表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/290

◆30 異世界ならではの巨大兵器、登場!

 俺、東堂正宗(とうどうまさむね)は、すぐ隣で、俺と共に帝国軍兵士を薙ぎ払っているリーダー、スカイムーンの動きを見て、奇妙な感触にとらわれていた。


 彼が敵兵の武器や身体が触れる瞬間ーー敵の動きが極端に鈍くなったり、弱くなってはいないか?

 いいように、敵の動きを操っているように見える。

 魔法なのか、それとも訓練の果てに辿り着いた、某バスケ漫画の視線誘導みたいな何かか?


 俺も何人か敵兵をあしらった後、ごく自然な形でスカイムーンと背中を守り合う格好になった。

 まずは素直に、感嘆の声をあげた。


「アンタはやはり、只者じゃないな。

 相手の動きまで、自在に操れるのか?」


 俺の直球の質問に対して、スカイムーンはいかにも育ちの良さがわかる反応をした。


「自在だなんて。そんなことはないさ。

 ちょっと動くスピードを変えるぐらいかな」


 スカイムーンは苦笑いを浮かべつつも、満更でもない表情をしている。

 ヨイショされたのが、本当に嬉しいみたいだ。

 謙遜しつつも、自分の能力に対する自信が見え隠れしている。

 と同時に、自分の能力を悟られたくないと言う意識があるようで、即座に話題を切り替えてきた。


「僕のことなんかより、君の方がよほど興味深い。

 さすが、〈宇宙一〉と自称するだけある。

 君のその驚異的な体力ーー付与能力によるものだね。

 付与によって、筋肉を極限にまで増強してるとみたが、どうだい?」


 おっと、さすが冒険者の第一人者、俺様の数少ない魔法ーー〈肉体強化〉能力があっさりバレた!?


 たしか、この国じゃ、探索系や生活系以外の魔法は使用禁止だ。

 ひょっとして、付与の魔法がバレるだけでもマズいことになるのか?

 脊髄反射的に、俺はごまかした。


「ええっとーー何のことだ?

 俺の体力のことかぁ?

 そうだな、俺様に体力があるのは、ひとえに鍛えた結果ってヤツだ。

 人は裏切るけど、筋肉は裏切らない。

 筋トレが趣味なんだよ」


 俺のおとぼけに、スカイムーンはお付き合いして、快活に笑った。


「ははは。ま、そういうことにしといてやるよ。

 国法でも、べつに付与魔法は禁じられてるわけじゃない。

 いいじゃないか。自分の身体に付与するぐらい。

 それよりも、僕が本当に不思議に思ってるのは、君のその異様な回復力だよ。

 治癒魔法を使った形跡もないのに、どうして怪我の治りがそんな早いのか。

 まったく、羨ましい限りだ」


 俺は心底、ホッとした。

 彼は、俺の〈肉体強化〉魔法にも、ナノマシンによる回復機能にも気づいていながら、不問に付してくれている。

 実際、敵軍との戦闘最中に、仲間から腹を探られるのは面倒くさい。


「ありがたい。さすが太っ腹。

 高みの見物を決め込んでる騎士団の連中より、よほど責任者としての器が大きいな!」


 俺様のいささか見えすいた賞賛も、彼には心地良かったらしい。

 騎士団に対する不満も口にした。


「君が共に戦場にある仲間だから言うんだけどーー。

 もちろん、騎士団の者の全てが、騎士に相応(ふさわ)しいわけじゃない。

 騎士団が多くの平民を率いることができているのは、彼らが貴族としての礼節を(わきま)えているからじゃない」


 スカイムーンは、左手に握った黄金杖を眺める。


「このような魔法杖を独占しているから、王国騎士団は、数多(あまた)の冒険者パーティーを統率できるんだ」


 どうやら、この男、腹の底では、騎士団に対して含むところがあるらしい。

 ここは一つ、思い切りヨイショして、本心を引き出してみよう。


「何を今さら。

 冒険者(俺たち)は、〈青い眼旅団〉が統率してるんだろ?

