◆30 異世界ならではの巨大兵器、登場!
俺、東堂正宗は、すぐ隣で、俺と共に帝国軍兵士を薙ぎ払っているリーダー、スカイムーンの動きを見て、奇妙な感触にとらわれていた。
彼が敵兵の武器や身体が触れる瞬間ーー敵の動きが極端に鈍くなったり、弱くなってはいないか?
いいように、敵の動きを操っているように見える。
魔法なのか、それとも訓練の果てに辿り着いた、某バスケ漫画の視線誘導みたいな何かか?
俺も何人か敵兵をあしらった後、ごく自然な形でスカイムーンと背中を守り合う格好になった。
まずは素直に、感嘆の声をあげた。
「アンタはやはり、只者じゃないな。
相手の動きまで、自在に操れるのか?」
俺の直球の質問に対して、スカイムーンはいかにも育ちの良さがわかる反応をした。
「自在だなんて。そんなことはないさ。
ちょっと動くスピードを変えるぐらいかな」
スカイムーンは苦笑いを浮かべつつも、満更でもない表情をしている。
ヨイショされたのが、本当に嬉しいみたいだ。
謙遜しつつも、自分の能力に対する自信が見え隠れしている。
と同時に、自分の能力を悟られたくないと言う意識があるようで、即座に話題を切り替えてきた。
「僕のことなんかより、君の方がよほど興味深い。
さすが、〈宇宙一〉と自称するだけある。
君のその驚異的な体力ーー付与能力によるものだね。
付与によって、筋肉を極限にまで増強してるとみたが、どうだい?」
おっと、さすが冒険者の第一人者、俺様の数少ない魔法ーー〈肉体強化〉能力があっさりバレた!?
たしか、この国じゃ、探索系や生活系以外の魔法は使用禁止だ。
ひょっとして、付与の魔法がバレるだけでもマズいことになるのか?
脊髄反射的に、俺はごまかした。
「ええっとーー何のことだ?
俺の体力のことかぁ?
そうだな、俺様に体力があるのは、ひとえに鍛えた結果ってヤツだ。
人は裏切るけど、筋肉は裏切らない。
筋トレが趣味なんだよ」
俺のおとぼけに、スカイムーンはお付き合いして、快活に笑った。
「ははは。ま、そういうことにしといてやるよ。
国法でも、べつに付与魔法は禁じられてるわけじゃない。
いいじゃないか。自分の身体に付与するぐらい。
それよりも、僕が本当に不思議に思ってるのは、君のその異様な回復力だよ。
治癒魔法を使った形跡もないのに、どうして怪我の治りがそんな早いのか。
まったく、羨ましい限りだ」
俺は心底、ホッとした。
彼は、俺の〈肉体強化〉魔法にも、ナノマシンによる回復機能にも気づいていながら、不問に付してくれている。
実際、敵軍との戦闘最中に、仲間から腹を探られるのは面倒くさい。
「ありがたい。さすが太っ腹。
高みの見物を決め込んでる騎士団の連中より、よほど責任者としての器が大きいな!」
俺様のいささか見えすいた賞賛も、彼には心地良かったらしい。
騎士団に対する不満も口にした。
「君が共に戦場にある仲間だから言うんだけどーー。
もちろん、騎士団の者の全てが、騎士に相応しいわけじゃない。
騎士団が多くの平民を率いることができているのは、彼らが貴族としての礼節を弁えているからじゃない」
スカイムーンは、左手に握った黄金杖を眺める。
「このような魔法杖を独占しているから、王国騎士団は、数多の冒険者パーティーを統率できるんだ」
どうやら、この男、腹の底では、騎士団に対して含むところがあるらしい。
ここは一つ、思い切りヨイショして、本心を引き出してみよう。
「何を今さら。
冒険者(俺たち)は、〈青い眼旅団〉が統率してるんだろ?
