……」


「アハハハ……」


 貴族に列する騎士とは思えない、奴隷商人が織りなすような会話である。

 それでも、騎士団員たちが楽しそうに声を上げて笑い合っているから、スカイムーンも調子を合わせて、ぎこちなく笑う。

 本音を言えば、年下の騎士団員からも上から目線で接せられていることに我慢ならないのだろう。

 金髪青年のこめかみに青筋が立っていた。


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