◆12 異世界派遣の仕事って、クールじゃね?
わが社にやって来た二人の求職者、東堂正宗と白鳥雛ーー。
彼らは口をあんぐりと開けたままで、声を発した。
「異世界?」
「異世界って……あのラノベやアニメとかであるような……?」
私、星野ひかりは拳を強く握り、小さくガッツポーズをとる。
「そう。ラノベやアニメであるやつ。説明が省けて助かるわ」
ほんと、世の中の娯楽作品が、ようやく私たちの業務を説明しやすくしてくれた。
時代がやっと、私たちに追いついてきたというべきか。
父の代に創業してから四十年強ーー。
長かった……。
少しの間だけ感慨に浸ってから、即座に説明を始める。
「それこそ〈三千世界〉っていわれるぐらい、たくさんあるのよね、異世界ーー」
さも当たり前のように、お茶を口にしながら、話を続ける。
「そんなたくさんある異世界から、わが社へ派遣依頼があるのよ。
で、依頼が来たら、条件を詰めて契約する。
契約ができたら、君たちが派遣員として、即、その世界に行ってもらうの。
それがお仕事」
二人はまたもや、互いに顔を見合わせてから、おずおずと切り出す。
「どうやって異世界に? まさか……」
「トラックで轢かれて、転生するとか……?」
私の後ろで突っ立っていた兄が、慌てて声をあげる。
「ちがう、ちがう。
それじゃあ、死んじゃうよ。
マンガやアニメの見過ぎ!」
私も釣られたように、慌てた口調で訂正する。
「違うの。転生ってやつじゃないの。
基本的には……転移?
それとも、召喚?
よくわからないけど、そういった現象よ。
つまり、身体ごと、そのまま異世界へ行くんです」
そして兄の新一が胸を張って、駄目押しのように宣言した。
「ちなみに、当社の正式名称は、株式会社『東京異世界派遣』といいます。
ようこそ、わが社へ。歓迎しますよ!」
二人とも、ポカンとした顔をしていた。
あまりにも異次元な話で、全身の力が抜けてしまったようだ。
兄の能天気な調子に合わせるかのように、妹の私もフットワーク軽く立ち上がった。
そして、目の前の求職者二人に向けて、手を差し伸べた。
「いいでしょう。論より証拠。
百聞は一見にしかず。
ついて来てください」




