◆9〈青い眼旅団〉誓いの言葉ーー!
〈能力制限を受けた魔術師〉として、日本東京から異世界のバレッタ王国に派遣された、俺、東堂正宗は、冒険者パーティー〈青い眼旅団〉に接触した。
〈青い眼旅団〉は王国の筆頭冒険者パーティーで、この団体に仲間入りすることが予定されていた。
〈青い眼旅団〉の旅団長スカイムーンに導かれ、俺はメンバーに紹介され、次いで、副リーダーのジュンと握手した。
すると、一際大きな拍手が周囲から湧き起こった。
他の冒険者パーティーからも、俺様が〈青い眼旅団〉に入団することを歓迎されているようだった。
(ーーなんで?)
わけがわからないままに歓迎され、何十人もの冒険者から口々に声をかけられた。
「入団、おめでとう!」
「ようこそ! 青い眼旅団へ」
「君の活躍を期待するよ!」
「マサムネくん! 仲良くしてね!」
俺様を歓迎する言葉が次々に発せられた。
その合間に、旅団長スカイムーンから耳打ちされた。
「〈青い眼旅団〉の中枢は、たしかにボクたち六名だけど、傘下メンバーはもっとたくさんいるんだ」
〈青い眼旅団〉は「旅団」と称するだけあって大所帯で、じつは複数の冒険者パーティーの集合体であった。
しかも、ここにたむろする八十余名のうちのほぼ半数、四十二名が、広義の〈青い眼旅団〉に属している、というのだ。
なるほど。
要するに、〈青い眼旅団〉ってクランのようなもんなのか。
だから、周りを取り囲む連中も声をかけてくるのか。
ややこしいからパーティー名とクラン名を別けてもらいたいもんだ。
でも、そうなると、俺のような新参者がいきなり中枢メンバーに入団するのは問題にならないのか?
中枢メンバーに加わりたいと長らく思っていた冒険者から、妬まれてもおかしくない状況だ。
が、そうした疑念を口にすると、
「〈鑑定〉能力を持つ冒険者は多いからね。
君の魔力量がズバ抜けているのを見抜いているからさ。
ボクとしても、ボクを超える魔力を持つ冒険者に初めて会ったよ」
旅団長スカイムーンは笑みを浮かべたまま、そうささやくと、今度は、周囲に群がる冒険者たちに向かって大声をあげた。
「みんなーー。いつもの、アレをやろう!」
すると、わらわらと何十人もの人々が寄り集まり、スカイムーンを中心にして円陣ができた。
仲間たちは手をつないだり、肩を組んだりしていく。
空気に呑まれて、俺も肩を組んで仲間に加わった。
隣から肩を組んできたヤツが、屈強な体躯をした禿げ男だったから、気圧されたのだ。
スカイムーンが円陣の中央に立っている。
彼は、ゆっくりとみんなの顔を見渡してから、俺の方を見て、にっこりと微笑んだ。
「青い眼旅団、誓いの言葉ーー!」
スカイムーンが突然、大きな声を出した。
仲間たちが、それに唱和する。
「青い眼旅団、誓いの言葉ーー」
「ひとーーつ。青い眼旅団に生涯、忠誠を誓う!」
「ひとーーつ。青い眼旅団に生涯、忠誠を誓う」
「ふたーーつ。仲間のためなら、生命を捨てる!」
「ふたーーつ。仲間のためなら、生命を捨てる」
「みっつーー。旅団長の言うことは絶対。何も考えずに従え!」
「みっつーー。旅団長の言うことは絶対。何も考えずに従え」
「よっつーー。高い意識をいつも持ち、崇高な心で、行動する!」
「よっつーー。高い意識をいつも持ち、崇高な心で、行動する」
「いつつーー。親、兄弟より、〈青い眼旅団〉のメンバーが本当の家族、生涯の宝!」
「いつつーー。親、兄弟より、〈青い眼旅団〉のメンバーが本当の家族、生涯の宝」
「むっつーー。毎日、心身の鍛錬を行い、禊をする!」
「むっつーー。毎日、心身の鍛錬を行い、禊をする」
「ななつーー。恋愛はしない。崇高な使命があるから!」
「ななつーー。恋愛はしない。崇高な使命があるから」
誓いの言葉を大声で叫んでいるメンバーの顔は、みな喜びに輝いていた。
その後、旅団長スカイムーンが、一人一人を抱き締めて声をかける。
そのメンバーに必要なことだったり、次の課題などを、個別にアドバイスするためだ。
中には、涙を流しながら旅団長の言葉に耳を傾けている者もいた。
スカイムーンは、相手の目を見ながら、丁寧に時機にかなった言葉をいう。
その結果、メンバーの信頼と尊敬を得ているようであった。
やがて、旅団長スカイムーンが、俺様の前にやって来た。
そして、いきなり俺を抱き締めると、明るい表情で言った。
「君のような、強くて優秀な男を、僕はずっと待ち望んでいたんだ。
ありがとう。期待の星!」
抱きしめられると、全身から力が抜けたような感覚があった。
なんか、仕掛けられた!?
いやーー野郎なんかと抱き合った気持悪さで、脱力したに違いない。
俺は猜疑心に満ちた目を、周囲で笑みを浮かべる冒険者たちに、次いでスカイムーンに向けた。
(これ、マジで、ブラックじゃねぇの!?
ヤバいよ、こんなところに長居したら。
洗脳されるのはゴメンだ!)
への字に曲げた口から、俺は本音を声に出した。
「悪いけど、俺様は宇宙レベルの男なんで……」
「?」
貼り付いたような笑顔が、目の前にある。
ソイツをひっぺがしてやりたい衝動に駆られていた。
(コイツ、俺を除けば魔力量が段違いだから、相当優越感を持ってるに違いない。
だったら、その鼻っ柱をへし折ってやる!)
俺、東堂正宗はそう決心すると、両拳に力を込めた。
「俺様は、アンタのような凡人の下にはつけない。
だから、このパーティには入らない!」
そう言い捨てると、俺様はその場を離れた。
誰もが口を利かない。
異様な静寂が、場を支配する。
そしてーー。
憎しみを込めた視線が、俺様の背中に向けられるのに、さしたる時間はかからなかった。




