◆26 よし、ようやく俺の本領発揮だ。〈肉体強化〉!
俺、東堂正宗は、日本東京から異世界に派遣され、今現在、野盗討伐に参加している。
だが、攻撃魔法を禁じられたモブ冒険者として派遣されているので、本来は、派手な攻撃を控えざるを得ない状況になっていた。
しかし今回、野盗狩りにおいて、騎士から貸し与えられた魔法杖によって魔力を付与され、堂々と攻撃魔法を使えるようになった。
だが、やっぱりモブはモブ。
攻撃組冒険者パーティーの中で一際目立ってるのは、俺ではなく、リーダーのスカイムーンだ。
騎馬で戦場を疾駆するスカイムーンは、野盗どもからは恐れられて避けられ、仲間の冒険者たちからは絶大な支持を受けていた。
「また、野盗どもを薙ぎ払ったぞ!」
「こっちに野盗どもが逃げてますよ。
一気にやっちゃってください!」
「スカイムーン、万歳!」
冒険者たちのリクエストに応えて、スカイムーンは馬上で杖を黄金色に輝かせる。
その途端、何本もの炎の矢が中空に現われる。
スカイムーン黙ったまま、杖を振り下ろす。
すると炎の矢が、野盗どもが固まってる場所へと凄い速さで飛ぶ。
おおおお……!
冒険者たちは息を呑む。
瞬時に一面が焼け野原になってしまっていた。
周囲に群がって来ていた野盗ども黒焦げになって、個々人の顔が識別できないほどであった。
それなのに、仲間の冒険者たちに被害はない。
魔法杖が力を付与した者を識別し、攻撃されないように配慮しているようだった。
攻撃組の冒険者たちは、みなピンピンしている。
防御系の連中が活躍するまでもないほどだ。
(なんとも、器用なことだ。
魔道具ってのも凄いもんだな……)
何十本も炎の矢が浮かび上がり、火炎と黒煙が渦巻く。
そのど真ん中を悠然と騎行するスカイムーン。
敵の野盗どもからみれば、まるで魔王の如き存在感であろう。
(ひょっとしたら、俺以上の威力を持ってるかも。
俺の方が魔力量が多かったはずだがーーやっぱ、あの杖が原因か?)
このまま圧勝するかに思われた。
が、敵もしぶとい。
黒煙渦巻く只中から、〈敵〉が突撃してきた。
冒険者たちが炎や雷で迎撃するも、その攻撃を掻き消す。
野盗どもの身体を、青白い魔法障壁が包んでいた。
そして、剣や刀、棍棒を手にしている。
そうした武器で、直接、冒険者たちに斬りかかってきた。
「ギャア!」
「うわ!」
仲間の身体から血飛沫が上がる。
野盗どもの集団を取り囲む魔法障壁は、魔法攻撃のことごとくを無効化するようだ。
そのくせ、刀や棍棒、弓矢などの物理攻撃は自由に繰り出せる。
「ひいいい!」
「野盗ども、肉弾戦を仕掛けてきやがった!」
それまで魔法攻撃を楽しんでいたので、かえって冒険者たちは怯んでしまっている。
その一方で活気付いたのは、何を隠そう、〈異世界からの来訪者〉たる俺、〈魔術師マサムネ〉であった。
俺様は大地を二本の足で踏み締める。
そして、野盗どもを正面から見据え、胸を張った。
「よし、ようやく俺の本領発揮だ。〈肉体強化〉!」
俺は、自らの身体に〈肉体強化〉の魔法を使った。
魔力で筋肉量を三倍と化し、しなやかさも強靭さも数段アップさせる魔法だ。
〈探索〉〈索敵〉等々、非攻撃系魔法しか使えないモブ冒険者〈魔術師マサムネ〉として派遣されて来たが、〈肉体強化〉能力だけは、上司の星野ひかりちゃんお墨付きの使用許可された魔法である。
「おおおおっ!?」
魔力のサポートを受け、全身に力が漲る。
(よし、〈魔剣士マサムネ〉の誕生だ!)
