4.男子大学生の僕、女子高校生に起こされる
ピンポーン
「んん…」
インターホンを鳴らした音が部屋に響いて目が覚める。スマホの電源を入れると午前七時と表示された。今日の講義は昼からのため、昼前ぎりぎりまで寝る予定だったのに…。
「こんな朝っぱらから誰だ…?」
重い体をどうにか動かしてインターホンのカメラとマイクをオンにする。
「どちらさまですか?」
「香西さんおはようございます、井上です!」
「いのうえ?いのうえ…いのうえ…。えっ井上さん!?」
寝ぼけていた脳が覚醒する。目をこすって画面を見ると井上さんが映っていた。朝早くだというのに元気いっぱいのようでニコニコとしている。夜遅くまでゲームをしていた僕にはまぶしすぎる笑顔だ。
とりあえずドアを開けて井上さんを出迎える。
「おはよう井上さん」
「おはようございます香西さん。もしかして就寝中でしたか?」
「うん。インターホンの音で起きた」
「学校に遅刻してしまいますよ?」
「大学生は高校生と違って毎日朝から学校があるわけじゃないんだ」
改めて井上さんの服装を見るとセーラー服であることに気づく。アイドルやアイドル顔負けの容姿をしているため、本当に女子高校生なのかと怪しんでいたがちゃんと女子高校生らしい。
「井上さんはこれから登校?」
「いえまだ登校には早いですよ。これを持ってきました」
井上さんは後ろに回していた手を前に持ってきた。
「じゃじゃーん、サンドイッチをおすそ分けしに来ました!」
「え、もう早くからおすそ分け?」
「だって昨日言ってたじゃないですか。お礼はおすそ分けがいいって」
「確かに言ったけど、それは作りすぎちゃったときだけで」
「サンドイッチを作るのが楽しすぎて作りすぎちゃいましたー。今起きたってことは朝ごはんまだですよね?一緒に食べましょう!というわけでお邪魔しまーす」
「え、あ、え?」
展開が早すぎてついていけずポカンとしている間に、井上さんは僕の部屋にあがって朝食の準備をし始めた。
「飲み物は何にします?」
「あ、えっとじゃあカフェオレで」
「わかりました。あともうできるので座っててください」
「あ、はい」
僕はもう考えることをやめて井上さんの指示に従うことにした。今まで恋愛や結婚などの話になった時に「陽斗って絶対に尻に敷かれるタイプだよな」や「反抗ができなさそう」などと散々言われてきた。こういう女子との何気ない場面でも僕は弱い立場になってしまうらしい。
「カフェオレどうぞ」
「ありがとう」
「私が好きな配分で作ったのでもうちょっと甘さ控えめがいいとか感想教えてくださいね。好みにあうように研究しながらこれからも作っていくので」
「これからも…?」
「別に大したことじゃないので気にしなくていいですよ」
「そっか」
香西陽斗は考えることをやめた。だって朝から考え事なんてしたくないし。それにどうせ何言っても井上さんにはぐらかされる気がする。
「じゃあいただきます」
「どうぞ」
それからまた昨日のように軽い談笑をしながら食事をした。夕食の時と比べると朝は少し静かな時間が多かった。しかしこのゆっくりとほのぼのした時間を楽しんだ。
「そろそろ私学校に行かないと」
スマホの画面を見ると午前八時と表示された。もうあれから一時間もたったのか。井上さんとの食事は僕には楽しい時間のようで、時間の流れがとても速く感じる。
井上さんはローファーをはいて立ち上がり、僕の方に振り向いた。
「香西さん。えっと…その…」
「どうしたの?」
珍しく井上さんがもじもしして言葉が詰まっている。思ったことはすぐに口に出す人と思っていたが、こういう一面もあるようだ。
「い、いってきます!」
「!?」
思いがけない言葉に驚いてしまう。まるで井上さんと同棲しているかのような感覚になる。
「いってらっしゃい」
「いってきます」と言われた以上「いってらっしゃい」というのが筋なように感じた。井上さんの表情が少し赤い。井上さん言ってきたから言ったのに、なんだかこっちまで気恥ずかしくなるからやめてほしい。
「また来てもいいですか?」
「もちろん」
「っ!?ありがとうございます!」
井上さんは元気に部屋を飛び出していった。
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