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◆1 正宗くん。あなたには文字通り、正義の味方になってもらうわ!

 俺、東堂正宗(とうどうまさむね)は、朝、起きるとすぐに顔を洗い、頬をバシッと叩いて気合いを入れた。

 今日から、また異世界に派遣されるからだ。


 これで、二度目の異世界派遣である。

 けれど、多分、派遣仕事に慣れるということはないだろう。

 なぜならば、必ず生命の危機に(さら)されるからだ。

 面白いこともあるけれど、必ず危険な場面に遭遇する。


「準備は万端にしないとな」


 独り言が口からこぼれた。


 結局、この異世界派遣って仕事は、事前の能力設定をいかに高くしておくかで勝負が決まる。

 まだ一回しか派遣されていないが、そう結論づけざるを得ない。


 初めての派遣の際、治癒ポーションを現地で手に入れなければ、俺は死んでいた。

 それもこれも、回復力が他のチート能力に比して低く設定されていたことが原因だ。

 だから、これからの派遣では、すべて限界まで能力向上させておくこと必要だ。

 能力設定を高くしておくこと自体が、生き残れる確率を高め、ひいては依頼達成を容易(たやす)くするコツなのだ。


(よし、決めた。

 今度は容赦なく、全ての面においてガチでチート設定にして、異世界へ飛んでやる!)

 

 俺は素肌に下着をつけて、白いローブを羽織る。

 こいつに着替えた方が転送しやすいっていうんだから、この白いローブは異世界行きの制服みたいなもんだ。


(おっと、この部屋には同居人がいるんだっけか……)


 俺は後ろを振り向き、着替え姿を(のぞ)かれていないか確認する。

 ちなみに、俺自身は、べつに裸を見られても一向に気にしない。

 だが、同室に寝泊まりしている女性ーー白鳥雛しらとりひなの方が、俺の裸を目にすると、決まってギャアギャア騒ぐ。

 自分が覗かれたわけでもないのに、なにを怒ってるんだかわからんが、とにかく、デリカシーが欠けるとかどうとか(わめ)き散らす。


 念のために振り向いてみると、部屋の真ん中を仕切っているカーテンは開いていた。

 カーテンの向こう側は、彼女、白鳥雛のスペースだ。

 なのに、彼女がいない。

 ベッドの上には、コンパクトや口紅、クリームなどの化粧用品が雑然と置かれたまま。

 珍しく、俺よりも早起きしたようだ。


(昨晩、結構、一緒に酒、飲んだのにな…)


 俺は昨夜の酒盛りを思い出す。

 酔った勢いもあってか、随分と()めた口を利かれたものだった。


「ヤバッ! あんた、ワタシよりお酒、弱いんじゃね!?

 めっちゃ、ハズいんですけどぉ!」


 などと、(あお)られた。

 だから、俺も退()き下がれなくなった。

 スルメをアテに、何杯も日本酒を飲んでしまった。

 だから、俺はちょっと二日酔いだ。


 オレンジジュースを飲んで、大きく伸びをする。

 そして、部屋を出て廊下を渡り、階段を降りて地下へと進む。


 地下には、転送装置が鎮座する〈転送室〉がある。

 俺がドアを開けて入室するなり、星野ひかりが、俺を見て言った。


「正宗くん、遅い!」


 やれやれ、出勤早々に遅刻扱いかよ。


「なに言ってんだよ。時間通りだろ」


 俺は部屋を出るとき、スマホで時間ぐらい確認している。

 でも、ひかりちゃんの文句に相乗りするヤツがいた。


「バカじゃね!?

 ひかりさん、上司なんだしぃ、それよか早く来るのが(スジ)っしょ?

〈五分前精神〉っての、知らないんだ?」


 白鳥雛が、軽蔑したように言う。

 なぜだか、ヒナがひかりちゃんと一緒に並んで待ち構えていた。


「おまえに言われたくない。なんかムカつく」


 一般企業で受けるような説教を、どうして〈ホスト狂い(ホス狂)〉の女から喰らわなきゃいけない?

 俺はそう思ったが、ヒナは追撃してきた。


「ワタシ、コレでも職場(ガールズバー)での遅刻は一回もなかったですぅ。

 キャバとは違うから基本、立ちっぱだし、座るんならカウンターの向こうだし。

 アンタなんかより、ワタシ、社会常識ありますぅ」


 ガールズバーの作法を「社会常識」にすんな! ってツッコミたい。

 それにしても、ヒナのヤツ、今日はやけに(から)絡むなーーと思ったら、思い当たる節があった。


 前回、ヒナが派遣された際、俺が東京に居ながら横合いからいろいろと口出しした。

 だから、今回、やり返そうとしてるみたいだ。

 昨晩、一緒に酒を飲んでたときに、そんなようなことを言っていた。


(ーーでも、ほんとピンピンしてんな。

 マジで俺より酒に強いとみえる。

 さすがはバー勤務なだけあるってか……)


 そんなヒナの様子より、問題はひかりちゃんの方だ。

 ひかりちゃんの方が、なんだか今朝はいつにも増してカリカリしている気がする。

 俺に苦情を入れるや、(きびす)を返して機械の方へ向かう。

 

 地下の〈転送室〉には、転送装置の他にもいろいろと機械が多い。

 転送装置自体は二つの円筒が直立しているだけだが、操作する機械はちょっと離れた場所にある。

 転送装置を稼働させたり、転送者に能力を付与したりと、やることは結構あるみたいだ。

 ちなみに、そうした操作をする機械にも、モニターが付いている。

 転送や付与がうまくセッティングできてるかどうかを確認する画面なんだそうだ。

 が、ちょっと見では、画面にはなにがなにやらわからない図形が映し出されているだけだ。


 いつもは兄の星野新一が操作している。

 が、今日は、妹の星野ひかりが、操作パネルの前に座っていた。


 だから、ひかりちゃん、カリカリしているのか?

 彼女は仕事や用件が立て込むと、テンパるところがある。


 俺は周囲を見回して、彼女に問いかけた。


「あれ? 新一さんは?

 今日はいないのか」


 ひかりちゃんが、文句ありげに頬を膨らます。


「朝っぱらだってのに、町内会の会合に呼ばれてね」


 町内会ーーえらく土着生活的な用語だ。


「こんな東京駅間近の都会にも、町内会があるのかよ?」


「人が住んでるかぎり、町内会はあるわよ。日本なんだからね」


 たしかに、そうかも。

 でも、そんな、町内会に義理だてしなきゃならない日本から、俺は今から旅立とうとしている。

 もっと義理だてが厳しいかもしれない異世界へ。


「で? 今回はどんな依頼だ?」


 俺の問いに、星野ひかりがモニターを見つめたまま、真面目な顔で答えた。


「正宗くん。今回、あなたには文字通り、正義の味方になってもらうわ。

 奴隷売買を阻止して、見事、奴隷を解放してもらいたいのよ」


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