◆29 うん、悪くない。やっぱ、異世界の俺はヒーローだ!
俺、東堂正宗は、本来、冒険者魔術師として、奴隷解放のために、ちょっと手助けをする予定だった。
それなのに、思いがけず戦争のど真ん中に立たされることになってしまった。
実際に今、頭上に弓矢や石礫が激しく飛び交っていた。
次いで、炎の球、光の球がまっすぐこちらに飛び込んでくる。
敵の帝国軍による攻撃が始まったのだ。
(まずいな。マジで狙われてんな……)
とはいえ、こちらも無力ではない。
黄金の杖によって魔法攻撃ができるようになっている。
他にも、銀色の杖によって防御魔法が、黒色の杖によって回復魔法が、一般の冒険者でも駆使できるようになった。
おかげで、敵からの攻撃に対しても、魔法による炎や光の塊ならば、銀色部隊の活躍によって、魔法障壁で弾き返し返してくれている。
それでも相手は軍隊である。
一度、戦闘状態になったら、よほどのことがない限りは撤退してくれない。
しかもこちらは冒険者パーティーの集まりに過ぎない。
本来、戦争などするつもりのない集団だ。
敵軍が舐めてかかってきて当然だ。
現に帝国軍は長槍部隊を前面に押し立て、迫ってきた。
長槍とは言っても、単なる槍ではない。
攻撃魔法を通常運転で使いこなす帝国軍だ。
長槍の穂先に、魔法障壁を突き破る魔力が込められていた。
槍先による物理攻撃と、数百度の熱を持つ炎による攻撃魔法の合わせ技である。
防御魔法を展開しても、槍先による攻撃で、防御陣を物理的に突破されてしまう。
単純な肉弾戦となると、冒険者が軍団兵士に対抗するのは難しい。
体力だけならば、冒険者の面々の方が優れた者も多かったが、人間を殺すことに慣れていない。どうしても刃が躊躇してしまう。
結局、弓矢や槍の力によって押しまくられ、防御を担う銀色部隊は撤退を余儀なくされてしまった。
代わって黄金杖の部隊ーースカイムーンが率いる攻撃部隊が前面に立ち、敵の長槍部隊と対峙する。
攻撃部隊とは言っても、魔法攻撃に特化した部隊に過ぎないので、冒険者の面々は困惑するしかない。
相手に剣を振るう事はあっても、軍人相手に集団戦を挑んだことなど、誰もないのだ。
「どうする?」
「こちらには長い武器はないぞ」
「知るか!」
つい先ほどまで魔法が使えなくて弱っていたが、今度は一転、物理的に戦闘ができないので、まごついてしまっていた。
冒険者のみなが、後退る。
そんな中、悠々と前へと進むのは俺様、東堂正宗ぐらいだ。
俺は敵兵の長槍と長槍の間に滑り込み、槍兵たちの喉笛を切り裂いた。
〈肉体強化〉能力で、常人の三倍以上の力があったから、俺はこっちの世界の住人よりも素早く、しかも力強い。
「おい、見ろよ。アイツ、凄い力だ」
「敵軍兵士に押し負けていない」
「敵の長槍を、側面に回り込んで叩き折ったぞ!
なんて戦い方してるんだ!?」
「あいつは誰だ?」
「あれだよ。〈青い眼旅団〉から追い出されたマサムネってやつだ」
うおおおお!
冒険者連中は、俺様に向かって喝采を送り始めた。
それだけではなく、俺の背中の後ろに回り込んで円陣を組んでいる。
俺様を前面に押し立て、敵軍に対峙する構えになっていた。
俺は大地を踏み締めて仁王立ちし、鼻息を鳴らす。
(ーーうん、悪くない。
やっぱ、異世界の俺はヒーローだ!)
俺の背中でマントが翻っていないのが残念なくらいだ。
今の俺様にタメが張れるヤツはたった一人……攻撃隊のリーダー、スカイムーンだけだ。
俺は、すぐ横で歩く男を、チラリと窺い見た。
彼が魔法杖を一振りするだけで、辺り一面に火の手があがっていた。
スカイムーンは周囲を焼け野原にしながら、俺のすぐ隣で歩いている。
魔法戦だけでなく、実際に刃を交えるフィジカルな武力闘争になってきたので、馬上にあるのが面倒になったようだ。
この世界での戦争は、魔法があるおかげか、ほとんど物理的な機械兵器が使われていない。投石機も、大砲も、銃すら見かけない。
だから、強力な魔法を使うことができて、強靭な体躯を持つ者は、ほとんど無敵だ。
いまや冒険者集団は、俺様とスカイムーンを前面に押し立てた軍団と化していた。
(それにしても熱いな、おい……)
隣で杖を振っているスカイムーンが放つ魔法を見て、感じて、つくづく思う。
あの火力ーーマジで凄まじい魔力量だ。
でも、スカイムーン個人が持つ魔力だけではなさそうだ。
(あの杖の力だろうな……)
杖が黄金色に輝いている。
魔力を溜め込んだうえで、好きな所に付与できるみたいだ。
当然、杖の使用者自身にも、魔力を付与することができるんだろう。
(俺の推測が正しければ、じつに便利な魔道具だ。
ぜひとも、派遣時の常用実装兵器にしたいもんだ)
本当をいえば、スカイムーンは、魔法杖がなくったって結構強い。
魔力量は俺より少し劣るけど、隠れた能力を持ってるみたいだし(俺様の〈鑑定〉をすり抜けるほどだ)、何よりフィジカルが素晴らしい。
筋肉隆々で膂力が強い。
機敏な動きもできる。
まるで格闘系アスリートみたいな肉体を誇っていた。
右手に剣、左手に杖を持ち、敵兵の槍先をビシバシ捌くさまも、滑らかで美しい。
だが、どこか妙だ。
よく見たら、スカイムーンの動きが、俊敏なだけじゃない。
スカイムーン相手に、何度か帝国軍兵が斬りかかってきた。
それを難なく捌く。
敵と身体を触れ合わせるほど近接ながらも、傷一つ付けずに、スカイムーンは敵を斬り倒す。
ーーだが、その瞬間、違和感があった。
敵の動きが一瞬、遅くなったり、弱くなったりしているような……。
(まさか、アイツ、相手の動きまで操作できるのか?)




