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◆53 婚約者候補同士の決闘②

 劣勢に回った男爵子息アレックは、いきなりインチキをした。

 指輪から魔力を調達し、(ふところ)から棒状の魔道具を取り出したのだ。


 この決闘の場に居合わせた誰もが、異様な魔力の波動を感じた。


 その瞬間ーー。


「う、動けない……!?」


 レオナルドは驚愕して、もがく。

 だが、動けない。

 全身が石になったようだった。


 形勢逆転ーー。


 アレックは勝ち誇った。


「ハァッハハハハ!

 思い知ったか!

 これぞ、〈緊縛〉の魔法だ。

 わが国では珍しい魔法だが、コイツがあれば……」


 すべての指にゴテゴテと魔石指輪が嵌められており、その手には魔道具が握られていた。アレックは、指輪の魔石から魔道具に魔力を充填して、〈緊縛〉魔法を使ったのだ。


「こんな魔法を決闘で使うなんて。

 やり方が汚いぞ!」


「剣術による決闘では、魔法は厳禁ですぞ!」


「決闘の場で、なんたる無礼!」


「それでも、王国貴族ですか!」


 立会人になっていた騎士たちが、大声で騒ぎ立てる。

 だが、彼らも身動きが取れない。

 彼らが立つ空域まで、緊縛魔法の効果が広がっていた。


「はははは。どうだ、動けまい?

 貴様らがどれだけ(わめ)こうとも、勝てば官軍よ。

 こうしたモノが、隣国ではかなり普及しているのだ。

 なにかというと魔道具を使用禁止にする王国(わが国)とは違う」


 レオナルドが、アレックを睨みつける。


「やはり、貴様が隣国(デミアス)の手先だったのか!?」


「手先とは……えらく低く見積もってもらったものだ。

 デミアスと(よしみ)を通じて、この国の発展を企図することの、なにが悪い!?

 公爵家に生まれて、将来、国政に参加できるのことが確約されているお前とは違う。

 国王になるためなら、泥水だって(すす)る覚悟があるのだ、私は!」


 レオナルドの顔は蒼白になった。

 身体が動かないのでは、戦えない。

 悔しくて、涙が出た。


 だが、この広域の緊縛魔法が展開している中で、唯一、動ける存在がいた。

 ターニャ王女だ。

 彼女がレオナルドの(かたわ)らに駆け寄った。


「私が貴方をお守りいたします!」


 身を(かが)め、優しい口調でいたわる。

 信じられない、といった表情で、恋人を見返すレオナルド。


 驚愕の態になったのは、レオナルドだけではなかった。

 敵対者であるアレック、さらには居並ぶ騎士たちーー緊縛魔法が効いて身動きできない者たちすべてが、呆気に取られていた。


 アレックが叫んだ。


「な、なぜだ!

 なぜ動ける!?」


「今の私は、すべての魔力を無効化することができるのです」


 ターニャ姫はレオナルドの隣で立ち上がり、アレックの方へ向き直った。


「誰かを相手に、これほど憎しみの感情を覚えたのは生まれて初めてです。

 もう、容赦しません。覚悟!」


 ターニャ姫の手許が、白く光り輝く。

 指輪の魔石が、効力を発揮したのだ。


 今度はアレックの方が、全身から力が抜け、動けなくなった。

〈魔力剥奪〉によって、アレックの指輪にある魔石が放つ魔力を、すべて奪い去ったのだ。


「ぐっ、なんという魔力量だ!

 これでは〈魔法封じ〉が効かぬ……」


 アレックは常日頃から〈魔法封じ〉能力が込められている魔石を懐に忍ばせていた。

 無論、魔法攻撃に備えるためである。

 だが、あまりに強大な魔力をぶつけられると、効果は霧散する。

 所詮、ホンモノの魔力持ちには、魔石による魔法防御は通じなかった。


 己の魔力が弱いことを自覚するアレックは、普段から〈魔法封じ〉のみならず、様々な効用を持つ魔石を肌身離さず身に付けていた。

 それが今現在は、仇となった。

 半ば魔力効果とともに生活してきたので、魔力が奪われると、体力がなくなるほどの倦怠感(けんたいかん)(さいな)まれてしまうのだ。


「ううう…… こんなことになるとは……!」


 アレックは酔漢の如く、足許をふらつかせる。


 逆に、ターニャ姫は、キビキビと積極的に動き始めた。

 まずは〈魔力剥奪〉によって、アレックの魔法攻撃を封じる。


 次いで、レオナルドの許へと寄り添い、〈魔力無効〉を発動させた。

 レオナルドを縛りつけていた緊縛魔法を無効化したのだ。


 身体の自由が与えられ、レオナルドは喜んだ。


「ターニャ姫、君はなんて素敵なんだ。

 魔法の力も素晴らしい!」


「違うわ。

 この魔法の力は、みんなヒナさんからお借りしたの。

 私の力ではないのよ」


「いえ。これは貴女の力です。

 異世界の大魔法使いから深く信頼された証が、この魔法なんです。

 信頼を勝ち得た貴女の力なんですよ、これは!

 ですが、魔法によってヒナさんが貴女を守るように、私も貴女ーー王女殿下をお守りする剣でありたいのです!」


 レオナルドは改めて剣を正面に突き立てるように構え、ゆっくりと前に進んでいく。

 眼前には、悔しそうに唇を噛む男ーーアレックがいた。


 アレックも、レオナルドによる刺突攻撃をなんとか迎え討とうとして剣を構えるが、剣を握る手の震えが止まらない。

 構えも隙だらけだった。


 レオナルドは、その隙を見事に(とら)えていた。

 アレックの目の前に立つと、まっすぐに踏み込み、力の限り剣を突き立てた。


「があああッーー!」


 (うめ)き声とともに短剣が地に落ち、アレックは片膝をつく。

 効力を失った魔石指輪を嵌めた両手で、己の胸を覆う。

 が、衣服を染めて(あか)く広がっていく鮮血が、指の間からも溢れ出していた。


 レオナルドの持つ刺突剣(レイピア)の剣先が、(あか)く濡れていた。

 アレックの心臓を、見事に突き刺したのだ。


 アレックは地に横たわり、四肢が小刻みに痙攣(けいれん)する。

 身体から血が噴き出て、血溜まりが広がっていく。

 両眼とも視力を減じたのか、(まぶた)が半開きのまま、光がうつろになっていく。


「死にたくないーー死にたくない……」


 泣き始めるアレックに対し、レオナルドは瞑目(めいもく)しつつ言った。


「麻薬で人生が潰れた者たちも、死にたくはなかったろうさ。

 これも因果応報だろうな」


「……」


 アレックの眼から完全に光が奪われ、口が完全に動きを止めた。


「終わった」


 レオナルドは決闘相手の最期を見届け、純白のボウタイで剣の血糊を拭き取った。


「見事ですわ。レオナルド様!」


 改めてターニャ王女は婚約者の許へと身を寄せる。

 二人は互いを見つめ合い、抱き合った。

 互いの心臓の鼓動が、二人の体内にこだまする。

 初めての口づけをした。


 立会人たる騎士や侍女たちに囲まれた只中での出来事であった。

 とかく恋愛表現に乏しい王国では、珍しい振る舞いだ。


「これはーーなんとも……」


「はしたなくも、お美しい……」


 騎士も侍女も、みなの方が目の()り場に困っていた。


 そんなときである。

 決闘の現場である王宮の奥庭に、突如として〈魔法使いヒナ〉が姿を現したのだ。


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