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◆22 奴隷売買阻止を餌に、冒険者を……!?

 俺様、東堂正宗(とうどうまさむね)は、今回、〈非力なモブ冒険者魔術師〉として異世界に派遣されている。

 奴隷売買を阻止して、奴隷を解放するという地味な(?)仕事に協力するはずだった。

 それなのに、いきなり大規模な野盗・盗賊連合の武装集団を前に、ほぼ同数の八十騎で立ち向かう冒険者パーティーの一員にされてしまった。


 冒険者集団のリーダーである、スカイムーンが黄金の杖を手に、馬上で振り向いた。


「みんな。これから野盗狩りを始めるぞ!

 アイツらは『大規模な奴隷売買が行われる』という噂に飛び付いた連中だ。

 奴隷も売上金も、すべて巻き上げようとしてる。

 撃退するぞ!」


 俺は腹の中で笑った。


(よく言うぜ。

 初めっから、奴隷売買阻止を餌に、冒険者を野盗狩りにコキ使おうって腹だったくせに)


 一方、俺以外の冒険者たちはみな青褪(あおざ)めていた。

 そりゃ、そうだ。

 俺みたいに、〈青い眼旅団〉や王国騎士団の連中を疑ってはいなかったからな。


 でも、そんなお人好しどもも、もはや後には退けない。


 前方には、いかにも戦闘に()けた野盗集団が集まっており、今にも襲いかかろうとしている。

 そして後方には、王都を取り囲む大壁が(そび)え立っている。(ご丁寧に門まで閉じられて!)


 さらに、本来なら、率先して野盗を討伐すべき王国騎士団はーー?


 俺が〈探索〉によって遠視すると、横方向に(そび)え立つ丘の上で、相変わらず異装の連中を同行させつつ、高みの見物と洒落込んでいた。

 しかも、もとより壁外にいた本隊が合流したとみえて、騎士団の規模は、以前の倍ーー五、六十騎に膨れ上がっていた。

 おまけに、杖を片手に長衣(ローブ)を着込んだ、いかにもな魔術師が何十人も寄り添っていた。


 さすがに、イラっときた。


「おいおい!

 騎士団のヤツら、なにを物見遊山してやがる!?

 こいつは奴隷商人の捕縛といった捕物レベルの事件じゃない。

 100名を数える武装集団との戦闘だ。

 まさに王国騎士団が対処すべき案件じゃねえのか!?」


 俺は怒声を張り上げた。

 が、俺の意見に賛同する冒険者は一人もいなかった。


 それもそのはず。

 俺ほど〈遠視〉が出来る人間が、この場にはいなかったからだ。

 普通に見れば、目を凝らして、ようやく騎士団の銀色に輝く甲冑が、丘の上に豆粒のように見えるかどうかってほどの遠距離での出来事だ。

 俺の指摘に同調できる者は一人もいなかった。

 おまけに、今にも前方から、敵勢が束になって襲い掛かろうとしているのだ。


 野盗どもの喚声と、冒険者たちの叫びで、俺の怒声は掻き消された。


「来たぞ!」


「雷撃だ!」


「火炎の砲弾に気をつけろ!」


 方々に点在する樹木が打ち倒され、燃えていく。


 ドゴッ、ドゴッ!


 轟音とともに地面が穿(うが)たれていく。

 大振りの岩石までが、打ち砕かれていく。


「冗談じゃない!

 コッチは魔法攻撃が禁じられてるってのに、野盗どもはなんでもありってか!?」


 そうなのだ。

 今、敵となってる野盗集団は、国法に(そむ)く武装集団ーー要するに犯罪組織だ。

 だから、「探索系や治癒系、生活系の魔法しか使ってはいけない」ーーという国王の命令自体に耳を貸さない。

 当然、攻撃魔法を使いまくってくる。

「野盗」であるからには、当然のことといえる。


(ちっ、正面から迎え撃つってのは、結構、しんどいぞ!)


 俺はさらに強く〈探索〉を発動させる。

 野盗どもの陣容を見定めて、これからの出方を予測しようとした。


 が、野盗集団の全容が(うかが)えない。

 今では野盗どもの半数以上が、俺様の〈探索〉有効範囲ギリギリの線で出たり入ったりしている。

 しかも、攻撃方法の基本が、魔法による遠距離攻撃だ。


(ちっ!

 まるで俺の〈探索〉能力の有効範囲を知ってるみたいじゃないか?)


 野盗どもは非遵法集団であるがゆえに魔法を使いまくっているだろう。

 結果、探索系魔法についても、よく知っているはずだ。


 でも、俺様の〈探索〉能力は規格外の性能を誇っているはずだ。

 魔力量が999もある人物は、冒険者の中にはいなかった。

〈探索〉の有効範囲も魔力量に相応して広がっている。

 しかも、俺にはナノマシンによる映像化能力もある。

 だから、俺ほどの優秀な探索系魔術師を想定できないはずなのだ。


 なのに、キッチリ、俺の能力が効かないギリギリの線まで距離を取っている。

 偶然にしては出来過ぎだ。

 やっぱ、俺の能力が、野盗どもに探られたとみるべきか?


 ーーでも、問題は、野盗どもが〈探索〉の範囲外で陣を展開していることだけじゃない。

〈索敵〉能力を発揮する機会が、俺に全くなかったことだ。


〈索敵〉は遠方の〈敵意〉を読み取る、じつに便利な能力(スキル)である。

 が、〈探索〉能力よりも、有効範囲が狭い。

 だから、敵に〈探索〉能力範囲を超えて動かれたら、〈索敵〉能力が機能しない。

 遠距離からの魔法攻撃によって、コッチの陣形が崩壊して、トドメを刺そうってときまで、実際に敵が攻め込んでくるのはお預けって作戦らしい。


(どうやって、俺の〈索敵〉能力を、野盗どもは知ったんだ?

 それも、有効範囲まで。

 俺は誰にも、〈索敵〉能力について、教えていないぞ?)


 誰が俺の能力を、野盗どもに報せた?

 スカイムーン?

 ジュン?


 ーーいや〈青い眼旅団〉のメンバーとは限らない。

〈疾風の盾〉かもしれない。

 レッド?

 エレッタ?


 だけど、ヤツら相手でも、俺様の〈探索〉能力が他を凌駕(りょうが)していることを示唆はしたが、それだけだ。

 〈索敵〉能力については、一切、話していない。


 やはり、誰かが何らかの能力で、俺のスキルを〈盗み見〉したのか?


 とすると、やはりーー。


 俺は今現在、(くつわ)を横に並べている女冒険者リーリアを見遣()る。

 彼女の職種は〈盗賊〉だ。

 俺の能力を〈盗み見〉することが最も容易だったのは、能力的にも、機会的にも、一緒に行動していた彼女である。


 だが、しかしーー。


 今の彼女の横顔はどうだ。

 必死の形相で、気を張り詰め、野盗の襲撃に備えている。

 野盗どもに内通しているようには、とても思えない。


(やっぱ、俺から能力を盗み見したヤツなんて、いないのか?

 俺の〈索敵〉能力の有効範囲ギリギリで陣営を展開させてるのは、単なる偶然ーー?)


 疑問が渦巻く状態のまま、俺は戦闘に入るしかなかった。

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