6.男子大学生の僕、女子高校生とお姉さん
ピンポーン
「…」
スマホの電源を入れると午後六時。特に今日届く予定の荷物はない。となると間違いなくやつだ。
玄関に向かい扉を開く。
「こんばんは香西さん!」
「やっぱり井上さんか…」
「え、なんですかその顔」
いけないいけない。無意識に嫌そうな顔になってしまっていた。
皆さんも体験したことはないだろうか。例えばいつも仲良くしている友達がほかの人といるときはキャラや雰囲気が全く違うこと。メールや通話では仲良くなったのはいいものの、現実で会うと本当に仲良くなった人なのかと別人に感じること。
やっぱりどうしても陽キャにはびくびくしてしまう自分がいる。
視線を下に向けると作りすぎたであろう生姜焼きが添えられたお皿を持っている。
二日連続で朝食を入れると三回連続作りすぎている。
「もしかして作りすぎちゃった?」
「なんでわかったんですか!?実は生姜焼きを作りすぎちゃったのでおすそ分けにしに来ました!」
なんてオーバーリアクションでわざとらしい言い方だろう。僕が疑いの視線を向けても変わらずニコニコといつもの明るい表情で真っすぐ僕のことを見ている。ちょっとは下手くそな口笛を吹くなり、視線を逸らすなりしてほしいものだ。
「僕の負けだよ、どうぞ上がって」
「はい、お邪魔しまーす!」
いつも通り僕は席に座らされて見物。井上さんは手際よく夕食の準備をしている。井上さんはもう完全にお箸やお皿の場所を把握してしまっている。二日目にして僕よりこの部屋のキッチンを使いこなしている気がする。
「カフェオレをどうぞ」
「あ、ありがとう…はっ!?」
気が利きすぎて怖いなと思いながら受け取った。そして一口飲むと異変に気付いた。僕の好みの味のカフェオレになっている。
「すごい。僕の好きな味だ」
「少し苦めですよね」
「その通り」
そのあといつも通り食事を楽しみ、今は一緒に食器を洗っている。
「そういえば今日は参考書を買いに行ってたんだっけ?勉強頑張っててすごいね」
「そんなことないですよ。それに受験生だから当たり前ですよ」
「え、高校三年生なの!?」
びっくりして皿を落としそうになる。大人びた見た目ではあるが言動が子供っぽいため、つい最近まで中学生でこの春に進学したばかりの高校一年生かと思っていた。
だから正直、僕の心の中では子ども扱いしてしまっていた。まさか年が一つしか変わらないとは。
「子どもっぽいって言いたいんですか?」
「いや別にそういうわけではないんだけど…」
「ちなみにですけど香西さんは彼女にするなら年上派ですか?それとも年下派ですか?」
なぜかわからないけど「年下」を強調して言われた。もしかして女子にこのような質問をされたときは、その質問をしてきた女子に合わせた回答をするのがマナーなのだろうか。
「そうだね、年下のほうが好きかな」
「そうですか」
そう言うと井上さんは黙り込んだ。
あれ?反応それだけ!?
回答をミスったかもしれない。もしかしたら「この大学生、女子高生にナンパしてきてるんですけど。キモ」とか思われているのかな?そんなこと思われていたら一日は寝込んでしまう。
恐る恐る隣にいる井上さんのほうを見る。
「…っ」
井上さんは頬を赤く染め、どこか歯がゆい。でも嬉しそうな表情をしていた。
よかった。とりあえずは機嫌を損ねていないらしい。
「こ、香西さんそういえば漫画買ってましたよね。読ましてくださいよ!」
「あっそういえば忘れてた。皿洗いも終わったし読んで帰る?」
「はい、ぜひ!」
僕はカバンから本の入った袋を取り出す。だが手が滑って床に落としてしまった。その拍子に袋の中に入っていた本が飛び出す。
「あ」
なぜ神は僕にこんな仕打ちをするのだろうか。『お姉さんとのドキドキハーレム同棲生活』というタイトルが井上さんの瞳にも映っている。
「何読ませようとしてるんですか」
「違うんだこれは」
「それにお姉さん系じゃないですか。年下のほうが好きじゃないんですか?」
「えっとね…そ、そう!これは友達のために―――」
「言い訳なんて聞きたくありません」
「はい…」
なんで僕はブックカバーをつけてもらわなかったのだろうか。そう後悔してももう遅い。
小一時間ほど僕は説教を兼ねて年下女子の良さを説明された。
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