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◆44 待ちぼうけの夜

 ナイトクラブ『ブラックウルフ』ーー。


 ワタシ、〈魔法使いヒナ〉は、大きな丸テーブルに座って、独りで(さかずき)をあおっていた。

 侍女仲間も誘ったのに、なぜかみなから同行を断られ、独りになってしまった。

 お茶の席では、侍女長のクレアさんも、ワタシに付き合うよう命じていたのに……。


(ヤベェ。もしかして、ワタシ、めっちゃ嫌われた?

 自由に恋愛して、イケメンをゲットしたから?

 ティアラと宝石、もらっちゃうから?

 ーーでも、ま、いっか。かえって、都合良いから……)


 ワタシは想い人ーーロバート・ハンターを、ひたすら待ち侘びていた。

 ()しの〈王子〉との逢瀬を果たすために。


 ところが、待ちぼうけをくらっていた。

 もうかれこれ、二、三時間は待たされている。


 今夜は、ターニャ姫が珍しく休みを取れて、侍女連中も出払っている。

 そんな夜に、「ターニャ王女の部屋に、サプライズを仕込みたい」と宝石商ロバートに求められ、ワタシはそれに見事に応じた。


 愛する〈王子〉のために〈姫〉が頑張ったのだ。

 あとは〈王子〉から〈姫〉へのご褒美を待つばかりであった。


 それなのにーー。


 さすがにイラついて、勢いよく杯を置き、足を踏み鳴らす。


(ワタシ、放置プレイの趣味、ないんですけどぉ!)


 サプライズの仕込みは、とうに終わって良い頃合いだ。


 ターニャ王女が、仕事終了後の晩餐から、自室にお戻りになるのは、夜の七時。

 だから、それまでにサプライズの宝石の贈り物と、レオナルドではない、もう一人の婚約者が、王女の部屋の中で、待機しているはずである。


 そして、そのもう一人の婚約者が、ターニャ王女に求婚する手筈になっていたーー。


 ワタシは、ロバートから頭を撫でてもらうのを、今か今かと心待ちにしていた。

 と同時に、何度も自分に言い聞かせていた。


(ひょっとして、ワタシ、まじでヤバいこと、しちゃった!?

 いやいやーーなにも悪いことなんか、してないよね、うん。

 そう。これは姫様のためにもなることなんだから!

 このまま、幼馴染の縁ってだけで、あんなレオナルド(人形フェチ)と一緒になるなんて、可哀想すぎる。

 それに、もう一人の候補になってるナントカっていう男爵家の息子さんにもチャンスを与えないと、公平とはいえないでしょ?

 そうよ! みんな、男爵だからって差別してんじゃね!?

 同じ貴族なのに、間違ってね!?

 ーーってことだから、ワタシとロバート、平民二人組が、男爵さんの後押しをしたって、悪くないんだかんね!)


 実際、女性が自分の部屋に帰ってきたら、いきなり男性が隠れ(ひそ)んでいるってのは、サプライズを通り越して、ほとんど犯罪だと思う。

 ーーだけど、そういった常識は、ワタシが地球の日本人だからだ。

 コッチの世界では、よくある求婚の様式だ、とロバートが言っていた。


 ーーそれにしても、ロバート、来んの、遅くね!?


 当然、姫様のお部屋でサプライズしてから、愛の語らいになるのだから、それなりに時間はかかるだろう。

 でも、宝石商のロバートは、その婚約者候補さんに宝石を渡して、お膳立てするだけの役割であって、求婚する当事者じゃない。

 だから、要件が終わって、七時ーー遅くとも八時には、自由になるはずだ。


 なのにーー。

 このブラックウルフで会う約束したのに、遅い。

 ワタシ、七時前から待ってるのに。

 もう九時を超えてんじゃね!?


 遅刻、マジ、許せねえ!

 今夜は、きっとプロポーズをしてもらえる、と思ってたのにーー。


 テーブルの前には、飲み干した酒杯が、何杯も溜まっていた。


「ほんと、めっちゃ遅くね!?

 まさか忘れてるってわけない?

 オンナを待たすなんて。まじ、ムカツク!」


 ワタシはウエイターを呼んで、お酒のおかわりを頼んだ。


 店内は、賑やかに盛り上がっていた。

 シャンパン・タワーを作って、上からお酒を振り注ぐお客サマが、どのテーブルでも(たむろ)しているようだった。


 ここでは、歌舞伎町のシャンパン・タワーよりも安く上がるらしい。

 日本でのイッキ飲み並みの気軽さで、タワーが築かれている。


「なにさ、みんなばっかり楽しんじゃってね?

 ワタシ、つまんない!」


 そこへ小太りの店長が、満面の笑みを浮かべてやって来た。


「これは、大魔法使いヒナ様。

 今宵(こよい)は、えらくご機嫌斜めでいらっしゃる」


 ワタシは頬を膨らませ、店長の後ろに控えている連中に目を向ける。


「あら、見たときがある顔ね」


 店長が何人かの男を引き連れている。

 あまりイケメンではない、ちょっと強面(コワモテ)

 鑑定するまでもない。

 ワタシの魅了魔法(チャーム)が効いていることは、彼らがぶつけてくる熱い眼差しでわかる。


「ああ、以前、街で会った、魔石粉末|(麻薬)の売人ね。

 髭剃ったから、一瞬、わかんなかった。

 魔石粉末|(麻薬)から手を引いたの?」


 彼らの服装が、すっかり変わっている。

 以前は、着崩した服に、金銀の装飾品をジャラジャラ付けた格好をしていた。

 今は、ヒナ好みのタキシード調の黒装束である。

 このナイトクラブのウエイターより、ちょっとフォーマルなかんじだ。


「はい。私どもが魔石をヒナ様に献上したあと、親方にこっぴどく怒られましてね。

 危うく、片腕を切り落とされそうになりました。

 ですが、結局、商売の鞍替えってことで、手を打ちましてね。

 魔石の売買ルートは、別の者に譲りました。

 結局、上納金さえ納めれば、どんなシノギをかけようが自由だってことで。

 これで魔石粉末|(麻薬)の売人から、足が洗えます」


「ふうん。そりゃ、よかったんじゃね?」


 ワタシは、気のない返事をする。

 ここで、店長が上目遣(うわめづか)いで、話を切り出す。


「で、ですね。

 つきましては、ヒナ様のアイデアを、商売につなげようと思っておりますデス、はい」


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