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◆21 やっぱり、俺たち冒険者は嵌められた!

 夕陽が、沈んでいく。

 空が赤く染まって、少しずつ光が失われていく。

 こうして視界が暗転していくのが恐ろしいように、今の状況はかなり怖い。

 この違和感に、どれだけの冒険者が気づいているのか。


 俺、東堂正宗とうどうまさむねは、自分に配布された金色のブレスレットを腕にまわし、眺める。

 そして、冒険者たちが置かれつつある状況に、強い違和感を感じつつも、とりあえずは流れに身を任せようと決心した。


 ()められたーーそうだ。

 リーリアの「お気持ち」は、おそらく正しい。


〈青い眼旅団〉はグレーだが、少なくとも、冒険者を大量に動員した王国騎士団には、明らかに作意がある。

 裏で何かを企んでいる。

 俺たち冒険者を嵌めようとしている。


 そう考えなければ、辻褄(つじつま)が合わない。


 大規模な奴隷売買なんか、存在しなかった。

 幌馬車に、奴隷はいないんだからな。

 しかも、なかなか買い手が現れないーーことにされている。


 奴隷売買阻止を口実にして、冒険者を多数、王都の外に引っ張り出したかったーーそれだけじゃないのか?


 それを承知で、冒険者集団を先導していたのが、騎士団に気脈を通じた〈青い眼旅団〉というわけか。


 ーーで、俺たち非力な冒険者たちに、今から何をさせようと?


「馬に乗れ!」


 スカイムーンの指示があったのだろう。

〈青い眼旅団〉の副団長ジュンが、自らも騎乗しながら声を張り上げる。


 変なブレスレットを渡され、今度は騎乗しろ、という。


 ザワザワ……。


 さすがに、〈青い眼旅団〉の意図を測りかね、冒険者たちはざわめく。

 半数が〈青い眼旅団〉傘下パーティーだとしても、残りの半数は、今回の奴隷売買阻止という事件(ヤマ)に参加しただけの冒険者たちだ。

 傘下パーティーの面々にしても、中枢メンバーほどスカイムーンに心酔していない。

 親玉(ボス)による意味不明な「命令」の連続に、不満が募る。


 とはいえ、口に出して表明するほど、冒険者たちに憤懣(ふんまん)は溜まっていない。

 少なくとも、まだ実害は受けてはいないのだから。


 みな、渋々ながら騎乗する。


 彼ら冒険者はほとんどが平民出身だが、仕事柄、遠出することが多い。

 結果として、馬を操れる者がほとんどになっていた。

 冒険者組合(ギルド)での最下級からのレベルアップの条件にも〈乗馬〉があるほどだ。


 リーリアは俺様を見て、指を立てて笑う。


「アンタ、危なっかしいねぇ!

 ひょっとして、馬、苦手なの?」


 俺は文句ありげに口を(すぼ)めた。


「俺様は〈魔術師〉なんだ。仕方ないだろ!」


 俺はヨタつきながら、馬の首にしがみつく。


 前回の派遣では〈勇者〉だった。

 それも〈飛翔(フライ)能力(スキル)を有するチート能力者だった。

 鳥の如く空を舞い、狼の如く地を駆けることができた。

 だから、乗馬をする機会がほとんどなかった。


 従って、俺の乗馬体験といえば、ついさっきリーリアの背中にくっついて相乗りしたときと、前回派遣で森を抜ける際に何度か乗馬を現地人に教わりながら移動したとき、そして子供のとき、マ◯ー牧場で小馬(ポニー)(またが)ったときぐらいだ。


 でも、醜態を晒すわけにはいかない。

 俺は密かに〈肉体強化〉を使った。

 一気に俺の太腿の筋肉が魔力で増大し、脚が太くなる。

 そして、ガッチリ馬の身体をホールドした。


 俺が乗った黒馬は、一瞬、ビクッと身体を震わせた。

 が、やがて俺を主人と認めてくれたようで、無駄な動きをしなくなった。

 俺が手綱を握る強さに反応して、脚を動かしてくれる。


 俺は安堵の溜息を漏らした。


(人慣れした馬で助かった……)


 乗馬に際して、俺ほど苦労した者はいなさそうだった。

 職種や男女に関係なく、コッチの世界の冒険者は本当に馬に乗り慣れているようだ。


 が、馬は生き物だ。

 さすがに八十頭もの馬が人を乗せていっせいに動き始めたら、土埃は舞うし、馬の尻尾やお尻が別の馬と触れ合ったりする。

 冒険者たちが手綱を引くたびに(いなな)く馬もいる。


 嫌でも目立つ。


 これでは、潜行して幌馬車隊を取り囲んだ意味がない。

 実際、もっと幌馬車隊に近付いていたパーティーもいたが、〈青い眼旅団〉の指示で、馬がつながれている壁際にまで撤退させられたりしていた。


 さすがに、おかしい。

 幌馬車隊を率いる「奴隷商人」に、こちらの存在が感知されないはずがない。


 誰もが、そう思い始めたときーー。


「敵だ!」


 スカイムーンの声が響いた。

 いつの間にか彼は、奴隷商人が率いているはずの幌馬車隊の遥か先にまで馬を進めていた。


 おいおい、いくらなんでも、奴隷商人に俺たち冒険者の存在がバレるだろ!?

 と、冒険者たちも目を丸くする。


 だが、彼らの視線はやがて、向きを変えた。

 スカイムーンが黄金の杖を手に握り、前方の荒野に向けて突き立てていたからだ。


 その杖が指し示す先ーー荒野の遥か彼方に、冒険者たちは目にした。

 夕陽を背にした、雲霞の如き人影をーー!


「なんだ、あいつらは?」


「夕陽が眩しくて、よく見えないな」


「大勢、いるな。俺たちより人数が多くないか?」


「馬に乗ってるヤツもいるぞ」


「武器を手にしてないか?

 矢筒を背負う者もいる……」


 騎乗した冒険者たちが、手綱を引いて、ざわめき始める。


 俺は〈探索〉能力を発揮して遠視した。


 風体を見るに、騎士団が随行していた奴隷商人連中|(仮)とは違う。

 革鎧で全身を覆っているが、デザインといい、(たたず)まいといい、王国に属する者たちと見られる。

 彼らは手に剣や棍棒を持っており、半分腰を落としたような姿勢で、ジリジリと近づいてくる。

 他にも、騎馬でわれわれ冒険者パーティー全体を回り込もうとしている連中もいる。

 彼ら、黒っぽい装束の連中は、旗も掲げていなければ、統制された行動もしていない。

 それでも各個人の戦闘力が高いのは、その体躯と雰囲気から(うかが)われた。


 じつは彼らは、冒険者たちにとって馴染みの連中であった。

 というよりも、かつて冒険者だった連中も多く含まれている。

 彼らこそ、王国の内部にありながら、治外法権で生息する〈闇ギルド〉の構成員ーーつまりは、野盗・盗賊の連合体であった。


 馬上で()()りながら、さすがに俺様は悟った。

 王国騎士団や〈青い眼旅団〉が、「奴隷売買阻止」という名目で冒険者を掻き集めて何をさせようとしていたのか、を。


(ちっ、アイツら、俺たち冒険者に、大規模な野盗狩りをさせるつもりだったのか!?)

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