表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/290

◆46 〈姫〉はあくまで、推しの〈王子〉のために尽くすもの!

 姫様の寝室で、ワタシ、魔法使いヒナにいきなり抱きつき、挙句、防御魔法で壁にまで吹っ飛ばされた男は、ロバート・ハンターであった。

 ワタシが今現在、絶賛推し活(オシカツ)中の、イケメン宝石商である。

 ついさっきまで、ナイトクラブでの逢瀬を待ち侘びていた相手である。


 今、ロバートは仮面を付けていない。

 イケメン顔が露わになっていた。

 端正で整った顔が赤くなっていて、すでにかなり酔いが回っているようだ。


 今度は、ワタシが驚く番だった。

 ロバートの顔を認めると、即座に走り寄って抱きついた。


「ヤバッ! 大丈夫?

 もう、ロバートったら、ワタシとの約束、マジ忘れた?

 ヒドくね!?」


 いきなり胸板に顔を(うず)める女を見下ろし、男は額に青筋を立てた。


(なんだよ、なんでこのバカ女がここに?

 ……大切な時なのに、邪魔すんじゃねぇよ!)


 そう思ったが、今はそんな口喧嘩をしている場合ではない。

 男は女の身体を突き放し、シラを切った。


「なんだ、貴様は。私はロバート・ハンターではない。

 男爵家の次期当主アレック・フォン・タウンゼントである。

 貴様なぞ、知らぬ。早く出て行け!」

 ロバートは、ワタシに冷たい視線を浴びせる。

 一瞬、呆気に取られた。

 が、すぐに正気を取り戻すと、ワタシは食い下がる。

 ロバートに再度、抱きついた。


「めっちゃ腹立つ。なに嘘ついてんの。

 あなたはロバート! 間違いない。顔も覚えてるし、声でもわかってる。

 それに印貼付マーキングが、あんたがロバートだってこと、示してんだから。

 わかる?

 ワタシ、マジで、あなたに魔法をかけておいたの。言い逃れすんな。ダセェ!」


 目前の男は化粧をして、服装も見慣れぬ貴族服を身につけている。

 が、印貼付マーキングが、目の前の人物が、ロバート・ハンターであることを示していた。 男は苛立ちの声を上げた。


「なに、勝手なことしてるんだ。このバカ女!」


 男の口調が、夜の店でのものに変わっていた。


 だけど、ワタシの激おこぶりも負けてない。

 さんざん店で待ちぼうけをくらった挙句、知らない扱いにされた。

 これが怒らずにいられようか。


「バカはアンタでしょ!

 マジで、なに言ってんの!?

 ワタシたち、付き合ってるんじゃないの?

 それなのに、ナニ!?

 姫様の寝室でナニしようとしてんのよ!?

 ヤバいじゃないのよ、この野蛮人!

 ワタシを騙したの!?

 マジでウゼェんですけどぉ!」

 


 仁王立ちする女を見て、アレックは非難がましい目付きで叫んだ。


「騙したもなにも、俺は男爵家、お前は異世界の魔法使いだろう!

 はじめから、お前なんか相手にするかよ。

 俺はターニャ王女を狙っているんだ。

 俺様が次期国王になるためにな。

 お前なんか、なんだ!」


 怒鳴り返されて、ようやくワタシの思考回路が動き始めた。

 今頃になって、ロバートこそが男爵家子息のアレックで、ターニャ王女のもう一人の婚約者候補だったんだ、と理解した。


(ヤバッ! そうかーー。

 ワタシに宝石商ロバートと名乗って近づいたのは、こうして姫様を寝室で待ち伏せするためだった!?

 寝室で身を(ひそ)められるように、私から姫様のスケジュールを聞き出してーー。

 それって、まじでキモくね!?)


 顔を真っ赤にして睨みつけてくるロバートを見据えながら、ワタシは胸を手で押さえる。


(ーーでも、ここは深呼吸、深呼吸。

 ヒナ、落ち着くのよ……)


 残念ながら、白鳥雛しらとりひなのような〈ホス狂〉が、マジメに考え出すと、かえって碌なことにならなかったりする。

 でも、ヒナ本人は、そうは思っていない。

 一度、推すと決めたオトコに尽くすことこそ、正義だと信じている。


 現に、落ち着きを取り戻したヒナは、思い直してしまった。

 ワタシは見事に騙されたけど、これって素敵なことじゃないかしらーーと!


 目の前のオトコは、自分が()すと決めた〈王子〉だ。

 ホンモノのお姫様をゲットするために、貴族なのに平民と身分を偽ってまで、異世界人であるワタシに接近してツテ求めてきたーー気骨のある〈王子様〉なのだ。


 ワタシったら、頭を撫でてもらうことばかり考えてたけど、ワタシが推してる〈王子様〉は、まだ野望(ユメ)を実現するための階段を登ってる最中なんだーー。


(そうね。気持ちは、めっちゃわかる。

 ワタシには、なにもないものね。

 貴族の世界の話だから……)


 ヒナは考えた。

 推しの男を理解しようと、必死で考えた。

 そして悟った。

〈王子様〉が王様になろうと奮闘するってのは、まったく正しいーーと!

 そのためには、どんな嘘も許されるはずだ、と!


 実際、国のNo.1になるって、スケール大きいことだしぃ。

 ホストクラブでTOPを取ろうって話の規模じゃないーー。


(思い出すのよ。ワタシはどんな世界に行っても、歌舞伎町の姫!

 推しの王子様のために尽くす心意気を、忘れたりはしないわ!)


〈姫〉はあくまで、推しの〈王子〉のために尽くすもの!


 魔法使いヒナは両手の拳を強く握り締め、覚悟を決めた。


「めっちゃ素敵。マジで、応援したい!

 応援するから、ワタシをあなたの心のお姫様にしてッ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