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短編(ホラー系)

後ろをご覧


 ───田舎の家にはさ、物置があるわけよ。


 物置って言ったって、小屋じゃなくて人が住めそうなくらい大きくて、電気が通ってて明かりが点くんだけど。


 倉じゃないのかって?


 いやいや、あんな風に頑丈じゃないよ。

 だいたい木とトタン板で出来てるもんだし。燃えたら終わりよ?

 ただ、小屋ってよりもでかいって話なだけさ。


 それで、そういう物置はうちにもあったんだよ。

 まあ、うちのは隣の家と比べると一回りくらい小さいんだけどね。いや、あれは隣がでかすぎるんだけど。


 それで、そういう物置には色んな物が、適当につっこまれてるのさ。

 昔の農機具とか、家具とかは分かりやすい方で、人の胴体くらいあるバカでかい時計とか、古臭い巻物とか、虫食いだらけの着物とかあるわけ。

 ちょっとしたお宝みたいだけど、倉とは違うから中の物は大抵傷んでて、お金にはならないのが残念だよ。


 でも、傷んでいようとパッと見は中々の物だから、子どもの頃は1人で物置の中を探検したんだよね。

 子どもからすれば価値よりも見た目の方が大事だからね。

 親とか祖父母とかには止められていたんだけど、止めろと言われた方がドキドキしてさ。

 こう、冒険心に加えて言いつけを破る背徳感とかでテンションが上がるもんだから、こっそり何度も忍び込んだんだ。



 あれは何度か忍び込んで、勝手が分かって来た頃の話だよ。

 その日は、それまで触れてなかった箱を調べようと思ってね。


 見た目は御大層な物じゃない。

 ただの段ボール箱だよ。

 みかんの箱でね。

 1つだけ、壁際に積み上げてある箱の群れから離れて床に置かれていたんだ。


 それまでは、やたらと大きな時計とかボロボロのソファとか連結させるらしい沢山のパイプなんて物をいじっていたんだけど。

 その日、ついにその箱を開けてみることにしたんだよ。


 1つだけ床にあるから、少し怪しんでいたんだよね。

 まだ忍び込んでいることがバレてないと思っていたから、その箱に触ると証拠になるかもなんて考えていたんだ。

 子どもらしいよね。

 本当はとうの昔にバレていたのにさ。



 まあ、とにかく箱を開けてみることにしたんだ。

 それで、よれた茶色の段ボール箱を開けるとそこには何があったと思う?



 いや、中には古い布がいっぱいに詰め込まれていただけだったよ。

 多分、古着だろうね。


 拍子抜けだろう?


 全部色褪せていて、ほつれとか小さな穴とかで痛んでいることは子どもでも分かった。


 ちょっとどころではなく落胆したね。

 宝箱でも罠でもなく、ただの箱だったから。


 それで蓋を閉じて戻しておこうとした時さ。

 ……古着の中に何かが埋もれていることに気づいたんだ。


 くすんだ布の中に、やけに綺麗な白い物が入っているんだ。

 おや?と思って、布の中に手を突っ込んでそれを引っ張り出すと、自分が何を掴んでいるかが分かったよ。


 人形さ。


 女の子がおままごとに使うような感じじゃなくて、雛人形みたいな飾っておく人形だね。

 それが出てきたんだ。

 着物を着せられていて、何でかその人形だけはとても綺麗だった。

 汚れがないってのもそうなんだけど、色がさ、ハッキリしてたんだよ。


 冷たいくらいに白い顔に、血のように紅い唇がうっすら微笑むようで、ぞぉっとしたなぁ。

 背筋に水を流されたようにぞくぞくした。寒くて冷たくて辛いはずなのに、どこか心地よくて、かえってそれが恐ろしくて堪らなかった。

 だと言うのに、手に持った人形から目を離せなくてね。吸い寄せられるようだったよ。


 子ども心に、これはヤバいと感じてさ。

 慌ててその人形を段ボール箱へと戻したよ。


 もちろん、乱雑に突っ込むような真似はしなかった。怖かったし、内緒で物置に入っていたからね。

 きちんと元通りに片付けたんだ。




 それから数日して、物置にマルチシートを片付けていた祖父が呼ぶんだ。来いって。


 マルチシートってのはあれだよ。畑に敷く黒いビニール。

 いや、それはいいのよ。

 とにかく、祖父に呼び出されてさ。物置の前に。


 あ、これ叱られるやつだって薄々察していたら、案の定怒られてね。勝手に物置き入っただろうって。


 それで、物置きで何をしたのか聞かれて、冒険してた話をさせられたんだ。

 祖父は呆れながら聞いていたんだけど、途中で話を遮って言ったんだよ。「うちにそんな人形無いぞ」って。

 今でもしっかり覚えてるよ。


 でも確かにそんな人形は見たこと無かったし、うちの家系は男ばかりで雛祭りとかやらなくてさ。節分とか端午の節句とかはやってるから、季節の行事をしないわけでもないし。

 父も祖父も曾祖父もみんな姉とか妹は居なくてさ、人形なんかあるはず無いって言われたらその通りなんだよ。


 おかしいなってことで、祖父と一緒に物置の中を確認したら。


無いんだよ。


 1個だけ床にあったはずの段ボール箱も、その中身の人形も、どちらも影も形も無いんだ。


 祖父は作り話じゃないかって疑いだしたけど、床をよく見ると物が置かれていた跡が残っていてね。箱の形に四角く、埃が無くなっていたんだ。


 でも、だからってどうしようもなくてさ。

 誰かが盗ったんだとしても、子どもしか把握していないものは探しようがないだろう?

 人形が何か悪いものだとしても、見たって日から何日か経っているのにおかしなことが起きてるでもないし、とりあえず様子を見るようになったんだよ。







 …………何?




 話の続き?




 そんなもの、無いよ。

 いや、ホントはあるけど話せるわけ無いだろう。






 まあ、でも、これは伝えておかないといけないか。



 怪談ってさ、あまり話して回るようなもんじゃないんだわ。

 それから、あまり聞くべきものでもない。






 なら、なんで無くならないかと言えば。









 話すことに意味があるのさ。

















 ───それじゃあ、お前の後ろにある人形はくれてやるよ。






ご高覧くださりありがとうございます。

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