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◆36 ナイトクラブで、仮面の男と大騒ぎ

 王女様の婚約発表が間近だという話題で、国中が盛り上がって来た、五月のある夜ーー。


 ナイト・クラブ『ブラックウルフ』の店内では、乱痴気パーティーが始まっていた。

 主導したのは、異世界から彗星(すいせい)の如く、夜の街に現れた〈魔法使いヒナ〉であった。


 小太りの店長が彼女の許に飛んで来て、愛想のいい笑顔を向ける。


「ようこそ、いらっしゃいました、魔法使いヒナ様。

 今宵(こよい)は、お仲間の淑女の方々はーー?」


 ヒナの前後にいるのは、白甲冑をまとう騎士たちのみであった。


 「今夜は、秘密の恋人と過ごすのよ。

 ぜったい誰にも言わないでね。」


 ごもっとも、とばかりに激しく相槌を打った店長は、揉み手をしながら話題を変えた。


「それでは、どうぞ、わが店の内装をご覧ください。

 綺麗な状態で維持しておりますでしょう?

 ヒナ様の大魔法によって改装されまして以来、ウチは大繁盛です。

 これからは居酒屋が新たな社交場になるのではないか、とすら思えてきました!」


「チッチッチ!

 居酒屋じゃないわ。ナイトクラブ!」


「はっ、失礼致しました。

 ナイト・クラブ『ブラックウルフ』でした」


 ワタシは騎士たちや店長ら、男どもを従える格好で店内を歩き回り、自分が創造した装飾を確認する。


 客の服装も顔相も上品になっているし、楽団もバイオリンとピアノをコチラふうに上手く(かな)でている。

 後ろ暗さが一掃されたかんじだ。


 ワタシは満足の笑みを浮かべた。


「よぉし、まじでイケる。

 お膳立ては揃った。

 今宵は、伝説として語り継がれる夜になるわよ」


「はい?」


 怪訝な顔付きになる店長を尻目に、ワタシは店内で最も広い空間ーーホールを眺め渡す。

 充分な広さが確保できそうだ。

 あと必要なのは、スポンサーだ。


「ワタシを待つ客人がいたはずだけど」


「はい。奥の個室におります」


「ここへ呼んできて」


「は? いえ、奥の個室の方が、ヒナ様のご身分に相応(ふさわ)しいおもてなしが……。

 こちらには、他の客人たちもおられますし……」


 夜に男性と密会するーー王国では恥と見做される行為なため、外聞を(はばか)って、店長が気を利かせたらしい。

 けれど、ワタシは気にしない。


「マジで、ワタシの言うことを訊いて。

 これからすることには、これくらいの広さが必要だしぃ。

 仕方なくね?

 そうそう、ありったけのシャンパンをボトルで持って来なさい」


「しゃんぱん?」


「ワインでもエールでも蒸留酒でもいいから、とにかくお酒!」


「はい!」


 突然の呼び出しを受け、ロバート・ハンターが、ホールに姿を現した。

 悠然とした振る舞いを崩してはいないが、すでにかなり酔っていた。

 顔を真っ赤にして、傲然(ごうぜん)と身を()り返してから、大袈裟な身振りで手を振り下ろし、頭を下げる。


「これはこれは。首を長くしてお待ちしておりました。

 大魔法使いヒナ様」


「?? ヤバッ。どうかしたの? すっかり出来上がってんじゃん?」


「ええ。少々、気に入らないことがありましてね。

 許嫁になるはずの女性から、ソデにされたんですよ。

 会ってすらくれないんです」


「それはそれは……って、それ、ワタシ的には、まじでラッキーじゃね?

 それで、それで?」


「いや、わかっていたんだ、あしらわれることくらい。

 俺は貴族としては爵位が低い男爵家の者だからな。

 本来なら婚約者候補に挙がることすら、あり得ない。

 だからこそ、王妃(ババァ)に渡りをつけーー」


「あれ? おかしくね?

 たしか、貴方は平民の宝石商だったんじゃ?」


「ーーああ、そうだったな。そういう設定だった。

 チッ、どっちにせよ、平民と似たようなものだ。

 バカにするがいいさ。俺のことなんか」


 頭を掻きむしりながら愚痴る男を、ワタシは目を細めて眺める。

 口角が自然に上がってきた。


(ヤバッ! なんだかわかんないけど、やっぱラッキーじゃん!

 婚約者にソデにされたってことは、今ならロバート、フリーってことだよね?

 マジで脈アリかも!?)


 内心、浮かれるヒナであったが、相手の男は思案に(ふけ)る。


「でもーー俺は諦めない。

 まだ、公的には婚約者候補なんだからな。

 既成事実さえ作ってしまえば……」


 ロバートはワタシ、魔法使いヒナの両肩をガシッと掴む。

 鼻息が顔にかかるほどの近距離。

 お酒くさい。


「ああ、ヒナさん。

 お願いがあるんですけど。

 聞いてくれますか?」


「ええ。スッゲェ奇遇ですね。

 ワタシも貴方にお願いがあったりして」


 何十本も並べられたボトルを指し示し、ロバートに問うた。


「ねえ、ロバート。

 ここからあそこまでのお酒、ボトルで買ってくれない?」

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