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◆3 それって、要するにモブの冒険者じゃね!? 典型的なやられキャラだぞ!

 俺、東堂正宗とうどうまさむねは、かなり厄介な仕事をやらされようとしていた。


 派遣先の異世界の王国では、奴隷売買が禁止されてる。

 だから、奴隷商人を捕まえて、奴隷を解放するーーそれだけの、本来なら単純(シンプル)ともいえる依頼だった。


 でも、その際には、気を(つか)わなければならない。

 王命で禁止されたからには、王国においては「奴隷売買」はすでに存在しないことになっているからだ。

 おかげで、「存在しない」はずの「奴隷商人」を名目上、捕まえるわけにはいかない。

「奴隷商人」としてではなく、あくまで『一般的な誘拐事件の犯人』として捕縛することになる。


 おまけに、冒険者パーティーが活動して「奴隷売買」を摘発するわけだが、「市民を保護する」のは本来、騎士団の仕事だから、「冒険者は騎士団の手助けをしただけ」という体裁にしなければならないーー。


「ウザすぎだろ、そんなの。

 無理ゲーっぽくないか、それ?」


 俺が呆れ声をあげると、上司の星野ひかりも珍しく同情するような表情になった。


「仕方ないのよ。

〈奴隷売買は存在しない〉という体裁だからね。

 王国の権威を維持するため、いろいろと厳しいのよ。そっちの世界は」


 結局、俺は冒険者としては派遣され、お偉いさんとつながりが深い〈青い目旅団〉という冒険者パーティーに属することに決まっているらしい。


「今度は〈一介の冒険者〉として派遣されるのか。

 えらく地味だな。

 で、職種は?」


 冒険者と一括(ひとくく)りされても、実際、どんな役割を担うのか、わからん。

 剣士なのか、斥候(せっこう)なのか、弓使いなのかーー職種はいろいろある。


魔術師マジック・キャスターよ」


「ほう。思ったより、悪くないな……」


 俺は少し安堵した。


 たしかに異世界に派遣された際、魔法使い系は馴染みやすい職種だ。

 地球人はもともと魔法は使えないけど、魔法使いとは何であるかは、ゲームやアニメなんかで広く認知されてる。

 おまけに、ほとんど独力で能力を発揮することができる。

 つまりは、現地人と一緒になって、深い連携が必要なチーム・プレーをしなくてすむ。

 後衛を担って、魔法を時折放てば良いってわけだ。


 ーーとはいえ、〈魔術師〉?

 前回、白鳥雛しらとりひなが担った職種は〈魔法使い〉と呼ばれていたはず。


「〈魔術師〉? 〈魔法使い〉と、なにが違う?」


 相変わらず細かいことを気にするわね、とばかりに一息ついてから、ひかりは答えた。


「ほぼ一緒だけど、〈魔術師マジック・キャスター〉という方が職業色が強いわね。

 技術者的なノリっていうかんじ?

 特に、これから正宗くんが行ってもらうバレッタ王国では魔法が制限されてるから、〈魔法使い〉っていう呼び名には悪いイメージがあって、技術職的側面が強い〈魔術師〉という呼称が好まれてるそうよ」


 つまり、〈魔術師〉ってのは、日本で言えば〈危険物取り扱い業者〉みたいなイメージか。


 そんなふうに考えていたら、想像の斜め上を行く条件を言い渡された。


「あ、でもね、正宗くん。

魔術師マジック・キャスター〉とはいっても、それ名義上にすぎないから。

 基本、普通の冒険者が使えるような、生活系や治癒系の魔法しか使っちゃダメだから」


 あまりな注文に、俺は一瞬、茫然とした。

 魔術師っていう職業なのに、一般人並みの魔法しか使えない?

 俺様は耳を疑った。


「は? なに、それ。

 だったら、何を指して〈魔術師〉っていうんだよ?」


 俺が詰め寄せても、ひかりちゃんに動揺する様子はない。

 俺が反発するのは、折り込み済みだったようだ。


「生活系や治癒系ーーそれに探索系の魔法なんかが、他の剣士や弓使いたちよりも強力ってだけね。

 だから〈魔術師〉の冒険者はほとんどいなくて、むしろ剣士やタンクなんかの見習いレベルの新人が名乗る職種になってるそうよ」


 おいおい、マジかよ。

〈一介の冒険者〉どころか、〈冒険者見習い〉にまで格落ちかよ。

 いよいよ、モブが極まってんな。


「じゃあ、俺様は今回、貧弱な能力設定で派遣されざるを得ないってわけか?」


 嫌味を込めて吐き捨てたが、ひかりちゃんはまたも両手を合わせる。


「ごめん。そうなるわね。

 強力な〈魔術師〉は、ほとんどすべてが王国騎士団に属しているのよ。

 それ以外の人物は、たとえ魔法が使えても、使用が禁じられている。

 特に、攻撃系魔法を使うことは厳禁らしいわ」


 魔法使用がまるで拳銃所持扱いだ。

 日本で拳銃を持っているのが警察官だけなのを考えると、王宮騎士団の〈魔術師〉ってのが警察官みたいなもんで、民間の〈魔術師〉は町内会の自治会員みたいなもんか?


