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◆31 見てみなよ。君の懸念は要らぬものだったようだ

 俺、東堂正宗とうどうまさむねは日本東京から、奴隷解放の手助けをするために、異世界のバレッタ王国に派遣された。

 ところが、奴隷を解放するどころか、当の奴隷の姿を一切見ることもないままに、野盗どもの襲来を受け、これをようやく撃退したと思ったら、今度は隣国ゴルティア帝国の正規軍との戦争に巻き込まれてしまった。


 王都の壁外ではあるが、いまだバレッタ王国の領土内なのだから、どうして外国の軍勢が攻め寄せて来ているのか、わからないことだらけだけど、敵軍将兵が本気で攻勢を仕掛けてきている。


 だが、俺とその仲間、冒険者パーティー連合軍(?)総勢八十四名は奮戦した。

 魔法槍を構える敵の第一陣は、なんとか蹴散らした。

 だが、第二陣はさらに手強い陣容になっていた。

 魔法世界ならではの巨大兵器ゴーレムまでが、何十体も登場してきたのである。


「ゴーレムのお出ましとはな……」


 杖を持った魔術師がゴーレム(本来は〈泥人形〉なはずだけど、大体は岩や石で出来てる)を操るのは、ファンタジー物の定番と言える。

 そうした物語設定の鉄則(パターン)が当てはまるなら、この三十体はいるであろう巨大な岩のゴーレムを操っている魔術師がいるはずだ。

 俺は〈索敵〉能力を働かせる。


「どこかで遠隔操作している魔術師がいるんじゃ?

 そいつを倒せばーー」


 俺たちを攻撃しようとしているゴーレムを操っている存在なら、こちらに向かって〈敵意〉を向けているに相違ない。


 だが、無駄だった。

 たしかに〈敵意〉はビンビン感じる。

 しかし、多すぎた。

 敵軍の全てがーー最前線の歩兵ですら、こちらに向けて〈敵意〉を叩きつけてきているのだ。

 しかも、あの岩のようなゴーレムからも、こちらに向かっての〈敵意〉が感じられる。


 俺は首をかしげる。


(どういうわけだ?

〈敵意〉ってのは岩とかの無機物にも宿るのか?)


 驚く俺に、スカイムーンは教え諭すような口調で解説する。


「わがバレッタ王国では、万物に魔法の素ーー魔素が宿っている。

 その魔素同士を、魔術師が引き合わせて岩石人形(ゴーレム)は造られるんだ。

 だから、敵を攻撃するために造形される岩石人形には、結合力だけでなく、〈敵意〉すらも、素材そのものの中に内蔵されてる」


 俺はがっかりした。

 それでは、ゴーレムを操る魔術師の居所を、あの大勢の敵兵の中から探らなければならない。

 しかも、その魔術師を見つけて殺すことができても、細かな操縦が利かなくなるだけで、ゴーレム自身が敵意をもって攻撃してくることは止められない、ということになる。

 まさに、ゴーレムは自動人形ーー一種の生物兵器といってよい。


「じゃぁ、ゴーレムっていうのは、直接攻撃によってぶち壊すしかないのか?」


 立ちはだかるゴーレムを茫然と眺める俺に対し、スカイムーンは平然とした口調で答えた。


「そうなるね。

 それに、あれらの岩石人形(ゴーレム)は、岩や砂、土など、そこらの自然物を寄せ集めて造ってるバージョンだから、破壊が難しい。

 もっとも、あれらを操ってる魔術師を見つけ出すことができれば、結合力を弱めることぐらいはできるかもしれない。

 直接攻撃を仕掛けるにも、より効果的にはなる」


 スカイムーンの解説を聞き、俺は前方に目を凝らして思案する。


(だったら、敵軍の中から、ゴーレムを作成した魔術師を見つけ出すってことに、価値はあるってことだよな。

 ひょっとして、〈鑑定〉能力使えばーー)


 すると、俺の横にいたスカイムーンは笑みを浮かべる。


「ふぅん。

 君は〈索敵〉だけじゃなく、相手の力量を測ることもできるわけだ?

