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◆55 帰結と帰還

 ドミニク=スフォルト王国では、翌朝から大変な騒ぎになった。


 男爵家とはいえ、〈新興勢力の雄〉である貴族の跡取りが死んだのだ。


 だが、憲兵隊が自宅を取り調べたところ、数多くの隣国デミアスへの内通の証拠が見つかった。

 貴族院での討議内容ばかりか、軍事作戦や資源魔石についての重要機密事項を金で売っていたことが明らかになったのだ。


 さらにはアレックの実家タウンゼント邸において、麻薬の原材料である魔石の鉱石が大量に発見された。

 末端価格にして、一年分の国家予算ほどの収益が見込まれる量である。

 王都の暗部に浸透し、大勢の王国民を廃人にした元凶であり、アレックの実家の財源となっていた麻薬原料が、ようやく白日の下に(さら)されたのだ。


 それでも、いったんは、ドロレス王妃の横槍で捜査が一時中断となる。

 ところが、一週間後、ターニャ王女とレオナルド公爵家子息との婚約の儀が()り行われた後は、捜査が再開。真相解明が、急ピッチで進展した。

 捜査の全権がレオナルドの父親が握ることとなったためであった。


 捜査の過程で、王権代理のドロレス王妃とアレックの癒着ぶりが明らかとなった。

 ドロレス王妃の老執事が、王妃とアレックが深い中であったことを証言したのである。


 さらには、麻薬の販売ルートの解明も進んだ。

 かつて麻薬の売人であった男たちが積極的に情報提供をしてくれたからであった。

 彼らはみな、


「大魔法使いヒナ様のために、一肌脱ぎたかったのです」


 と訴えていた。


 彼ら密売人が裏切ったことにより、魔石粉末|(麻薬)売買で肥え太った闇ギルドの親方たちが、一網打尽で捕縛される運びとなった。

 結果、王都に蔓延(はびこ)っていた麻薬組織が、一気に瓦解したのである。


 それと期を同じくして、先代王サローニア三世が、政務に復帰する。

 そして、ドロレス王妃の職を解き、新たにターニャ姫が王権代理に就任。

 即座に、アレックの実家タウンゼント男爵家及びドロレス王妃が、国家反逆罪で告発された。


 ドロレスは縄にかかるのを潔しとせず自害。

 アレックの父親タウンゼント男爵はさっそく裁判にかけられ、お家取り潰しとなった。


 アレックが決闘で死んでから、わずか二週間のことである。


 その段になって、今度はターニャ王女とレオナルドの結婚が発表された。

 婚約してから、わずか一週間のスピードであった。


 もちろん魔法使いヒナは、三ヶ月後に開かれる二人の結婚式に正式に招待された。


「まあ、マジで二人をくっつけたのは、ワタシだかんね。

 もう東京に帰るつもりだったけど、式を挙げるまでいてあげるわ」


 そう東京本部に向けて語ったヒナは、上機嫌であった。

 新たな王家の誕生に向けて、侍女仲間たちが忙しく立ち働くのを横目に見ながら、ヒナは連日連夜、夜の王都に繰り出しては酒を飲み、ついでに裏町の浄化や、魔石酔い根絶のために様々な魔法を駆使していた。


 王都の守護責任者の第三騎士団代表や、王都知事を務める伯爵などから、(しき)りに礼を述べられもした。


「ありがとうございます、ヒナ様。

 貴女様のおかげで、王都の街は美しくなりました」


「まるで、夢のようです。

 腐敗が一掃され、夜の街を女性が歩けるほどになりました。

 これも一重(ひとえ)に、大魔法使いヒナ様のおかげです」


 彼らは、ヒナの魅了(チャーム)能力については知らなかったが、ヒナの息がかかった連中の活躍によって闇組織が壊滅し、麻薬の蔓延(まんえん)が阻止されたことを知っていた。

 逆に、ヒナの方が、彼ら元麻薬密売人たちの暗躍を知らなかった。

 彼女にとって、彼らはナイトクラブの店長と手を組んで、シャンパングラスやミラーボールの開発と販売、そして夜の店の内装を手掛けるようになった転職組程度にしか、認識していなかったのである。


「いや〜〜。マジ!?

