◆8 冒険者パーティー〈青い眼旅団〉
俺、東堂正宗は、遠巻きに〈青い眼旅団〉のメンバー、総勢六名を観察した。
俺は筆頭冒険者パーティー〈青い眼旅団〉に加入しなければならない。
そういう依頼内容になっている。
俺様並みの魔力量を有する男女を確認してから、他の連中、四人にも目を向ける。
たしかに、一流冒険者パーティーのメンバーというべきか。
男二人女二人も、聡明そうな顔立ちと容姿の美しさがあった。
誰もが、若さと爽やかを発散している。
それでもーー。
一人、いかにも格闘技を嗜んだような身体付きの禿げ男がいるが、それだけだ。
あとのメンバーに、これといった魅力を感じない。
たしかに魔力量は、他の冒険者よりはちょっと多めだが、その程度では個性とはいえまい。
しかも、禿げ男も含めて、彼ら全員が、あの途中で顔を出してきた魔力量890の金髪男に、崇敬の眼差しを向けてやがる。
なんだ?
こんなじゃ、金髪男の推し活メンバーの集まりじゃねえか。
(なんだか、馴染めない雰囲気だな。
個性のない連中だ……)
俺は、胡散臭く思いながら、彼らを眺めていた。
俺様の視線に気づいたのだろう。
一人の男が笑顔で近づいてきた。
例の、魔力量890の金髪男だった。
「やあ、こんにちは。
君は〈青い眼旅団〉に興味があるの?
さっきから、ずっと僕たちを見ていたけど」
気さくながらも、どこか上品な立ち振る舞いをしている。
それだけで、周りの冒険者どもとは違う、育ちの良さが伺えた。
長躯で、金色のサラサラした髪が額にかかっている。
くっきりとした二重まぶたが、好奇心に満ちていた。
「うん。
まあ、出来れば入ってやってもいいかな、とは思っていたんだ」
俺様は愛想良く答えた。
すると、相手もにこやかな笑顔を見せた。
「歓迎するよ。
僕は〈青い眼旅団〉のリーダーなんだ。
みんなは僕のことをスカイムーンと呼ぶよ。
もちろん、二つ名だけどね。
君の名は?」
「俺様の名前はマサムネだ。
魔術師マサムネ。
宇宙レベルの男だ!」
「ヘェ〜。なんかカッコイイね。
マサムネくん。
パーティのみんなを紹介するから、来なよ」
俺は、俺よりも頭一個分、上背が高い美男子に率いられる形で、〈青い眼旅団〉の輪の中へと入っていく。
その過程で、つらつらと思い出していた。
派遣される前、上司のひかりちゃんが言っていたことをーー。
「マサムネくんは、数ある冒険者パーティの中でも、最も有名で強力な〈青い眼旅団〉っていうパーティに入らなければいけないの」
もちろん、俺は抗弁した。
ただでさえ、土地勘のない異世界だ。
活動の自由ぐらいは確保したい。
「なんで? 俺様は嫌だぞ、ソロが良い。
無能な連中に混じれなどとーー」
「それがね、王国側から契約時に言われたからなの。
〈青い眼旅団〉に入団するようにって。
それ自体が、依頼内容に含まれているとみていいわね」
なんでも、彼ら〈青い眼旅団〉のみが、王国騎士団と直接、連絡を取っているそうだ。
他の冒険者たちは、彼らの指示に従って動く手筈になっているらしい。
つまり、この〈青い眼旅団〉に属していないことには、今回の奴隷売買阻止作戦にタッチすることはおろか、作戦自体の全貌を把握することすら難しい、というわけだ。
俺は往時を思い出し、苦虫を噛み潰す。
(そのくせ、俺様が〈青い眼旅団〉に入ることが王国の依頼であることは、〈青い眼旅団〉のメンバーにも秘してもらいたいーーときたもんだ……。
ほんと、面倒くせえだけじゃない。
なんか、おかしくねえか?)
つまり、〈青い眼旅団〉のリーダーばかりか、メンバー全員に、俺様が入団予定になっている話を通していない、というわけだ。
実際、彼らは、俺様が異世界からの来訪者だとは、まったく思っていないようだった。
スカイムーンは、俺様を伴って、〈青い目旅団〉のパーティの前に立った。
「みんな! 今日は新しいメンバーを紹介する。
宇宙レベルの男、マサムネ君だ!
自己申告では〈すごい人〉だよ。
仲良くしてやってくれ」
「自己申告では」って。嫌味かよ。
俺様は少し機嫌を損ねた。
が、メンバーの誰一人、俺様を嘲笑うような様子はみせてはいない。
リーダーのスカイムーンが、パーティの仲間たちに引き合わせた。
それだけで『価値のある男』認定をされているようだった。
どの顔も笑顔と好意に満ちていて、マサムネを仲間として歓迎する。
とびきりの美少女が笑顔で近づいてきた。
例のもう一人の特別な冒険者ーー魔力量324の女だ。
「私は、副リーダーのジュンです。
貴方をスカイムーンが選んだのです。
このパーティはスカイムーンに選ばれた人しか入れないんですもの。
どうぞ、よろしく。マサムネさん」
マサムネの前に、華奢な白い手が差し出された。
マサムネはその手を取り、握手をした。
その途端ーー。
わああああ!!
と歓声が上がり、大きな拍手が、周囲で湧き起こっていた。
いつの間にか、〈青い眼旅団〉だけでなく、他の多くのパーティーの冒険者たちに取り囲まれて歓呼されていたのだった。




