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◆41 ーーということは、マサムネってヤツが言ってたことが、正しかった?

 日本東京から異世界からの魔術師兼冒険者として派遣された俺、東堂正宗とうどうまさむねは、絶体絶命のピンチに(おちい)っていた。

 冒険者たちのアイドルで、有名パーティーの副団長ジュンという女性を殺したという濡れ衣を着せられ、今、何人もの冒険者たちによって地面に身体を押し付けられている。

 そして、自分の協力者であったリーリアという女性冒険者は、俺たちを()めようとしている男、スカイムーンに蹴り倒されてしまった。

 スカイムーンがここで容赦なく俺やリーリアを殺してしまえば、事態は最悪になっていただろう。  

 ところが、陰謀の主であるスカイムーンは、高らかに笑い声をあげ、勝利者のゆとりをみせていた。

 今は自分が蹴り倒した後、地面に押さえつけている女性(リーリア)との会話を楽しんでいた。


「覚えていたんだ。アタシの声……」


「そりゃあね。商品だし。

 身体の隅々まで点検して、値を付けたんだから。

 それなのに、いなくなっちゃって。

 ひどいな」


「クズ男!

 騙されたアタシがバカだった。」


「あははは……。

 また騙されたね。

 ここにいる全員、もう値をつけたから。

 あとは出荷するばかりだよ」


 スカイムーンはリーリアの腕を掴んで強引に立ち上がらせる。


「それっ。こいつもおまけだ。押し潰してしまえ!」


 と、俺様のすぐ横に彼女を放り出した。


〈青い眼旅団〉のリーダーの言いなりになって、冒険者たちは、大の男三人がかりで、リーリアも地面に押さえつける。


 大勢の冒険者が背中に乗っかり、地面に這いつくばった状態で、俺とリーリアは互いに顔を見合わせた。


「大丈夫か?」


 と俺が問うと、リーリアは悔しそうに泣いていた。


「ごめん。アイツを止められなかった……」


 そして、彼女は、悲しみを帯びた目で宙をみつめて、過去の出来事を語り始めた。


「アタシは以前、〈青い眼旅団〉のメンバーだった。

 リーダーのスカイムーンとは、恋人同士だった。

 少なくとも、アタシはそう信じていた。

 団内では恋愛禁止だったけど、アタシたちはみんなに内緒で付き合っていた……」


 リーリアの話によると、ある時、スカイムーンが、


「君は、特別な人だから」


 と言って、彼女の身体にタトウーを入れた。


「見て! これよ」


 リーリアは、腰の辺りを服をまくって見せてくれた。

 真っ青なアーモンド型の瞳に、目の中心の部分が金色になってるタトゥーだ。

 大きさにして10センチ弱の、小さなものだけど、やけに印象的な図案だった。


「いつも、僕は君のことを見守っているよ」


 とスカイムーンは言っていたそうだ。


 その時、リーリアは、彼に心酔していたから、嬉しく思っていた。

 けれど、ある時、真相に気づいてしまった。

 スカイムーンが、肌身離さず持ち歩いているノートを、つい好奇心から盗み見てしまった。

 そこには、過去のメンバーで、脱退した人や、行方不明になった人についての情報が記載されてあった。

 脱退者や行方不明者には男も女もいたが、それぞれ裸のイラストが描かれていて、身体の特徴や年齢、性格などが細かく書かれていた。

 そして、スカイムーンが彼らに入れたタトウーも描かれていた。

 アーモンド型の青い眼に中央の色はそれぞれ、金色だったり、銀色だったり、黒色だったりしている。

 ノートの一番下の行には日付けがあって、「出荷予定日」とあった。


 リーリアは身震いさせながら語った。


「ーーそれを見たとき、戦慄が走ったわ。