 そうやって、正面から褒められると、すっげぇハズいんですけどぉ?

 もち、ワタシとしては、お洒落なナイトクラブが何軒も増えてくれたんで、満足かな?」


 ヒナの創造魔法で出来たブラックウルフの内装に似たデザインが、王都の居酒屋で流行し始めていた。

 それだけではない。

 いまだ空気を含んだ荒いガラス製ながらも、ジョッキやグラスが生産され始めたのだ。

 結果、シャンパン・タワーが建てられる規模の居酒屋のことを、正式に「ナイトクラブ」と称することに、王都の法律で定められた。


(ーーうふふふ。

 キテる、キテる。これは、キテるぞぉ!

 キャバクラやホストクラブ爆誕まで、あとわずかってところじゃん!?

 コッチの世界じゃ、ワタシ、次期国王と王妃様の恩人だもんね。

 べつに魅了(チャーム)を使わなくたって、イケメンをよりどりみどりで侍らせることができるはず。

 めっちゃ、ヤバくね!? 逆ハーよ、逆ハー!)


 ヒナの笑声が響かぬ夜がないほどであった。


 が、浮かれていられたのも、それまでだった。


 アレックの決闘死によって終わった一連の事件の重要な証人として、〈大魔法使いヒナ〉が、裁判に出席せざるを得なくなったのだ。


 アレックの実家であるタウンゼント家が(つい)え、先代王妃ドロレスが自害してもなお、彼らがばら撒いたお金や国家機密情報、さらには麻薬原石などの回収や、麻薬の販売経路の明確化には、相当に時間がかかる。

 さらに多くの逮捕者が出る予定であった。


 しかし、アレックが絡む事件に際して、ヒナは大活躍したことになっているが、本人としてはまるで無自覚のうちに事件が暴露されただけだったので、「証人」として出廷してもなにも語れない。


 かといって、王女カップルを助けた英雄としての像を、ヒナは壊したくない。

 そこで、のらりくらりと言葉を濁していたら、裁判官や検察、さらには国家官僚や治安関係者からも、〈大魔法使いヒナ〉こそが、深い事件の背景を知悉(ちしつ)する唯一の人物だと目されてしまった。


「マジで、勘弁。

 もう、こんなトコ、いたくない。

 帰りたい。助けてぇーー」


 数日を経ただけで、ヒナは東京に愚痴や泣き言を(わめ)き散らすようになった。


 じつは連日連夜、寝室に連れ込んで子守唄として讃美歌を歌わせていた騎士見習いの少年のなかに王妃側のスパイがいたことを知って、ヒナは相当、落ち込んでいた。

 お肉を頬張っていた、もっともワンパクで可愛らしい少年が、罪に連座して実家ごと処刑されるのに耐えられなかった。

 少年が泣きながらヒナに助命を請うていると耳にして、なんとか助けたかった。

 だが、少年が刑死を免れたところで、何十年もの強制労働が見込まれると知り、ヒナの方が根を上げてしまい、すべての事件処理を誰かに丸投げしたくて仕方なかった。


 結果、東京異世界本部のメンバーが知恵を絞って、実際にアドバイスすることになった。


「もう少し待って。

 ターニャさんや、そのお父さんとも協議して、落とし所を探ってるから」


「そうそう。

 ヒナさんは、他にも人々を救うために派遣される世界があるのだから、一刻も早く解放してくれ、と訴えている最中だからね」


「安心しろ。

 俺様が仮面男が行なってきたことを推察しながら、ソッチの王国の政治状況を加味して、もっともらしい〈証言〉をでっち上げてやるから。

 おまえはその証言に従って、陳述すればいい。

 俺様に感謝しろよ」


「お願い〜〜」


 いつもの喧嘩腰は何処へやら。

 ヒナは、ひたすらシオらしくなってしまった。


 実際、法廷において、彼女は何度も失言をしそうになったが、本部からの声の指示によって、なんとか事なきを得て、この世界に戻ってくるまで、半月近くかかってしまった。

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