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◆35 私、自分の心に正直に生きていきたい、と思っただけです

 ドミニク=スフォルト王国の王女、ターニャ・テラ・ドミニク・ランブルトと、筆頭公爵スフォルト家のご子息、レオナルド・フォン・スフォルトは、亡き先代王妃の墓前で祈りを捧げた。

 そして、木陰のベンチに向かった。


 二人は並んで座り、手を取り合い、それぞれに青空を見上げる。

 朝の日差しがキラキラと輝き、目に(まぶ)しい。

 レオナルドは空を見上げつつ、感嘆の声をあげた。


「ああ、こんな時を持てるとは。

 貴女と二人きりで、ゆっくり語り合いたいと願っていたのです。

 まさか、貴女の方から、僕に会いたいと手紙を下さるとは…‥。

 ありがとう」


「私、自分の心に正直に生きていきたい、と思っただけです」


 頬を赤く染めて、ターニャ姫は少し(うつむ)く。

 レオナルドは、握る手に力を込めた。


「恥ずかしながら、ここのところ、僕は気が気じゃなかったんですよ。

 現王妃様が頻り(しき)に貴女に働きかけているーーしかも、アレックを薦めていると耳にして……。

 貴女の心が僕ではなく、アレックを選ぶのではないかと」


 ターニャ姫は顔をあげ、まっすぐレオナルドを見つめた。


「あの人、嫌いです。ドロレス様も嫌い。

 本当は、義母とは、心の交流をしなければならない人なのに。

 私、ドロレス様を好きになろうと、何度も努力しました。

 自分を責めたこともあります。

 なぜ、先代王妃(お母さま)のように、万人を愛せないのか、と。

 でも無理でした。不思議です。

 駄目なものは、駄目なのです」


「貴女は正直で、まっすぐな人ですからね。

 王妃ドロレスは虚飾といつわりの言葉しか話さないことが、わかるのでしょう。

 好きになれなくて、当たり前ですよ」


 実際、現王妃は、王女殿下(ターニャ姫様)に対して、ひとかけらの愛情を示すこともない。嫌われて当然だーーそう、レオナルドは思っていた。


「本当にそうだわ。あなたに言われて、納得しました。

 あの人は、そういうヒト……」


 女の直感が告げていた。あの女は危険だ、と。

 ドロレス以上に身元が分からないはずの〈異世界人の魔法使い〉の方が、よほど信用できる。

 最近の王宮人事は、ことごとくドロレスの息がかかった人物が絡んできていて、自分の側仕(そばづか)え以外、まるで信用できない。


 だから父王様に無理を言って、異世界から人材を呼び寄せて、自分の護衛役にした。


 実際、ヒナさんは護衛役としては職務に熱心でなく、私を独りで放ったらかしにしている。そのうえ、夜の店に繰り出すなどして、侍女たちに悪い影響を与えている節もある。

 けれども、新たな考え方を、私たちに教えてくれた。


 愛する男性を王子にするのは、女性のーー姫の力なのだ、と!


 ターニャ王女は毅然(きぜん)とした様子で、ベンチから立ち上がる。


「私、婚約相手は貴方だけで十分です。

 アレックとは、会う必要すらありません。

 そのように、政庁の者に伝えておきます。

 たとえ現王妃がなにを言ってこようと、他ならぬ、私自身の婚姻なのですもの。

 好きにはさせません」


 彼女の(りん)とした横顔を(まぶ)しそうに見上げてから、ゆっくりと立ち上がり、レオナルドはターニャ王女にーー愛するただ独りの女性に、端正な顔を向けた。


「ありがとう。

 ーーでも、参ったな。

 これじゃあ、女性の方から求婚されたようなものだ。

 僕の方からは、また後ほど、折を見て」


 照れくさそうに頭を掻くレオナルドに、ターニャ姫も頬をほんのり(あか)くする。


「ええ。お待ちしておりますわ」


 若い男女二人ーー公爵家子息と王女殿下は、柔らかな日差しのもと、一瞬一瞬を惜しむように、互いに手を握り締めながら、時を過ごしていた。

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