 そして、その〈青い眼旅団〉は、スカイムーン、あんたの支配下にある。

『誓いの言葉のみっつー。リーダーの言うことは絶対。何も考えずに従え!』ってね」


 俺が〈青い眼旅団の誓いの言葉〉を口にすると、スカイムーンは肩をすくめた。

 そして唐突に、俺様の身の上について言及した。


「どうやら、君が〈異世界から派遣されてきた魔術師〉なんだね。

 話は聞いていたんだ。

 でも、誰がそうなのか、わからなかった。

 なにせ、冒険者を大勢集めたからね」


〈青い眼旅団〉のリーダーたるスカイムーンは、「異世界から魔術師を呼ぶ」という企画自体は、騎士団伝えに耳にしていたらしい。

 ところが、俺、〈魔術師マサムネ〉が、その異世界人だという確証を得られないままに、今まで接してきたらしい。

 俺がニューフェイスであることも知らないとは、長らく冒険者パーティーのトップを張っていたとは思えない発言だ。


「おいおい、半数近くが〈青い眼旅団〉傘下の冒険者だっていうのに。

 知らない顔なんて、幾らもないだろ?」


 と、俺は呆れ声をあげた。

 すると、スカイムーンは真顔で吐き捨てた。


「どうして、僕が平民どもに気を配らなきゃならない?」


 さらに言い募る。


「僕の頭の中はね、〈青い眼旅団〉の中枢メンバーのほかは、貴族社会の人物でいっぱいなんだ」


 おいおい。

 いいのかよ、そこまでぶっちゃけて。

 ーーまあ、相手にしているのが、俺、異世界人という究極の余所者(よそもの)だからこそ、口に出来る本心ってヤツなんだろうけども。

 ほんと、善人ヅラした笑顔の裏面を(のぞ)き見た思いだ。


「ようやく本音が聞けて、嬉しいよ。

 ホントのところ、アンタのこと、胡散臭(うさんくさ)く思えて仕方なかったんだ」


 俺が笑うと、スカイムーンも笑った。


「なに、君みたいに、誰もかも信じてない人間よりはマシさ」


 はっははは!


 戦場の真っ只中で、俺たちは背中を合わせて笑い合った。

 両手両脚を素早く動かし、敵軍兵の攻撃を(かわ)しながら。


 幸いにも、敵襲が減りつつある状況だった。

 実際、敵軍による攻勢がいったん止まったらしい。


 とはいえ、相手は軍隊だ。

 攻撃自体を取りやめるとは思えない。


 案の定、斥候(せっこう)役の冒険者が声を上げる。


「敵の第二陣、来ます!」


 目を細めて、前方見はるかすと、派手に土埃が舞っている。

 今までの軍勢より、規模が大きくなったみたいだ。


 俺は生唾を飲み込み、全身に力を込める。

 隣でスカイムーンも杖を持つ力を強めていた。


「さあ、敵が来たよ。

 戦おうか。

 俺も君も、自分の利益のために」


「おう!」


 新たな敵軍の先鋒が放つ魔法攻撃と、味方、冒険者攻撃部隊が放つ魔法攻撃とがぶつかり合い、前哨戦(ぜんしょうせん)が始まった。

 俺たちと敵軍との間に、炎の渦が巻き起こる。

 そして、その炎の向こうから、敵軍の第二陣が姿を現した。


 おおお……!


 冒険者の仲間たちが、どよめきの声を上げる。


 ようやく、新たな敵軍の全貌が目の前に現れたのだ。

 俺たちは攻撃部隊だが、反射的に後退(あとじさ)る者も出てくるほど、敵は威容を誇っていた。

 さすがは正規軍が相手なだけはある。


 いきなり、幾つもの巨大な山が、我々の前に立ちはだかった。


 帝国軍が大型兵器を投入してきたのだ。

 人間の体の数十倍もある巨大な岩山が集団で迫ってくるーーそう感じた。

 巨大な岩の群れは、その大きさから〈山〉と形容すべきだが、形状としては、よく見たら、人型であった。

 もちろん、何の武器も持ってはいない。図体があまりにデカいから、それに見合った武器が考えつかない。

 だが、武器など必要ないことは、容易に見て取れる。

 彼ら岩の人型ならば、握り拳で両腕を振り回すだけで、並の人間なら何人も一気に吹き飛ばされるだろう。


 巨岩の人型の両眼には、青やら黄色やらの光が宿っている。

 どうやら魔力によって、岩山の周りにも障壁が築かれているらしい。

 現に、味方による炎や雷撃による攻撃魔法が通じていない。

 火球も光球も弾き飛ばされている。


 俺は口をあんぐり開けた。

 この世界には機械兵器は存在しないーーそう思っていた。

 だが、甘かった。

 逆に、異世界ならではの巨大兵器が存在したのだ。


「あれは……ゴーレムってやつか!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