◆11 剣士レッドボーイと神官エレッタ
俺、〈非チート設定魔術師マサムネ〉は、憤慨していた。
いくら仕事だとはいえ、自分の気に沿わないことは出来ないからだ。
とにかく〈青い眼旅団〉という冒険者パーティーには入りたくなかった。
旅団長は怪しげな笑みを浮かべてるし、副団長の女も居丈高な雰囲気が見え隠れして、好きになれない。
(この嫌さは、人間洞察に優れた俺様にしかわからない。
悪魔に魂は売りたくない!
どうせモブの冒険者なんだ。
好きにさせてもらうさ)
俺様は腹立ちまぎれに、地面の石を蹴り上げた。
小さな小石が、少し前を歩いていた人の足に当たった。
「痛ッ!」
小太りで、頭に赤いバンダナを巻いた男が、顔をしかめて、俺の方を振り向いた。
誓って俺に害意はなかった。
だから、即座に赤バンダナ男に謝った。
「すまん。わざとじゃないんだ。
ちょっと苛立つことがあったもんで……。
地面を蹴ったら、アンタに当たっちゃて。
ごめん」
俺様が低姿勢に出たからだろう。
赤バンダナのアンちゃんはヘラヘラとしながら、頭を掻いた。
「いいです、いいです。気にしないで。
自分も朝から、動揺して焦ってるんです。
チームのメンバーがひとり急病で来られなくなって、今からじゃ、ほかの人見つけるの大変だし……」
お! こいつはツイてるかも。
俺は満面に笑顔を湛えて、胸を張った。
「おお、そうなのか!
それは好都合!
だったら、俺様がアンタのチームに入ってやってもいいぞ。
ほんと、アンタは運が良い。
なにせ、俺様は宇宙レベルの男だからな!」
赤バンダナのアンちゃんは即座に俺に抱きついてきた。
彼にとっても、〈渡りに船〉だったようだ。
「おお、そいつは嬉しい!
ひとり人数が欠けるだけでも士気にかかわるからね。
部隊編成もしづらくなるし、他のパーティーにも舐められる。
いやぁ、助かった!」
おいおい。
〈鑑定〉もせずに、見知らぬ人間をパーティーに組み入れて平気なのか?
と思ったが、まあ、俺にとっても都合が良いので、黙っていた。
赤バンダナのアンちゃんが俺に案内したのは、冒険者パーティーの最小単位である四人組満たない、三人組のチームだった。
一人、参加予定者が急病で、来られなくなっていたっていうから、俺様が加わらなかったら、今回の〈奴隷解放作戦〉の仕事に参加する資格すら失いかねないほど危機的状況だったってわけだ。
アンちゃんが「士気にかかわる」とか「部隊編成もしづらくなるし、他のパーティーにも舐められる」だとか言ってたけど、それ以前の話だ。
でも、仕事の参加も危ぶまれるほどの弱小パーティーであれば、〈青い眼旅団〉の傘下に組み込まれているはずがないので、ひとまず安心だ。
パーティ名は〈疾風の盾〉。
名前だけは、なんともカッコイイ。
俺様を除いたら、男はリーダーひとり。
あとは女の冒険者が二人いた。
リーダーは赤バンダナのアンちゃんで、通り名はレッドボーイ。
いつも、赤いバンダナを頭に巻いているので、それをトレードマークにしたそうだ。
リュックでも背負わせたら、秋葉原にいるオタクに似ている。
小太りながら快活で、よくしゃべる。
陽気な奴だ。
格好に似合わず、剣士職だという。
彼によって、他の女性二人のメンバーを紹介された。
一人目の女は、純白ドレスをまとった娘だった。
首には金のネックレスが輝き、手首にはダイヤとルビーの宝石が交互に彩っているブレスレットを嵌めていた。
冒険者どもが集まる場所に、なんとも不釣り合いな出立ちだ。
それなのに、まるで気にも止めていない様子だから、とにかく空気を読まない性格をした女の子なんだろう。
「初めまして。
あなたが新しいメンバーになってくれたのね。
助かったわ。
私としては、今回の作戦、ぜひ参加したかったの。
だって、許せないじゃない? 奴隷なんて」
彼女の名前はエレッタ。
〈神に選ばれた者〉という意味があるそうだ。
敬虔な両親が名付けた。
彼女は悪を憎み、正義や善に強い憧れを持っている。
だから、治癒・回復系魔法を専らとする神官職になったとのこと。
俺様はエレッタをしげしげと観察した。
人生の挫折もなく、深みもない幼さが表情に現れている。
十八歳という年齢なのに、神官職って異世界の不思議だよね。
初対面の俺に対して、エレッタは自分自身の考えを熱心に訴えた。
彼女は、誰彼構わず自分の理想や夢を語る癖があるらしい。
「私には、夢があるの。
理想の世界をつくりたいの。
世界樹のもとでみんなが喜びあってるの。
差別も不幸もなく、みんなが平等で平和ーー。
ね、素敵でしょ!
そのために、一緒に頑張りましょう」
おいおい、マジかよ?
俺様は毒にでも当てられたような、苦い気持ちになった。
女性版、キング牧師のようだな。
アイ、ハブア、ドリーム……。
結構な話だが、進むは茨の道だぞーーと思ったが、どんな人生を送ろうが、その人の勝手なので、俺は特にコメントすることなく、ただ愛想笑いだけを浮かべた。
そして、もう一人、紹介された女冒険者は、全然タイプが違った。
見るからに、擦れたオンナだった。