 使える魔法が多いね。

 君はまだ手の内をすべて見せてないんじゃないか?」


 俺は苦い顔をした。

 おいおい、味方同士で、腹の探り合いか。

 勘弁してくれよ。


 俺はダメ元で、スカイムーンに呼びかけた。


「そうだ!

 魔法がどうのこうの言うんなら、その魔法の杖を貸してくれよ。

 魔力をそれぞれにふさわしい形で付与していることはわかる。

 付与される者の魔法能力を増大して、引き出してることもわかる。

 だけど、それだけの能力じゃないかもしれない」


 俺はどこまでがスカイムーン個人の能力かを疑っていた。


 魔法杖ならではの隠された能力を使っているんじゃないのか?


 そんなことを考えながら、俺が物欲しそうに杖を眺めていると、スカイムーンは自分の身に杖を引き寄せた。


「この杖が欲しいかい?

 でも、そりゃあ、出来ない相談だ。

 これは王国騎士団からの借り物でね。

 騎士団の管理下にあるけど、これら三つの魔法杖は王国の秘宝なんだ」


 そんなことを知ると、ますます手にしたくなってしまう。

 俺はわざとらしく身を寄せて、スカイムーンにささやいた。


「借りてるんなら、その杖、そのまま(もら)っちゃえよ。

 そしたら、騎士団を〈青い眼旅団〉が制圧下に置くことができるだろ」


 異世界人ならではの不穏当な提案を、彼は軽くいなした。


「ははは。

 そんなこと、できたとしても一時的だよ」


 彼の笑い声に、かすかな動揺を読み取った気がする。

 どうも俺の言葉は、彼にとって悪魔の(ささや)きだったらしい。


 だったら、悪魔らしく、もう一押しだ。


「なに、一時的だろうと構わない。

 このままだと、俺たち冒険者パーティーは全滅の危機だぞ。

 後ろの冒険者たちが、あのゴーレム軍団に対抗できるとは思えない」


 高みの見物を決め込んでる騎士団連中を引っ張り出さなければ、俺たち冒険者パーティーは全滅だ。

 俺は一気に畳み掛けた。


「スカイムーンさんよ。

 その杖を使って、俺たち冒険者パーティーだけじゃなく、騎士団にも帝国軍と戦わせるってのはどうだ?

 奴らの潜在能力は冒険者の力より大きいんだろ?

 それを限度いっぱい引き出すんだ。

 それに長衣(ローブ)姿の魔術師団もいるみたいだしさ。

 そして、力を合わせてゴーレムどもを蹴散らすーー」


 スカイムーンは瞑目し、しばし思案に暮れる。

 が、首を強く横に振ると、いつものように丁寧な口調で断った。


「異世界人の君にはわからないだろうけど、騎士とはいえ、貴族だからね。

 平民である冒険者集団から一時期でも指揮されたとなれば、刑死ものなんだ。

 僕ら冒険者側から作戦を指示して、彼ら騎士団を動かすことはできない。

 それに、もともと、たとえ杖三本を僕らが好きに起動できても、無効化する力が騎士団にはあるんだよ。圧倒的な力が」


 珍しくスカイムーンの口調に、諦めの雰囲気が漂っていた。

 どうやら、身分制社会による社会通念だけが理由で、騎士団に刃向かえないわけではないらしい。

 力量差においても、冒険者パーティーには騎士団には(かな)わない事情があるらしい。


 俺から目を逸らし、スカイムーンは遠くを見はるかす。

 目前に迫り来るゴーレム軍団とは違う方角に視線を向けていた。

 そして、嬉しそうな声を出す。


「おやおや。見てみなよ。

 君の懸念は要らぬものだったようだ」


 彼が目を向ける方向に、俺も目を遣る。

 すると、意外な光景が見られた。


 右横、遠方の丘の上に、騎士団の姿はなかった。

 総出で地平に出ていた。

 そして、騎馬で急行し、あたかも俺たち冒険者軍団とゴーレム軍団の間に割り込んできてくれていた。


 スカイムーンは興奮の態で声を出す。


「敵軍が岩石人形(ゴーレム)を引っ張り出してきたからだろうね。

 騎士団みずからが最前線に出ようとしてる。

 よく見ておくんだ、マサムネ君。

 凄いモノを見ることができるぞ!」

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