俺様は剣を構え、敵に向けて突っ走った。
「おりゃああああ!」
群がり襲ってくる野盗どもを、次々と斬り捨てていく。
野盗の奇襲部隊が魔法効力を無化する障壁魔法を展開したようだが、俺には関係ない。
野盗どもにしてみれば、肉弾戦ーーフィジカルによる武力闘争に打って出て、戦況を有利に運ぼうとしたのだろう。
だが、〈肉体強化〉は俺自身の、体内に対する魔法強化だ。
空間にいかなる障壁を展開しようが影響はない。
しかも、俺には他の冒険者にはない秘密能力がある。
ナノマシンによる肉体修復機能だ。
俺はほとんど力任せに剣を振り回すばかりだったから、何度も野盗どもから小狡い攻撃を受け、負傷した。
もとより、野盗どもは低い構えを取って、手や足の甲、筋肉の筋や、動脈が走る箇所などを、的確に狙い撃ちしてくる。
実際、俺は何度も筋を斬られ、動脈を破られ、骨まで折られた。
だが、その度に、俺は即座に回復した。
急所を突いた手応えを感じてほくそ笑んだ野盗どもが、俺がピンシャンしてるのに驚愕したまま死んでいく。
野盗どもにしてみれば、治癒魔法を使わずして、怪我が癒えて戦い続ける俺様は、さぞかし〈魔術師〉や〈魔剣士〉以上のバケモノに見えるだろう。
そうした驚きは、味方の冒険者連中から見ても同じであった。
「すげえ!」
「見ろよ、あのマサムネとかいうヤツ……」
「〈青い眼旅団〉から追い出された奴じゃねえか?」
「ああ、そうだ。
アイツ、あんなに強かったのか!?」
冒険者どもが、呆然とした表情で囁き合う。
野盗どもも、恐れをなして、俺から逃げ惑うばかり。
実際、正面から野盗どもとぶつかって戦えるのは、俺とスカイムーンぐらいだった。
個々人の戦闘力では、冒険者たちの方が野盗どもよりも優れていた。
だがしかし、魔法攻撃か無効化されて白兵戦となったら、戦い慣れた野盗集団の方が分があった。
攻撃隊リーダー、スカイムーンは黄金杖と魔剣の両刀使いで野盗どもを蹴散らしつつ、馬上で大声を張り上げた。
「怪我したヤツは後方に回れ。黒色組が癒してくれる!」
後方では、黒杖を手にした禿げ男の指揮のもと、治癒回復部隊が活躍していた。
野盗どもに怪我を負わされた何人もの冒険者たちを、一手に引き受けて治癒し続けている。
魔力が強力な者の中には、負傷した冒険者の、切断された足や腕を蘇生している者もいた。
遠目で見れば、エレッタのヤツも神官らしく、両手を緑色に輝かせながら冒険者たちの怪我治癒して回り、張り切ってる。
黒色の治癒回復系の活躍は目覚ましい。
おかげで、安心して戦うことができる。
実際、時間が経てば経つほど、冒険者側が優勢になっていた。
「防御系は何してる?
たしか、防御系は銀色組だったはず」
俺が仲間の陣営を見回しながら尋ねると、スカイムーンは笑いながら尋ね返した。
「何もしてないと思うのか?」
スカイムーンが向けた視線に誘導されて振り向く。
そして、ようやく気づいた。
左右から襲いかかって来た野盗どもーーそいつらが仕掛けてくるタイミングが散発的だったことを。
野盗どもは魔法障壁で魔法攻撃を無効化してはいたが、何度もこちらへの突入を阻害されていて、実質、少しの人数づつしか突撃することができなくされていたのだ。
敵が遠距離から魔法攻撃を仕掛けている段階では、防御魔法で側面と背後をずっと固めていた。
そして、敵が左右から魔法障壁と共に突撃を仕掛けてくると、銀色組も魔法障壁で幾重にも壁を築き、敵の侵入経路を限定した。
おかげで、比較的少数同士でぶつかり合うこととなり、戦い慣れていない冒険者たちも争い続けることが可能になっていたのだ。
道理で、野盗にしては正面から突っ込んくるバカ正直なヤツらばかりだったわけだ。
そのように動くしかできないよう、誘導されていたのだ。
かくして、時間経過とともに、冒険者集団が野盗連合を圧倒し始めたのであった。




