◆13 ソリの合わない女二人に挟まれて
俺様、〈魔術師マサムネ〉は、本来、所属するはずだった巨大冒険者パーティー〈青い眼旅団〉から離脱して、弱小パーティー〈疾風の盾〉に潜り込んだ。
「奴隷売買の阻止」という依頼を果たせるなら、どのパーティーに所属しようと問題ないと思ったからだ。
そして、〈疾風の盾〉の女盗賊リーリアに接触した。
「どうして奴隷売買の阻止なんて地味な仕事に加担してんだ?
あんた、正義の味方ってタイプじゃないだろ」
リーリアは俺の顔をゆっくりと見て、煙草の煙を吹かせつつ言った。
「あんた、意外と鋭いわ。
まるっきりの馬鹿じゃないね。
ウフフ。仲良く出来そうだ」
「俺様は、依頼された仕事を確実に果たすだけだぞ。
仲良しごっこは、ごめんだ」
「そんなことよりさあ、あんた、相当魔法力あるね。
ひょっとして、〈鑑定〉スキルもあるのかい?」
「さあ〜どうかなー」
「あんた、嘘がヘタな男だね。
そんなんじゃ、女にもてないわよ」
俺の能力に勘づいたリーリアが、身を寄せて耳打ちする。
「だったら、わかってるわよね、あんたは。
私の職能。
あの間抜け連中と違ってさ」
「あの間抜け連中」とは、今、彼女が視線を遣ったレッドボーイとエレッタのことだろう。同じパーティーメンバーを相手に、随分な言いようだ。
「まあな。〈斥候〉じゃなく、〈盗賊〉なんだろ?
それも、人を殺した前歴を持っている……」
「しっ! 黙っててよね。
あんたにも良い思いをさせてあげるからさ」
「え? 良い思いって……?」
「もちろん、一攫千金よ。
私がこの仕事に首を突っ込んだ理由さ。
あんたにも分け前をあげるから、私については〈リーダーの幼馴染み〉ってだけにしといてよ。ああ、〈リーダーの初体験の相手〉ってのでも構わないわよ」
(おいおい、そんなことは訊いてねえって……)
リーリアは俺にウインクをすると、顔見知りの他の冒険者達のもとへ行ってしまった。
これからの仕事について、あらかじめ調査しておきたいことがあるのだという。
果たして「奴隷売買の阻止」という案件が、どう化けたら「一攫千金」になるのかわからないが、いかにも世慣れた冒険者ってかんじで、頼もしい限りだ。
でも、そうした抜け目無さを厭う理想肌の人間ってのもいる。
さっき紹介されたエレッタってのが、まさにそんなかんじだった。
案の定、リーリアがいなくなったのを見計らって、エレッタが俺に近づいてきた。
眉間に縦皺を寄せて、いかにも「迷惑したよね。同情するわ」と言いたげに口を窄め、両手を合わせつつ語り始めた。
「ごめんなさい。
リーリアって非常識で、変な女でしょ。
男好きで、男に媚びばかり売って。
私、大っ嫌い!
マサムネ君も嫌いでしょ、ああいう、女。
私が夢や希望を語っても無視するし、自分のビジョンを持っているわけでもないし、信用できない」
「いや、さすがに、それは言い過ぎだろ?
リーリアは斥候職なんだから、抜け目無く情報収集するのも当然だし、探索スキルが高いから、その能力を活かすのは……」
俺が言い終わらぬうちに、エレッタは膨れっ面で言葉を投げた。
「高い能力よりも、まず、高い人間性でしょ!?
人格がきちんとしていない人が、能力があったって意味ないから。
私はあの人、認めない。
だいっ嫌い。
どうして、オトコは、ああゆう女をチヤホヤするのかしら?
オトコの責任でもあるわよね。
ーーでも、いいわ。
いずれ、ああゆう女は不幸になるのよ。
私にはわかる。
だからマサムネ君も気をつけて。
あの女と口を利いちゃダメだからね。
絶対だから!」
エレッタは目を吊り上げ、興奮状態になっていた。
握りしめた手は拳を作り、ブルブル震えている。
エレッタの様子がおかしいことに気づいた、〈疾風の盾〉のリーダー、レッドボーイが慌てて飛んできた。
「エレッタ、エレッタ、僕の目みて!
大丈夫。落ち着いて。
君が正しい。君が一番だ。
僕はわかっているよ!」
エレッタはリーダーに抱きつくと、声をあげて子供のように泣いた。
リーダーが俺に向かって、照れたように言った。
「エレッタは感受性が強くてさ。
時々、こんなふうになるんだ。
でも、すぐに治るから」
レッドボーイはポンポンとエレッタの頭を撫でてから、彼女の背中をさすっている。かなり面倒見の良い男だ。
そういえば、あのリーリアとは幼馴染で、初めての関係を持ち合った仲だと言ってたな(リーリアが)。
まさか、こっちの世界では、小太りのオタク然とした男がイケメンで通ってるのか?
だとすれば、白鳥雛にはキツい世界だろうな。
それにしてもーー。
(エレッタとかいう神官ーーじつに情緒不安定なオンナだ。
こんなんで、冒険者として、やってけるのかよ?)
賢明な俺様はさすがに口には出さなかったが、言葉を飲み込むのに少し苦労した。




