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◆15 ヤバいぜ。これは! 完全に餌に釣られている格好だよ、冒険者のみなさまは!

 俺、東堂正宗とうどうまさむねがどれだけ不快になろうとも、〈青い眼旅団〉主導の下、冒険者パーティー集団は動き続ける。

 冒険者たちは、王都郊外ーーほとんど王都を取り巻く壁近くにまで進行していた。


 王都と外部を隔てる壁の内側には、ちょっとした森が広がっている。

 以前は開墾された畑が広がっていたが、現在は放置されて、外来植物や野獣が入り込んだ森となってしまっていた。

 もちろん、王都の出入口に延びる街道は整備されているが、その周囲は雑多な森林に囲まれている。


 それなのに、なぜか〈青い眼旅団〉の連中は街道を進むのを避ける。

 その結果、冒険者たちは鬱蒼(うっそう)とした森の奥に入って行くことになる。


 葉をザワザワと揺らす音がする。

 すばっしこい動きで猿が木の枝を飛び移っている。

 その度に、小鳥がいっせいに、鳴き声をあげて空へ飛翔する。

 濃い湿った森の匂いが、充満している。


(本当にこんな、森の奥深い場所で、奴隷売買するのか?)


 と疑問に思ったとき、ふいに俺の頭の中で10から20は数えられる光が明滅し始めた。


 それだけの数の奴隷がいるのだ。

〈探索〉能力者にとっては、奴隷たちは首輪を掛けられてるおかげで、所在が認知されている。

 俺たち冒険者パーティーの接近にともなって、一塊(ひとかたま)りとなって北へと移動している。


 どうやら、奴隷商人どもは、冒険者たちの動向を掴んでいるようだ。

 奴隷がいるところに、捕縛対象である彼らも存在するに違いない。

 少なくとも奴隷売買の関係者が何人もいるはずーー。


(お、逃げるスピードを上げやがったな。

 街道を使うか。

 なりふり構ってねえな!)


 俺以外の、〈探索〉能力を持つ冒険者たちは互いに(うなず)き合い、走る速度を上げる。


 奴隷たちは街道沿いに移動を始めた。

 馬車に乗せられているんだろう。

 これに追いつけそうなのは、騎馬で進む〈青い眼旅団〉の連中だけか。

 いや、街道を使えば、奴隷馬車が検問に引っ掛かるかも。

 そうすれば、一悶着あるだろうし、追いつけるかもーー。


(む?)


 俺の〈探索〉の網に、変な感覚が伝わる。

 新たな光が明滅し始めた。

 

(新手か?

 凄い速さで移動する集団がいる。

 四十、五十……馬を使っているーー?)


 俺はさらに意識を集中して、移動する集団の映像を(まぶた)に浮かべることに成功した。


「大回りーー王都の壁伝いで、北へ向かう騎馬隊もいるぞ!?

 む、あの先頭を駆ける騎馬の甲冑は見たことあるーーそうだ!

 王国騎士団だ!)


 王国騎士団が一団を率いて、壁伝いに駆け走っていたのだ。

 でも、よく見れば、騎士団員ばかりではなさそうだ。

 見るからに、この王国の者とは異なった装束をまとう集団も騎馬で同行していた。


「本当か? 僕には見えない」


「私もよ」


 レッドボーイとリーリアの反応を受け、エレッタが目を吊り上げ、ヒステリックに叫んだ。


「マサムネくん、集中して!

 光が集まってるのはこの先でしょ!?

 奴隷以外の探索なんて、()らないわ!」


 どうやら、王国騎士団と異形の者どもの動きを探索できているのは、〈疾風の盾〉の中では、俺だけなようだ。

 しかも、悪いことに、俺はついさっき〈探索〉能力(スキル)を使い始めたばかりだったから、ありもしない何かを誤認したと思われてしまっていた。


「エレッタ、マサムネくんは初めてで慣れてないんだから、あんまり厳しくしちゃかわいそうだよ」


 などと、レッドボーイがリーダー気取りで、俺をとりなすように言うから、タチが悪い。

 エレッタが先輩ヅラして甲高い声を張り上げる。


「そうゆうの、関係ないから!