 とにかく、今回、俺は〈魔術師〉として派遣されるにもかかわらず、民間でも広く使われている、生活系や探索系、治癒系の魔法しか使えないってことになる。

 しかも、新米冒険者として扱われてもおかしくない程度のスペックしか持ち合わせてはいけない……?


 でも、それっておかしくないか?

 俺は慌てて訴えた。


「まずいって、やっぱ。

 魔法が忌避されるお国事情があるってのはわかる。

 でも、『国法で禁じられた奴隷売買』の摘発をしなきゃならないんだろ?

 ショボくても、かなり危険そうな任務じゃないか。

 よほどの強力な能力を持った〈魔術師〉に設定してくれないと困るぞ!」


 ひかりちゃんは苦笑いを浮かべたまま、首を横に振る。


「また、〈雷撃〉とか〈火炎〉とかを使いたいって思ってるんでしょ?

 でも、そんなこと、無理よ。

 依頼に反するもの。

 そもそも、派遣先の王国では、よほどの例外を除けば、生活系や探索系の魔法しか合法化されていないのよ」


 俺は声を荒らげた。


「馬鹿げてる。

 そんなの、〈魔術師〉と言えるか?

 異世界に転移する過程で、魔法能力を好きに付与することができるんだろ?

 だったら、ソッチのお国や依頼主に内緒(ナイショ)にして、密かに有効な魔法能力を付与しちゃえば……」


 ひかりちゃんは、またも首を横に振る。


「そうはいかないのよ。言ったでしょ。

 派遣先では、魔法が規制されてるの。

 攻撃系魔法全般が厳禁なんだから。

 あ、空も飛べないわよ」


〈魔術師〉として派遣されるにも関わらず、魔法使用を禁ずるなんて。

 しかも、最低限のスペックすら設定してもらえないとは。

 これじゃ、密林(ジャングル)に素っ裸で放り出されるようなものだ。

 俺は懇願した。


「だから、向こうの連中にバレないようにするから!

 俺に魔法のスペックが欲しいのは、依頼云々には関係ない。

 派遣員である俺様の身の安全を守るためにーー」


「ダメ。そこんとこは、依頼主から釘を刺されてるんだから。

『くれぐれも、国法の定める範囲の能力でお願いします』って」


「冗談だろ!?

 それじゃ、丸腰と変わらない。

 そんなじゃ、俺様は〈魔術師〉でもなんでもない。

 要するに、〈モブの冒険者〉に過ぎないじゃないか。

 典型的なやられキャラだぞ!」


「みんながそうなんだから、仕方ないじゃない」


「なんだよ、〈みんな〉って。

 異世界からの召喚者と、現地人とを一緒くたにすんな!

 現地人と同じスペックっていうんなら、どうやって身を守るんだ?

 やっぱ、〈雷撃〉ぐらいは……」


「ダメだってば!

 何度も言ってるでしょ!?

 派遣先の王国では、攻撃系魔法は禁止されてるのよ。

 それに、依頼されてるのも、魔王討伐でも、戦争協力でもない。

 犯罪捜査の協力にすぎないんだから。

 魔法とはいえ、〈武力〉の持ち込みは困るってことなのよ」


「ーーわかった。じゃあ、譲歩しよう。

 攻撃系じゃなけりゃ、いいんだろ?

 だったら、〈絶対防御〉なんか、どうよ?

 名前からして、なんか格好良い!」


 俺の身の安全を確保したい。

 それならば、防御系能力を突出させれば良い。

 そう考えての提案だった。


 が、ひかりちゃんはにべもなく否定した。


「向こうから指定されてんのは、攻撃系でも防御系の魔法じゃないの。

 スキル要請されているのは〈探索〉と〈治癒〉だけ。

 しかも、〈絶対〉とか、そんな過剰な力を持つチート・スキルじゃないの」


 ひかりちゃんは、俺の要望を頑として受け付けないらしい。

 ここまでくると、俺様がバイトだからって舐められてるとしか思えん。

 俺は無駄な抵抗と知りつつも言を重ねた。

 

「つまんねーー。

 敵襲喰らって、俺様が死んだらどうすんだよ!

 だから、攻撃系の魔法を……」


「ダメ」


「でもさあ、〈探索〉とか〈治癒〉だけってんじゃあ、向こうにもいるんじゃないの?

 そういったもんだけ使える魔術師なんてのはさ」


「そりゃあ、いるでしょうね」


 生活系や治癒系、探索系の魔法は、合法化されているから当然だ。

 魔術師だけでなく、一般人ですら使用できるらしい。


 俺は白いローブ姿で、改めてひかりちゃんに詰め寄った。


「だったら、依頼主たる王国側は、いったいなにを考えているんだ?

 なんで異世界にまで人材派遣を要請しておきながら、そんなショボい、〈新米冒険者レベルの魔術師〉を召喚しようとするんだよ!?」


「言われてみれば、そうね……」


「な。だから、万が一に備えて、攻撃系の魔法をマックスで……!」


「でも、信用置ける相手なのよ。依頼主」


 俺様の必死の畳み掛けにもかかわらず、残念ながら、やっぱり、ひかりちゃんの側に聞く耳がなかった。

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