◆39 魔術師マサムネ、武闘家にジョブ・チェンジ!?
日本東京から異世界のバレッタ王国へと〈冒険者兼魔術師〉として派遣された俺、東堂正宗は、〈敵意〉を放つ者たちに周囲をすっかり取り囲まれてしまった。
〈敵意〉は結界の彼方から現れた敵勢からだけではない。
ごく身近にいる仲間の冒険者たちからもヒシヒシと感じていた。
突然、〈青い眼旅団〉の副リーダーのジュンが悲鳴をあげ、馬ごと燃え上がった。
あっという間に、黒焦げになってしまったーー。
(どうなってんだ? ほんと……)
俺様は深く疑問を抱いた。
が、周囲を取り囲む連中は違った。
みなの視線が、俺様、〈魔術師マサムネ〉に突き刺さる。
冒険者どもは、口々に言い募る。
「貴様、やったな!」
「ジュンが警戒しろって言ってたぞ」
「貴様が『この女狐め。許さねえ! 死んじまえ!』って、言ってたのを、たしかに聞いたぞ!」
「俺もだ!」
「俺も!」
俺は大きく頭を振り、両手を広げた。
人殺しの濡れ衣を着せられては、たまらない。
「俺は何もやってない。信じてくれ。
共に敵軍と戦った戦友じゃないか」
「じゃあ、誰がジュンちゃんを殺ったっていうんだ!?」
その時、そう言われて、俺はようやく悟った。
ジュンがいきなり燃えて、黒焦げになった。
あの炎の魔法ーー見覚えがあった。
杖を黄金色に輝かせていた、あの男が使っていた攻撃魔法だ。
俺は、冒険者たちに向かって、特に攻撃部隊の冒険者たちに向かって訴えた。
「冷静になれ、おまえら!
あの炎、見覚えがないか?
あれはスカイムーンの得意技だったじゃないか!」
「なんだって?
じゃぁ、貴様はスカイムーンさんがジュンさんを殺った犯人だと!?」
「そうだ!
あの炎の攻撃魔法を使えるのはーーしかも遠距離から使えるのは、あいつ、スカイムーンぐらいのもんだ!」
あはははは!
乾いた笑い声が、俺様を取り囲む。
禿げ頭の冒険者が、俺の前に一歩、踏み込んできた。
「語るに落ちるとは、このことだな。え、おい!
スカイムーンさんが、ジュンさんを焼き殺すわけないだろ!」
彼の発言を機に、みなが口々に言い立てた。
「そうだ。
スカイムーンさんとジュンさんは、冒険者やる前からの幼馴染なんだぞ」
「婚約の噂すらあった仲だ」
おいおい、初耳だぞ。
だからこそ、〈ジュン様、激推し〉の冒険者どもも、遠巻きにして彼女を眺めるしかできなかったのか。
それでもーー。
俺は大声を張り上げた。
「ジュンが背中から撃たれたの、見なかったのか!?
敵は後方にある。
正面の、しかも近距離にいた俺の仕業じゃない。
それでも冒険者か!?」
が、俺がいくら訴えても無駄だった。
興奮した冒険者たちが集団で襲いかかってきた。
俺は歯噛みした。
「ったく、奴隷の解放はどうしたんだよ!?
余所者である俺様をリンチして満足ってか?」
だが、幸いにも彼らは攻撃系の魔法が使えない。
黄金の杖を持つスカイムーンが不在なため、攻撃魔法の潜在力を持っている者がいても、その力を発揮することができないのだ。
(しめた!)
