◆54 奇跡的に天才魔法使いと誤解されてるんだ。ここで格好つけなくて、どうする!?
いきなり決闘の舞台に、ワタシ、魔法使いヒナは転移してきた。
ワタシは酔った目で地面に横たわるアレックを見て、ついで上に目を遣って、互いに抱き合ってキスをするお姫様と公爵家子息を見留めた。
(あらあ……意外な結末! まずったなあ……)
実は、ナイトクラブで飲んでいるとき、話し相手欲しさに、東京本部との通信を再開していた。
それから延々と、本部から激怒の声が脳内で響いていたのだ。
ナノマシンへのアクセスに変化が生じ、東京にあるモニターに、今度はターニャ王女の視点を基にした映像が映し出されていたのだ。(なんで?)
お姫様は、魔石に潜り込ませたナノマシンを介して、ヒナと視覚と聴覚を共有していた。だから、お姫様の周囲で展開する情報を映像化・音声化して、東京のモニターに映し出すことも出来て当然だ。
結果、姫様から糾弾されるアレックの姿、ついでアレック相手に剣を突くレオナルドの姿が、東京のモニターに映し出されたのであった。
慌ててマイクに声を出した星野兄妹だったが、(ナノマシンが気を利かせたのか)幸いにも地球からの音声が伝わるのは、ヒナだけだった。
「ヒナさん、急いで! お姫様が危ない!」
「あなた、護衛役なんだから、今こそ魔法をぶっ放しなさいよ!」
「せっかく、バカなおまえが、奇跡的に天才魔法使いと誤解されてるんだ。
ここで格好つけなくて、どうする!?」
(もう、うるさいな! わかったわよ。行けば良いんでしょ、行けば!)
あまりのうるささに耐えきれず、ヒナは脳内で叫んで王宮に戻ってきたら、この有様だったのだ。
ヒナの足下に、推しの〈王子〉が、苦悶に満ちた表情で横たわっている。
血溜まりが、ヒナの立つ位置にまで広がってきていた。
それにしてもーーこれ、ワタシのもってる魔法で、どうにかできる段階じゃないわよね?
ついに、殺人事件って、なに?
マジで、ヤバい??
でも、私のせいじゃないからね。
知らない……!
自分の耳を両手で塞ぐようにして、首を横に振る。
ここまでになってたんだったら、ナノマシンたちがワタシに映像を送りつけて来ても良かったはずなのにーーひょっとして、ワタシ、ナノマシンたちから信用されてない?
ワタシ、魅了魔法をかけたご主人様なはずなのに??
ほっかむりを決め込むしかないじゃん?
やっぱり。
場違いな修羅場に、いきなり放り込まれた。
ワタシは、そんなかんじで、オロオロするばかり。
が、そんなワタシに向かって、公爵家子息レオナルド・フォン・スフォルトは深々とお辞儀をした。
「異世界の大魔法使い様。
なにもかも、ご存じだったんですね。
だから、私達二人が逢い引きしている場所へ、この者を誘導なさった」
次いで、レオナルドに寄り添うターニャ王女が、満面の笑みを浮かべて問いかけてきた。
「それにしても、ヒナさん。
いつ、アレックが、隣国の手先とおわかりになられましたか?」
状況がイマイチ飲み込めていないけど、慌てて言い訳を考えるしかない。
ワタシは、しどろもどろになりながらも、口を開いた。
「じ、じつはねーーお姫様の婚約者候補として、このヒトの名前を知るより前にね、ワタシ、この男性と出会ってまして……接吻したんですが……ゴホゴホ、えっとーーとにかく、出逢った当初から、このヒト、なにやら怪しい雰囲気を漂わせていましたよ?
うん。マジで、紳士的でないっていうか、悪いヤツっていうか……(ホントいうと、そこがツボったんだけど)」
言い訳めいたワタシの言葉を相手にせず、ターニャ姫はワタシの両手を手に取って握り締めた。
「私からも、感謝を捧げさせてください」
そして、耳許でささやく。
「こちらから告白する勇気をくださって、ほんとうにありがとうございました。
〈王子をNO・1にするのは姫の勤め!〉
ーーこのお言葉、肝に銘じております。それに……」
頬を真っ赤にしながら、王女は付け足した。
「レオナルドも、すっかり逞しくなってくれました。
これで一安心です」
ワタシは、ぎこちなく笑う。
その笑顔を見て、レオナルドは毅然とした振る舞いで、ワタシに一礼する。
その一方で、彼女たちの足下に横たわるアレックーー。
血塗れになって倒れ伏す彼は、白眼を剥いて口から涎を流していた。
(なによ、みっともない男……。
アンタなんか、ワタシの〈王子〉に相応しくない!)
ワタシはアレックの身体に、一蹴り入れる。
そして、炎の魔法で、男爵子息の亡骸を焼いた。
無用の長物であった火炎魔法を、なんとか使用したのであった。




