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◆14 モブは無茶振りされてばかりで大変だ

 俺、東堂正宗とうどうまさむねは、魔力量は多いものの、能力的には〈モブの魔術師職冒険者〉として、異世界に派遣された。

 奴隷売買を阻止するための作戦に、多くの冒険者たちとともに駆り出されることになっていた。


 そして、探索行動に出発する時がきた。

 奴隷売買が行われる現場を押さえるため、まずは奴隷が移送されるのを追いかけるのだという。


 騎士団練兵場に集められた冒険者、総勢八十四名が、それぞれが所属するパーティーで固まって移動を始める。

 向かう先を知っているのは〈青い眼旅団〉の中枢メンバーだけ。

 彼らが掲げる旗、もしくは伝令に従って、他のパーティーは動くことになる。

 もちろん、弱小パーティー〈疾風の盾〉の四名は、ほぼ最後尾で追随するしかできない。


 俺たち冒険者パーティーが出ていくのを、騎士団は練兵場の端から遠巻きで見送るだけ。それも、わずか数名の見送りしかいなかった。


(まあ、そういう約束だったからな……)


 現場で活動するのは専ら冒険者で、騎士団はこれを後見するだけ。

 名目的な成果をすべて後見役の騎士団に献上し、冒険者たちは金銭などの実利的な報酬を手にする。

 そういう約束になっていた。

 現に、こっちの冒険者(ヤツら)の誰もが、騎士団が近づいて来ないのを疑問に思っていないようだ。


 練兵場は城壁内とはいえ、王都中枢からはかなり離れた郊外にある。

 しかも軍の出兵に都合良く設計されており、王都から外へ出る街道に接続しやすい位置にある。


 それぞれのパーティで集団となって、街中の街道を素早く走る。

〈青い眼旅団〉の中枢メンバーは騎乗して進む一方で、冒険者のほとんどが歩行(かち)だから、走るしかない。


 道の両脇には、背の高い木が立ち並んでいる。

 暗緑色の葉が、空を覆うように繁っている。

 その下、ほぼ舗装されていない道を、土埃を撒き散らしながら走った。


(ハァハァ……さすがに、疲れる。

 息切れしてきた)


 どれくらい、走ればいいのか。

 距離感が掴めない。


「おい! リーダー、どこまで走るんだ?」


 リーダーのレッドボーイは、息をきらせ、額のバンダナを汗で濡らしながら、俺、〈魔術師マサムネ〉の方を見た。


「それが分かれば、苦労しないよ。

 とにかく僕達は、奴隷商人を見つけなきゃならないんだから。

 ソイツらの足取りを掴んでるのは〈青い眼旅団〉の連中しかいないから、今は置いていかれないようについて行くしかない。

 もしかしたら、夜は野営になるかもしれないよ」


「ハァハァ……そうだよな。

 でも、なんか引っかかるものがあるんだ。俺様の中で」


「何ですか? それは」


 レッドボーイが、首をかしげて不思議そうな表情をした。


「どうして伝令一つ寄越さないんだ?

〈青い眼旅団〉《お偉方》は……」


「僕たち冒険者を試してるんでしょう。

 騎馬に追走できる体力があるかどうか。

 そして、活動しながら〈探索〉能力(スキル)を使えるかどうか……」


 へ? 初耳。

〈探索〉能力(スキル)って、初っ(しょっぱな)から使う前提なの?

 それって常識?


 目を丸くする俺を見て、エレッタが呆れたように説明した。


「当然でしょ。

 奴隷として売られそうな人たちを探索するんだから。

〈探索〉しながら動ける冒険者を中心に集めてるのよ」


「さすが、エレッタ。頭良い!」


 レッドボーイが、エレッタを褒めまくった。

 エレッタは、満面の笑みを浮かべ、俺に話しかけた。


「その様子だと、まだ〈探索〉能力(スキル)を使ったときないのね」


「ああ。〈探索〉能力があることはわかってるんだけど」


「探索する範囲を空間的に感じながら、目を閉じて意識を集中してごらんなさい。

 見えてくるはずよ」


 空間的に感じるーーということがよくわからなかったが、俺は四方に広大な網を投げ掛けるようなイメージをしてから、額の中心に意識を集中した。

 すると、目を(つむ)っているのに、頭に周囲の映像が浮かぶ。

 あたかも上空から眺め下すような感じで。

 そして、幾つかの光りが寄り集まって明滅しているように感じられた。


「あ、ほんとだ……探索対象が光の点になってわかるーー」


 だが、わからない。

 俺は首を(ひね)った。


「でも、どうして顔も見た時がない相手を、『こいつが被害者奴隷だ』と探し当てられるんだ?」


「奴隷がつけられてる首輪に反応してんのよ」


 奴隷が逃げられないよう、主人の〈探索〉に引っかかりやすいように、首輪に工夫がされているらしい。

〈探索〉能力者にとって、奴隷の首輪ってのはGPS機能付きのスマホのようなモンらしい。


 エレッタは常識よ、とばかりに言い募る。


「普通の生命反応より強く反応するの」


 でも、俺様の疑念は深まるばかりだった。


「だったら、こんなに大勢の冒険者を動員する必要ないんじゃあ……?」


「何言ってるの。

 敵の数が多いからよ」


 俺は息を切らせて走りながら、思案する。


(要は、奴隷の居場所は首輪のおかげで、誰からもわかる。

 だけど、わかったところで、力で奪取するしかないから、数が必要ってわけか……)


 なるほど、とは思う。

 でも、なんだか、釈然としない。


 こっちの魔法はレーダーみたいなものだけ。

 だから『双方がレーダーで相手を感知して、遭遇したら闘う!』しか方法がない、というわけだ。


 もっと、合理的な捜索方法や、奴隷商人との戦い方もありそうだけど、どうやら、こうした捜索方法や戦闘方法が、こっちの世界の定番(スタンダード)ということか?

 だったら、従うしかないけど……。


(まるで第二次世界大戦時の戦闘機とか戦艦とかの遭遇戦みたいだな……)


 となると、レーダーの性能が勝敗をわける戦いになりそうだ。


 俺様の〈探索〉能力がほぼカンストで設定されてて良かった。

 とりあえずは、胸を撫で下ろす。


 それにしてもーー。


 レッドボーイのアンちゃん、小太りのオッサンみたいな体格(ナリ)してるくせに、息切れ一つしてない。

 エレッタのような女どもも、だ。

 長距離走に慣れてやがる。

 ステータス表示では、俺よりも数段、体力が落ちるはずなのに。

 所詮、能力値ってのは潜在力込みってわけか。

 慣れてなきゃ、存分に力は発揮できねえってか。

 まさか、こんな早い段階で〈肉体強化〉を使いたくねえしーー。


 俺はハァハァと息切れしながら、歯噛みした。


(なんか、腹立つな。

 そもそも、〈青い眼旅団〉に振り回されてる状況ってのが気に食わん。

 それに、そうした状況下で無茶振り同然に走らされたり、〈探索〉使わされたりして、試されていながら、平気な冒険者どものありようも……!)

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