 だって、一番最新のページは、あたしの情報だったから。

 出荷予定日は、一週間後になっていた。

 その予定日は、パーティーのみんなで山へ修行に行く日だった。

 きっと、あたしは行方不明か、不慮の事故で死んだことにされるのだろうと思った。

 だから、あたしはその日のうちに〈青い眼旅団〉から姿を消した……」


 リーリアの述懐が終わったあたりで、俺は問いかけた。


「じゃあ、今の〈青い眼旅団〉のメンバーは、その当時のメンバーとは違ってるのか?」


 リーリアは地面に頬を押さえつけられた状態で、目を閉じる。


「古参メンバーは、今やジュンだけだったわ。

 あの女、みんなが奴隷落ちするのに積極的だった。

 だって、字体でわかる。

 あの女が仲間が奴隷になるリストを作ってたのよ」


 今、現在、俺とリーリアの背中の上に、何人もの冒険者たちが乗っかり、俺たちの話を聞いている。

 リーリアの語る過去回想も聞いていた。

 さらに他にも、冒険者パーティーは一箇所に集まっている。

 俺たちの周りをぐるりと大勢が取り囲んでいた。

 冒険者は耳が良い。

 何十人もの冒険者たちがリーリアの話を聞いていた。


 冒険者たちは、さすがにおかしいと感じ始める。

 そして、自分たちのリーダーであるスカイムーンが、リーリアに対して、不穏当な発言をしていたことを思い出した。


『おまえ、誰だ?

 見覚えが……。

 ーーあ、そうか。

 僕が値をつけて、出荷寸前でいなくなった()だね。

 名前は忘れてしまったけど、声に聞き覚えがあるよ』


 冒険者たちはいっせいに青褪め、ようやく俺様から身体を退かせる。

 が、遅かった。


 代わりにスカイムーンがのしかかってき来て、俺様の身体に触れた。


「さっきまでは君を動けなくすることに集中しててね。

 僕の能力をかけ損ねた。

 今、改めて使わせてもらうよ」


 俺は地面に這いつくばりながらも、抜け目なく、いつ何時でも素早く動けるように、〈肉体強化〉していた。

 でも、スカイムーンに触れられたことで、〈肉体強化〉の魔法能力は剥奪された。

 ガクンと力が落ちたのを、実感する。


 だが、じかに接触し、スカイムーンが能力を発揮している今こそ、彼の〈能力剥奪〉魔法の性質を解析する好機だ。

 俺は様々に思考を回転させた。


 やはり、スカイムーンの剥奪能力は、その力を発揮するには、いろいろと条件があるようだ。

 スカイムーンとともに野盗や帝国軍と戦っていたときに得た情報を総合するとーー。


 まず、相手が持っている能力の種類や機能を知っていないと、その能力を剥奪できない。

 そして、相手の身体にじかに触れないと、相手の能力を奪うことができない。

 さらに、リーリアの証言や、俺自身が実際に得た体感から、その〈能力剥奪〉の力は一気に相手の能力を奪えるものではなく、徐々にその能力を弱体化させていく働き方をしているようだった。

 ひょっとしたら、実際に触れている時間の長さが、能力を剥奪できる量に関わるのかもしれない。


 また、リーリアの雷撃能力を剥奪するのは瞬時に可能だったが、俺の〈肉体強化〉の力を剥奪するには時間がかかっている。

 というか、いまだ完全には剥奪しきっていない。

 やはり、スカイムーンの魔力量より豊富な魔力を持つ相手から能力を剥奪するには、時間がかかるのだろう。


(だったらーー)


 試しに俺様の方から、スカイムーンの身体に触れてみる。

 すると彼はギョッとして、身を離した。


「なんだ? おまえも〈能力剥奪〉が使えるのか!?」


 スカイムーンは自分の顔や身体を、手でベタベタさわる。

 やがて、安堵の溜息を漏らすと、顔を真っ赤にさせながら近づいてきた。


「ちっ、焦らせやがって!

