◆40 イタタタ……マジで痛いんですけど!
絶体絶命の大ピンチ!
敵意を込めたみなの視線が、俺、東堂正宗、独りに集中する。
この様子を、盗賊リーリアは、冒険者連中の人陰に隠れて見ていた。
そして、彼女は持ち前の素早さを活かして俺の許に駆け込むと、俺に向かってささやいた。
「どうせ、この状況で助かるわけはないんだ。
だかさぁ、アンタ、アタシに捕まえられてくんない?
スカイムーンへの手土産にするから」
俺は驚いた。
なんだよ。
あれだけ恨み事言っていながら、やっぱ、今でも、スカイムーンに惚れてんのか?
ーーと思ったら、逆だった。
リーリアは、俺に身体を密着させながら続けた。
「アンタをスカイムーンに差し出せば、冒険者どもは引っ込むし、スカイムーンのヤツも油断する。
そして、スカイムーンがアンタを貰い受けようと接近してきた時に隙を突いて、アタシがヤツの首を斬るんだ。
あの魔法杖さえ手に入れれば、アンタなら、こんな状況でも挽回できるだろ?」
おお! ナイス・アイディア!
俺は彼女の提案に乗ることにした。
小さくうなずく。
「じゃあ、悪いね」
リーリアはそう囁くと、俺の腕を掴んで後ろ側に回し、背中に馬乗りになった。
(イタタタ……マジで痛いんですけど!)
リーリアは俺様の背中に馬乗りになった姿勢で、甲高い声を張り上げた。
「アタシ、斥候のリーリアが、悪漢マサムネを討ち取ったぞ!」
おおおおおーー!
彼女の仲間の冒険者たちが、まず率先して雄叫びをあげる。
釣られて、他の冒険者たちも快哉の声を上げた。
歓呼の声の中、スカイムーンは下馬し、周囲を注意深く見計らうようにしてから、杖の輝きを消し、ゆっくりと歩いてきた。
リーリアに突然、俺様が捕獲されたのが不自然に感じているのだろう。
でも、依然としてスカイムーンは冒険者たちのリーダーだ。
女冒険者の手柄は、手柄として認めて報償を宣言する立場にある。
「『斥候のリーリア』と言ったか。よくやった」
リーリアは熱い感情を込めた視線をスカイムーンにぶつける。
が、彼自身は意に介すること様子はない。
地面に押さえつけられた俺の方に、ひたすら注意を振り向けていた。
(いける!)
リーリアはスカイムーンの暗殺を狙う。
俺様の背中から離れるや、電光石火の素早さでスカイムーンの背後に回り込む。
その過程で、サッと黄金の杖を取り上げた。
「む!?」
と、スカイムーンが声を上げたが、遅かった。
リーリアは黄金杖を握り締め、勝利の笑みを浮かべた。
「喰らえ!」
攻撃魔法の源である黄金の杖を奪った上で、その杖で持ち主であったスカイムーン自身に攻撃魔法を叩きつける。
これで勝てるはずだった。
だが、しかし、リーリアは両目を見開く。
「な!? アタシの能力が……!?」
リーリア得意の雷撃魔法が弾かれたーーというより、そもそも発動しなかったのだ。
「この女狐め。俺の杖を返せ!」
スカイムーンは激怒して、リーリアを蹴り上げる。
リーリアは吹っ飛ぶ。
それでも彼女は甲高い声を張り上げた。
「マサムネくん、見た!?
コイツ、アタシの能力、吸い取った!
魔力はーーまだ、たっぷりあるのに……」
身体を地面に伏せながらも、俺様はしっかり見ていた。
リーリアがスカイムーンの杖を奪い、後ろに回り込むときーーその際に、魔法を駆使していた。
〈探索〉と〈鑑定〉を〈混合〉した〈分析〉能力を。
その結果、スカイムーンの秘められた魔法能力が判明した。
〈能力剥奪〉ーー!
かつて、ヒナが派遣されたときだったか、似たような効果の魔法能力をみた気がする。
あれは〈魔力剥奪〉ーー相手の魔力を吸い取るものであった。
それとはちょっと違う。
スカイムーンの能力は、相手の魔力ではなく、能力そのものを奪うものらしい。
もし、魔力を吸い取るだけだったら、黄金杖を強奪したリーリアは、杖からの魔力付与で、なんとか雷撃魔法を発動させ、スカイムーンを倒すことができただろう。
だが、スカイムーンはリーリアの雷撃能力そのものを一瞬で弱体化させた。
だから、杖を手にして魔力付与をいくら受けても、雷撃はできなくなってしまった。
魔力は宿せても、使う能力が極端に弱められてしまったのだ。
相手の能力を奪う能力ーーそれがスカイムーンの魔法能力だった。
「ふん、魔法杖を奪うと、なんでもできると思ったか?
僕も舐められたものだね。
まあ、僕の魔法能力がバレたらしいけど、それを知ったところで、いまさらどうにもできんよ」
炎の矢が空中に何本も浮き並ぶ。
「コイツの威力は知ってるだろう?
『宇宙一の天才』くん。
動くと一気に放つよ?」
「うっ……」
迂闊に動けない。
スカイムーンは勝ち誇った声を上げた。
「今だ!
コイツを押さえつけろ!」
おおおおおーー!
スカイムーンが俺から目を背けたその隙に、冒険者たちが総出でのしかかる。
俺様は地面に押し潰されてしまった。
地面に這いつくばる俺を見て、スカイムーンは高笑い。
そして、彼は再度、倒れ込んだリーリアを蹴る。
「さぁ、今度はジャジャ馬娘の番だ。
お仕置きの時間だよ」
動けなくなったところを、彼女は腕を取られ、引き上げられる。
それでも、意気地はなくしていない。
リーリアは、スカイムーンを睨みつけた。
「アンタ、やっぱり自分勝手で嫌なヤツだね。
仲間を騙して、裏切った。
その綺麗な顔で。
息を吸うように」
スカイムーンは小首をかしげる。
「おまえ、誰だ?
見覚えが……。
ーーあ、そうか。
僕が値をつけて、出荷寸前でいなくなった娘だね。
名前は忘れてしまったけど、声に聞き覚えがあるよ」




