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◆17 買うべきモノがハッキリしてるときはネット購入で十分だが、街中をブラブラして、ウインドウ・ショッピングをしたときのような、思いもしなかった商品に出逢うことはない。

 俺、〈魔術師マサムネ〉は、派遣先のバレッタ王国の国法で認可された〈探索〉能力(スキル)で、現状確認をした。


 初めは光の点滅でしか察知できなかった人の動きが、今では空中から俯瞰(ふかん)した映像のように、見て取ることが出来る。


 そこで、ふと俺様は気がついた。


(あ、そうか!

 これ、ひょっとしたら、ナノマシンの仕業か!?)


 どこか見慣れた視界だと思ったが、東京で観るモニター映像に似てるんだ。

 俺の〈探索〉能力の働きに沿って、ナノマシンが映した映像を俺の脳裏に送り込んでいるに違いない。


 ーーとすると、エレッタが貧しい〈探索〉能力しかないと俺は嘆いたが、こうした映像によって俯瞰した視界を得られるのは、ナノマシンを内包する異世界転移人ならではの特別仕様だったのかもしれない。


 今現在、俺は盗賊リーリアの背中にへばりつき、慣れない乗馬に苦しんでいる最中だったが(道なき道を走らされるよりはマシだ)、内心では膝を打つ思いだ。


(ふむふむ。

 まあ、その程度の優越性ぐらい、あって当然だよね。

〈異世界よりの来訪者〉としては。

 さて、特別な俺様の〈探索〉によればーー)


 まず、街道をまっすぐ進んでいる幌馬車が十五台。

 奴隷を満載しているはず(・・)の幌馬車隊だ。

 じつは、中に奴隷は一人もいないっていう真実を「観て」知っているのは、俺様、〈魔術師マサムネ〉だけらしい。


 そして、その幌馬車隊の真後ろから追いかけてるのが、〈青い眼旅団〉の騎馬隊。

 そのさらに後ろに、騎馬やら歩行やらの冒険者たち八十人弱ーー。


 でも、本当に警戒すべきは、大きく迂回して動く、騎士団と怪しい風体の連中、五、六十騎だ。

 このままのスピードだと、幌馬車隊をも先回りしそうである。


 が、騎士に率いられた連中は、幌馬車隊の行手を(さえぎ)らない。

 レッドボーイが言っていた通りだ。

 騎士団は捕物には手出ししない。

 そのまま、王都を取り囲む大きな壁に向かって進むのだろうか。


 俺は馬上で首を(ひね)る。


(でも、壁だぞ? 行き止まりじゃね!?)


 事実、リーリアが手綱を握りながら、背中にくっついてる俺に向かって叫んだ。


「ほんとうに、このまま走って良いのかい!?

 壁が(そび)えてるだけだよ!」


 その通りなんだが、騎士団がヘンな動きをしてるんだから仕方ない。


「ああ! 俺も不思議に思う。

 けれど、騎士団のヤツらが、方角を変えて壁に向かったんだ。

 あ!」


「どうした!?」


 事実上の〈遠視〉をしながら、俺は叫んだ。


「壁が開く!」


「なに!?」


 一見すると、石垣の壁だ。

 でも、その内の数ブロックが横にズレて、空間が開いた。

 ちょうど、騎馬が二騎並んで通れるほどの高さと横幅だ。


「騎士団だけが知ってる、秘密の出入口ってわけね!」


 映像は見てないが、俺の実況中継を信じて、リーリアは次の行動に移った。


「だったら、アタシたちも、このまま馬で進むってわけにはいかないようだね」


 彼女は馬から降りて、馬を樹木につなぐ。

 俺の他、リーリアの仲間六名も下馬し、歩いて壁に向けて潜行する。

 小一時間を経て壁に辿り着くと、綱を渡してみなで壁に登る。


 壁上まで登り切ってから、壁外を見下ろした。


 奴隷を積載した(とされる)幌馬車十五台が、壁の外に出ていた。


 これで幌馬車隊は、王国による治安の範囲外に出たことになる。


 正式な領土としてみれば、もちろんいまだ王国領ではある。

 だが、それは軍事的にみた場合であって、統治における支配領域でいえば、街の壁から外に出たら、とても国内とはいえなかった。

 野盗どもが跋扈(ばっこ)する、無法地帯になっているのが実情であった。

 つまりは国外同然、というわけだ。


「やはり、治安上での境界線ギリギリの、城壁のすぐ外で取引が始まるってわけか……。

 でも、奴隷がいる(ことになってる)馬車を、城門の外に出させて良いのか?」


 俺様が疑問を呈したが、これまた「お約束」の事態だったらしい。

 リーリアが壁上で、俺と一緒に腹這いになって下を見おろしながら説明した。


「騎士団の許可があれば、出られるのさ。

 壁の外で、『奴隷の買い手』を待つってことだね。

 でも、おかしいね。『買い手』は自分たちで連れて来てるってのに。

 まあ、通常の奴隷売買と思わせるため、ギリギリまで演技してるってことかねえ」


 本来なら駐屯しているはずの門番兵の姿がない。

 騎士団から事前に連絡があったのか、壁門も開けられっぱなしになっていた。


 それに、壁の外側には、大量の馬がつながれていた。

 その数、なんと100頭近く!


 俺の視線に釣られて、リーリアとその仲間たちも、壁外にズラッと馬が並ぶさまを見て、口をあんぐりと開けた。


(こりゃあ、大発見だ!)


 俺は(うな)り声を出す。

 やっぱり、リーリアと一緒に馬に乗って、何かの取引が行われるであろう現場に先行して、直接、目にすることができて良かった。

 なにより、現場の雰囲気ってのがビンビン伝わってくる。

 遠方を探る能力〈探索〉があるから、自分から現場をじかに見に行く必要はない、という考えもあるだろう。

 だが、やはり直接出向くことには意味がある。

〈探索〉では、あらかじめ観察すべき対象が特定されている場合には有効だが、こうした思いもしなかった状況変化を目にすることはできない。

 買うべきモノがハッキリしてるときはネット購入で十分だが、街中をブラブラして、ウインドウ・ショッピングをしたときのような、思いもしなかった商品に出逢うことはない。それと同じだ。


 とにかく、王都からすぐ出た所に、100頭もの馬が待機しているという事実に、俺は興奮した。

 怪しく思えて仕方なかった。


(誰か、乗り手はいるのか?)


 騎士団と怪しい連中は、騎馬で回り込んで先行し、現在、壁外にたむろしてる。

 でも、彼らはすべて馬上にある。

 だから、壁外につながれた100頭もの馬に乗るのは、彼らではない。

 他の人材を〈探索〉したが、それらしき人物は見当たらなかった。


 王都の壁を出入りする商隊が幾つかあったが、それだけ。

 馬の数からいって、100人を数える馬乗り人員がいなければいけないのに、誰もいないーー?


 俺様が、疑問に思って、東京異世界本部に通信した。

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