そして、その〈青い眼旅団〉は、スカイムーン、あんたの支配下にある。
『誓いの言葉のみっつー。リーダーの言うことは絶対。何も考えずに従え!』ってね」
俺が〈青い眼旅団の誓いの言葉〉を口にすると、スカイムーンは肩をすくめた。
そして唐突に、俺様の身の上について言及した。
「どうやら、君が〈異世界から派遣されてきた魔術師〉なんだね。
話は聞いていたんだ。
でも、誰がそうなのか、わからなかった。
なにせ、冒険者を大勢集めたからね」
〈青い眼旅団〉のリーダーたるスカイムーンは、「異世界から魔術師を呼ぶ」という企画自体は、騎士団伝えに耳にしていたらしい。
ところが、俺、〈魔術師マサムネ〉が、その異世界人だという確証を得られないままに、今まで接してきたらしい。
俺がニューフェイスであることも知らないとは、長らく冒険者パーティーのトップを張っていたとは思えない発言だ。
「おいおい、半数近くが〈青い眼旅団〉傘下の冒険者だっていうのに。
知らない顔なんて、幾らもないだろ?」
と、俺は呆れ声をあげた。
すると、スカイムーンは真顔で吐き捨てた。
「どうして、僕が平民どもに気を配らなきゃならない?」
さらに言い募る。
「僕の頭の中はね、〈青い眼旅団〉の中枢メンバーのほかは、貴族社会の人物でいっぱいなんだ」
おいおい。
いいのかよ、そこまでぶっちゃけて。
ーーまあ、相手にしているのが、俺、異世界人という究極の余所者だからこそ、口に出来る本心ってヤツなんだろうけども。
ほんと、善人ヅラした笑顔の裏面を覗き見た思いだ。
「ようやく本音が聞けて、嬉しいよ。
ホントのところ、アンタのこと、胡散臭く思えて仕方なかったんだ」
俺が笑うと、スカイムーンも笑った。
「なに、君みたいに、誰もかも信じてない人間よりはマシさ」
はっははは!
戦場の真っ只中で、俺たちは背中を合わせて笑い合った。
両手両脚を素早く動かし、敵軍兵の攻撃を躱しながら。
幸いにも、敵襲が減りつつある状況だった。
実際、敵軍による攻勢がいったん止まったらしい。
とはいえ、相手は軍隊だ。
攻撃自体を取りやめるとは思えない。
案の定、斥候役の冒険者が声を上げる。
「敵の第二陣、来ます!」
目を細めて、前方見はるかすと、派手に土埃が舞っている。
今までの軍勢より、規模が大きくなったみたいだ。
俺は生唾を飲み込み、全身に力を込める。
隣でスカイムーンも杖を持つ力を強めていた。
「さあ、敵が来たよ。
戦おうか。
俺も君も、自分の利益のために」
「おう!」
新たな敵軍の先鋒が放つ魔法攻撃と、味方、冒険者攻撃部隊が放つ魔法攻撃とがぶつかり合い、前哨戦が始まった。
俺たちと敵軍との間に、炎の渦が巻き起こる。
そして、その炎の向こうから、敵軍の第二陣が姿を現した。
おおお……!
冒険者の仲間たちが、どよめきの声を上げる。
ようやく、新たな敵軍の全貌が目の前に現れたのだ。
俺たちは攻撃部隊だが、反射的に後退る者も出てくるほど、敵は威容を誇っていた。
さすがは正規軍が相手なだけはある。
いきなり、幾つもの巨大な山が、我々の前に立ちはだかった。
帝国軍が大型兵器を投入してきたのだ。
人間の体の数十倍もある巨大な岩山が集団で迫ってくるーーそう感じた。
巨大な岩の群れは、その大きさから〈山〉と形容すべきだが、形状としては、よく見たら、人型であった。
もちろん、何の武器も持ってはいない。図体があまりにデカいから、それに見合った武器が考えつかない。
だが、武器など必要ないことは、容易に見て取れる。
彼ら岩の人型ならば、握り拳で両腕を振り回すだけで、並の人間なら何人も一気に吹き飛ばされるだろう。
巨岩の人型の両眼には、青やら黄色やらの光が宿っている。
どうやら魔力によって、岩山の周りにも障壁が築かれているらしい。
現に、味方による炎や雷撃による攻撃魔法が通じていない。
火球も光球も弾き飛ばされている。
俺は口をあんぐり開けた。
この世界には機械兵器は存在しないーーそう思っていた。
だが、甘かった。
逆に、異世界ならではの巨大兵器が存在したのだ。
「あれは……ゴーレムってやつか!?」