 べつに、僕の力は落ちてなかったじゃないか。

 ったく、僕に歯向かうな。

 勝手に動くんじゃないよ!」


 頭髪を掴まれ、ガツンと顔を地面に押し付けられる。

 痛いったら、ない。

 もっとも、負傷しても、すぐナノマシンたちが修復してくれるが。


 もちろん、周囲にいる誰もが、俺の修復能力の秘密を知らない。

 だから、酷い扱いをスカイムーンから俺様が受けているようにしか見えない。


 今に至っても、彼ら冒険者たちには、状況が飲み込めていなかった。

 それでも事の成り行きで、何かがおかしいと思い始めていた。

 口々に(ささや)きあう。


「ジュンさんを撃ったの、炎の矢じゃなかったか?」


「あの炎の矢……たしかに、スカイムーンさんのーー」


 彼らは、俺を動けなくする際、スカイムーンが黄金杖で発動させた炎の矢を見ている。

 俺と同じ攻撃部隊の冒険者たちにとっては、炎の矢はほとんどお馴染みになっていた。


「ーーということは、マサムネってヤツが言ってたことが、正しかった?」


 ようやく冒険者たちの間で動揺が広がる。

 自分たちが騙されていることに気づき始めたのだ。


 リーリアとマサムネを押さえつけているスカイムーンから、いっせいに距離を取る。


 だが、彼ら冒険者たちは、すでに大勢の〈敵意〉に周りを取り囲まれていた。

 スカイムーンに従って結界の外からついてきた異様な装束の者たちが、曲刀や棍棒などの武器を手にして、何十人も固まって迫って来ていた。

 ざわめく冒険者たちを眺めて、スカイムーンは杖を地面に突き立て、ヘラヘラ笑った。


「いや、わざわざコッチから正体を明かすのも、どうかと思っていたんだけどね。

 どうせもう、抵抗なんかできないだろうから、みんなにも教えてあげるよ。

 彼らは蛮族の奴隷商人たちだ。

 独特の服装と、武器を持っていて、ちょっとおっかないよね。

 ほんと、彼らとコンタクトするには苦労したんだ。

 彼らの出身地は、帝国の反対側にある南西の山岳地帯でね。

 小国が群立する地域さ。

 彼らは遊牧民のようなもんで、地域を転々と移動し続ける部族だ。

 それでも、彼らの主な収入源は一定してて、何百年も前から奴隷売買だったそうだよ。

 これまで何度も、僕とはやり取りして来た間柄だった。

 それなのに、我が国が急に奴隷売買を禁止しちゃったもんだからさ。

 以来、ほんと、ゴタゴタばかり。

 奴隷売買による利権が欲しくって、いろんな野盗が出没してくるし、挙句、帝国軍の斥候部隊までが兵を集結させて襲いかかってくる始末でさぁ。

 あ、知ってた?

 帝国軍って、軍隊の一部を我が国に斥候役として常駐させてんの。

 王国騎士団はそいつらの監視が主な任務になってんだけど、『奴隷売買させろ』って、帝国軍側がうるさくてさ。

 奴隷売買の仲介利益が、彼ら、王国駐在部隊の主な収入源なんだ。

 奴隷禁止令のおかげで、カツカツになっちゃったわけ。

 だから、襲って来たんだけどーーこれを機に一掃できたから良かったよ」


 スカイムーンが饒舌(じょうぜつ)に喋る。

 が、その言葉をろくに聞くこともなく、冒険者たちは武器を手に身構える。

 彼らの目の前に、異様な軍装をした奴隷商人部隊が迫って来ていたからだ。

 彼らは総勢五十人ぐらいで、冒険者連中よりやや少ないくらいだ。

 冒険者たちが力を合わせれば、撃退することも可能にみえる。

 が、彼らは気づいていた。

 結界の外側にいる存在にーー。


 今回の奴隷売買阻止の作戦立案をしたのは、王国騎士団であった。

 今も彼ら、王国騎士団が、外からこちらを見守っているに違いない。

〈青い眼旅団〉のメンバーである禿げ男も、今では周囲を警戒しつつ、臨戦態勢に入っていた。彼は苦虫を噛み潰す。


「奴隷商人どもだけが敵ならば、なんとかなる。

 だけど、騎士団となると……」


 彼の発言を皮切りに、冒険者たちが、口々に不満を述べ始めた。


「〈青い眼旅団〉のリーダーが、なんで奴隷商人とグルなんだよ!?」


「まさか、王国騎士団までが〈敵〉なのか?」


 冒険者たちは、一刻も早くこの場から逃げようと、右往左往する。

 人同士がぶつかり合い、押し合い、大混乱になった。


 だが、その混乱は、瞬時に収まる。

 突然、魔法衝撃が地面から伝わってきたからだ。


「ぎゃあ!」


「うわあ!」


 冒険者の全員が、頭を抱えたり、身悶えたり、うずくまったりし始める。

 地面が磁気を帯びて、みな、動けなくなってしまった。


 王都の冒険者の中で、平然としているのは、黄金杖を手にするスカイムーンだけであった。

 地に倒れ伏し、口から泡を吹く冒険者仲間たちを見下ろして、彼は笑みを浮かべた。


「ああ、君たちの処遇はもう決まっているから、安心してくれ。

 じつは、奴隷として幌馬車に乗り込むのは君たち、冒険者自身なんだ。

 ここにいる全員、もう値をつけたから。

 あとはもう出荷するばかりだよ」

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