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◆57 ーーそして後日譚

 ドミニク=スフォルト王国の後日談ーー。


 依頼料の残金を支払った後、国王サローニア三世が、星野兄妹と最後の雑談を交わした。

 ヒナが日本に帰ってから、東京ではわずか三日経っただけだが、異世界のドミニク=スフォルト王国では早くも半年が過ぎようとしていた。


「ようやく、本当の隠居生活に入れるわい」


 相変わらずベッドで鏡に向かう初老王サローニア三世に、モニター越しの星野新一が(こた)える形で会話が始まった。


「今現在、デミアス公国の干渉は?」


「反動のようになくなっておるな。

 代わりに別の国との交渉が盛んになった。

 それにしても、レオナルドーーいや、今はパイロン・ドミニク二世王を名乗っておるなーー彼の即位式に、〈大魔法使いヒナ・シラトリ〉を招待できなかったのは、返す返すも残念じゃった」


 ターニャ王女は、レオナルドと結婚した。

 が、彼女は女王に即位することは(かたく)なに固辞し、レオナルドが王となった。


「急な即位でしたね。

 事件からわずか半年ですよ」


「それはそうじゃがーー出来るだけ早く王家と国家体制を安定化させないと、いつ貴族どもや他国に隙を突かれるかわからんのでな」


 レオナルドも創業者の家系ゆえ、王となることに問題はなかった。

 ただ、ドミニク系からスフォルト系に王位が移ったのは二百年ぶりであったため話題になったが、ターニャ姫が身籠り、その子に王位が継承されれば王家が統一されたこととなるため、ドミニク=スフォルト王国という国名自体が変わるのではないかと取り沙汰された。


 サローニア三世が正式に退位し、レオナルドことパイロン・ドミニク二世王が新国王として即位することになった。

 即位式にヒナも勿論招待されたが、ヒナは現れなかった。


 それでも王国では英雄として、〈魔法使いヒナ〉は国の歴史書に記されることとなった。

 (たく)みな(おとり)捜査の実例を提供して、護衛方法を百年は進歩させた賢者としてーー。


 満足そうに(うなず)きながら、先代王は顎髭を撫で付ける。


「わが王家が、次に魔法使いを召喚するのは、孫の代になりそうじゃ。

 余もそれまで長生きしたいものだ」


「そうですね。

 ーーいえ、魔法使いを派遣しなければならないような事態にならないでしょう。

 ターニャ王女ーーいや王妃様は、聡明でいらっしゃるから」


「はははーーなんじゃ、その物言いは?

 それは先代王である余への当てつけか。

 ーーまあ、たしかに、余よりもターニャや新王の方が、なにかと優れておるようだ。

 おかげで余は安心して隠居を楽しめる」


 そう言いながらも、彼、サーロニア三世も、なかなかに喰えない国王だった。

 仮病で引退を決め込んでいながら、いろんな手駒を動かして、ドロレス王妃らデミアス公国派の動きを監視していた。

 いつでも、機会と証拠さえあれば、隙を突いて、政局を(くつがえ)せるように手配していた。

 手駒の中には、ドロレス王妃に長年仕えてきた老執事すらいたというのだから驚きだ。


 だが、そんな元国王でも、老獪(ろうかい)さにおいては、〈大魔法使いヒナ〉より劣ると自嘲する。


「娘らは、今でも〈大魔法使いヒナ〉の聡明さに舌を巻いておってな。

 かの事件の経過を調べれば調べるほど、驚かされるそうじゃ。

 まるで、これから起こることを先読みしたかの動き、演技が多くて、いつ、状況判断をしたのか、見当もつかぬ、という。

 麻薬が蔓延する原因を突き止めて、その主犯であるアレックを誘い込んで次期国王に討伐させる。と同時に、麻薬売人どもを手懐け、闇組合を潰して王都を浄化するーー。

 困難なことを、いくつも同時にこなしおった。

 彼女は未来予知、さらには読心術をも心得ていたに違いない、などと学者どもも論じておってな。

 ーーそうそう。

 王都の長も街が安全になったと喜んでおったし、元売人どもも相変わらずヒナを慕っておるそうじゃ。

 居酒屋も綺麗になり、慶事にはシャンパン・タワーを建てる作法も根付かせた。

 彼女は文化大使でもあったようじゃ。

 困ったことがあるとすれば、貴族令嬢方の気が強くなって、若い男どもが辟易(へきえき)としておることと、侍女たちから伝播して、女性が就寝前に酒を飲むようになったことぐらいかの。

 適量ならば健康に良いが、深酒になると二日酔いになるでな。気をつけんと」


「申し訳ございません」


「なになに。酒に飲まれる方が悪いんじゃ。ヒナさんの責任はない。

 実際、彼女ほどの賢者であれば、酒も適量に(たしな)むのであろうしなぁ。

 ーーしかし、其方(そのほう)も、なかなかに大変じゃろう?

 あれほどの智者となると、其方も上の者として使いづらくはないか?

 んん?」


 予想外の質問に、新一は愛想笑いをぎこちなく浮かべる。


「ーーそうですね。たしかに、いろいろと難しいです」


「そうであろう、そうであろう。

 賢い女の心根は、愚かな男にとっては永遠の謎だて。

 ーーまぁ、なんであれ、大魔法使いのヒナ様には、これからも様々な世界に渡っては知謀を発揮して、世を救ってもらわんとな。

 はっははは」


「そうですね。はっはははーー」


 星野新一は先代王と一緒になって笑う。

 そして、別れを告げて、交信を切った。


 今後、あの異世界とつながるときがあっても、向こうでは十年経っているか、何百年経っているのか、もはや、いつの時代になるかわからない。

 もう、先代王ばかりか、ターニャ姫やレオナルドの顔をモニター越しでも見ることはないだろう、と新一は思っていた。


 ひかりがお茶を淹れつつ、にこやかに笑った。


「今度、あの世界とつながったときには、ヒナが叡智に溢れた大魔法使いとして伝説化してるかもしれないわね」


「いやいや。

 アッチではまだ半年経過しただけなのに、すでにヒナさんは〈国難を救った伝説の魔法使い〉だよ。

 今度つながった頃には、神様にでも昇格してるだろうさ」


 その〈伝説の魔法使い〉さんは、夜な夜な歌舞伎町に繰り出してはホストにお金を貢ぎ、今も二日酔いで寝込んでいる。

 わずか三日のうちに、渡した半金、二十万円余を完全に使い果たしていた。


 そんな間抜けっぷりをーーヒナ・シラトリの真実の姿を、アチラの世界の人にはどうしても言えなかった。


 星野兄妹は互いに顔を見合わせてお茶を(すす)り、苦笑いを浮かべる。

 苦い顔をしたのは、もちろん、お茶が苦いからだけではなかった。

今回で、第二章、終了です。

 読んでくださって、ありがとうございました。


次回から、第三章に入ります。

 今度は、東堂正宗とうどうまさむねが、低スペックの〈冒険者兼魔術師〉として異世界へ派遣されます。

 彼は入るべき冒険者パーティーを指定されているんですが、そこがブラックで……。


 楽しんで頂けると幸いです。


追記:

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 今後の創作活動の励みになります。

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