 いつも命がけの真剣勝負なの。

 ヌルい奴は死ぬのよ」


 走りながらの会話だから、当然、苛立ちが募る。

 でも、俺も黙っていられない。


「そんなこたぁ百も承知だ!

 だからこそ、俺様は周囲に気を配ってんだ。

 何処(どこ)で戦闘が始まるか、わかったものではない」


「マサムネくん、偉いよ。

 そんな細かいことまで考えて。

 でも、騎士団のようなお偉方は、こういった捕物には手を出さない。

 だから、君が気にしてる『新手』ってのは、騎士団じゃないよ。

 もし、騎士団だったら、奴隷を運ぶ馬車に先回りしてるってことになって、じつにありがたいんだけど」


 レッドボーイが頓珍漢(トンチンカン)な褒め言葉を発する。

 が、俺は無視して話を続けた。


「ーーどっちにせよ、奴隷ばかりに気を(つか)ってるんじゃダメだ!

 王国騎士団(お偉方)も静観を決め込んで役に立たない。

〈青い眼旅団〉の連中もろくに指示を出さない。

 だったら、闇雲(やみくも)に動いていては危ない。

 考えてもみろ!

 奴隷商人たちも、俺らと同じく〈探索〉できるかもしれないだろ?

 だったら、奴隷は餌かもしれん」


 エレッタが、訳がわからないという表情をした。


「なによ、エサって。

 彼らは探索対象者でしょ。助けなきゃ。

 それが私たちの仕事でしょ。

 それ以上のことまで考えたって……」


「わかってる。

 だけど、騎士団や旅団といった『強大な仲間』は役立たず。

 そして、奴隷を好きに動かしてる奴隷商人がーー敵がいるんだぞ。

 あんた、敵が今、どこにいるのか、わかってんのか!?」


「私、そんなことまでは……」


 なんだよ、映像で対象者を見てないのかよ。

 光が点滅して居場所が掴めたら、あとは集中!

 そしたら、探索対象者の様子が映像で浮かぶだろうが!?


 俺は〈鑑定〉を使って、エレッタを見つめた。


名前:エレッタ 年齢:18 職業:神官 

魔力量レベル:27

体力:5/20 魔力:9/20

攻撃力:5/20 防御力:5/20

俊敏性:3/20

スキル:探索・治癒・浄化


 エレッタのステータス表示を見て、俺は盛大に嘆息した。


(貧弱だ、あまりにも貧弱……。

 弱い魔力だから、探索距離も短いし、映像も見えないのか……。

 それにしても、こいつ、魔力量27しかないのか。

 よく、これでリーリアを毛嫌いできるな。

 喧嘩する資格もねえぞ)


 だったら、俺様が周囲の状況をつぶさに見てやるしかない。

 脳裏に周囲の映像をーー上空から眺め下すような映像を浮かべる。


(とりあえず、かなり距離はとられているが、目前の、真正面を走る馬車を見ろってか!)


 俺たち、冒険者たちは、今は一丸となって街道を走っていた。

 遥か先を走る〈奴隷を多数詰め込んだ(ほろ)馬車〉を追いかけている。


 馬車の中には、たしかに、首輪の反応ーー赤や黄色の光がたくさん明滅している。

 だが、これだけでは、(ほろ)の中に誰がいるのか、わからない。


 俺の周りにいる冒険者どもの大半は、ここまでーー光の所在地までしか感知できないようだ。

 だが、俺はさらに強力な魔力を持っている。

 直に幌の中を透視してやる!


 よし、できそうだ。

 どれどれ、(ほろ)の中の様子は……と。


(あれ??

 誰もいない。空っぽ?)

 

 でも……光は10、20はあったのに。


 おかしい。なにか変だぞ?


(む!?)


 荷馬車の床に、大量の首輪が転がってる……?


 これは… どうなってるんだ??


(そうか!)


 俺は心中で舌打ちした。


 俺様以外の劣った冒険者どもは、みな弱い〈探索〉能力しかないんだ。

 だから、大量に置かれているだけの首輪に反応して、『この幌馬車の中に、何十人もの奴隷が詰められているに違いない』と勘違いしているわけか!?


 だとしたらーー。


(ヤバいぜ。これは!

 完全に餌に釣られている格好だよ、冒険者のみなさまは!)

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