肉弾戦となれば、どれだけ多勢に取り込まれようと、利は俺様にある。
「おおおおおお! 」
接近して来た敵を、俺は拳で殴り倒していく。
剣も提げていたが、さすがについさっきまで共に戦ってきてた仲間をぶった斬るほど、非情にはなれなかった。
フィジカルにおいて、俺様にかなう者は、この世界にはそうそういない。
俺の身体は〈肉体強化〉のおかげで、誰よりも素早く動き、かつ強力だった。
しかも、異世界からの転移者である俺様にはナノマシンがある。
いくら負傷してもすぐさま修復できる。
だが、多勢に無勢と思った冒険者どもはいっせいに飛びかかってきた。
「集団でかかれ!」
「魔物を狩る要領だ!」
「おおっ!」
武闘家と剣士、武道修道士らが、五人でいっせいに飛び込んで来た。
まず、三人がかりで殴ったり蹴ったりしてきた。
これにはなんとか対処できたが、一人に背後を取られ、羽交締めにされて、さすがの俺も危機に陥る。
バキ!
鈍い音が、俺の身体から響き渡る。
「やったぜ。確実に骨を折ったぞ!」
棍棒で殴られ、腕や足を反対側に向けられる。
「ぐあああ!」
俺様は叫んでから、フラフラ立ち上がる。
「よし、とどめだ!」
余裕を持って襲って来た。
そいつを、思い切り殴り返す。
「げえっ!」
「なんで? 腕が折れたんじゃ?」
「脚があんなだったのに、なぜ立てるんだ?」
「治癒魔法か?」
「いや、魔力は感知されねえぞ!
俺は〈魔力感知〉能力があるんだ」
「じゃあ、なんでだよ!?
なんで、アイツは動けるんだ!?」
「わかんねえ……!」
俺様に殴られ、昏倒した冒険者の山が幾つも築かれる事態となった。
真っ先に襲いかかってきた連中は、すでに地に倒れ伏し、第二陣、第三陣目となると、俺様の動きを警戒し、距離を取るようになっていた。
「コイツ、化け物みたいに強いぞ」
「どんな体力だよ!?」
「これで〈魔術師〉だなんて、嘘だろ!」
「きっと、名のある〈武闘家〉に違いない!」
冒険者連中が身を退く。
俺は全身で息を吐きつつも、一息ついた。
(よし。〈魔術師〉から〈武闘家〉に転職して正解だったな!
これでしばらくは時間が稼げる。
あとは隙を見て、包囲陣を突破すればーー)
だが、事態は好転することなく、さらに緊迫したものとなってしまった。
ドオオン!
冒険者どもを押し除けて、一人の男が姿を現した。
俺は思わず息を呑む。
「ようやく、真打登場ってか!?」
俺の目の前に、黄金杖を手にした金髪男ーースカイムーンが馬ごと乗り込んできた。
そして、彼の後ろには、異装のゴロツキ連中が何十人も、棍棒や曲刀を手に並んでいた。
(こいつらが、結界の向こうから入り込んできたゴロツキどもか……)
スカイムーンから何を吹き込まれたわからんが、思いっきり敵意をぶつけてきやがって。
まさかこのゴロツキ連中を、筆頭冒険者パーティーのリーダーたるスカイムーンが誘導してくるとは、思いもしなかった。
馬上で笑みを浮かべるスカイムーンが黄金杖を振り上げた。
「ジュンの仇を討つ!」
おおおおおーー!
拳を振り上げ、喊声をあげる冒険者たち。
そしてその後ろには、黄金の杖を輝かせ、冒険者どもに魔力を付与するスカイムーン。
さらにその後には、見たことがない異国風のゴロツキどもが接近してくる。
正面だけでなく、幌馬車隊がある背後にまで、ぐるっと回り込んで包囲していた。
絶体絶命の大ピンチだった。
が、そんな中、俺の懐に飛び込んできた者がいた。
敵意が一切ないので、不意を突かれた。
素早く駆け込んできたのは、盗賊のリーリアだった。
「助太刀してくれるのか。ありがたい」
そう口にしたら、彼女は俺に身を寄せながらも、残酷な笑みを浮かべた。
「どうせ、この状況で助かるわけはないんだ。
だからさぁ、アンタ、アタシに捕まえられてくんない?
スカイムーンへの手土産にするから」
「へ?」




