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信頼

 段々収拾がつかなくなって来ました。ここまできたらやりたいこと全部やらせるつもりで書きます。

 部屋にはベッドが一つとクローゼット、化粧台などがあり、お風呂は備え付けのようだ。

「汗かいたし、先にお風呂入っちゃおっか」

「勝手に一緒に入ることになってるし……」

なんだかちょっと不貞腐れているが、入浴準備はしっかりしている。

「じゃあ一人で入る?私は一人でも別に……」

「一緒に入る」

なんでそんなに可愛いのか……。私を萌死させるために送り込まれた暗殺者と言われても納得できてしまう。


――――――――――


一人用の風呂桶に女子とはいえ二人同時は流石に容量オーバーなのか、ザバァ……とお湯が流れ出す。

「いやー、なんか大変なことになっちゃったね。これからどうする?」

聞いたのは私。有希は私の膝の上で体育座りするようにして湯船に浸かっている。

「どうしようね……。わたしたち帰れるのかなー?」

「どうなんだろう……。帰れるかどうかは説明して貰えなかったよね」

私は有希さえいれば帰れなくても構わないが。

「んー、まぁでも、優香がいるからきっと大丈夫。」

顎を反らせ、私を見上げるようにしながら有希は言う。

「本当に有希は私に都合のいいことばかり言ってくれるんだから……。」

「信頼してる。」

何も言わず有希を抱きしめ、そのまま5分ほど過ごす。


「そろそろあがろっか。」

「ん。喉乾いてきた。」

お風呂から出て、備え付けてあった寝巻きを着る。女性用が2着あったのは予備だろうか?

 二人でベッドに寝転がり、天井を見上げる。元いた世界では一生見ることがなかったであろう高い天井。風呂上がりで火照っているのもあるのだろうか、異世界にいるという実感が薄い。なんだか夢の中にいるようだ。


「これからどうする?」

話を切り出して来たのは有希の方だった。有希から話を始めるのは珍しい。

「うーん、私は元の世界と変わらずに鍛治職人でも目指そうかなと思ってるけど……。」

「魔王は?たぶんだけど、このクラスで一番強いのは優香だよ。」

「うん。でも、それは今の話でしょ?きっと浩二とか翔太みたいな、光魔法を使える人たちが頑張ってくれるよ。私は皆が頑張れるように武器を作って支えられれればいいかなぁって。」

「じゃあ、私は優香を手伝う。」

「本当!?嬉しいけど、皆と一緒に行きたかったら行っていいんだよ?鍛治仕事なんて暑くて辛いだけで一緒にいても楽しくないだろうし……」

「そんなことない。私は優香と一緒にいたいから。優香の気が変わって魔王を倒しにいくならついていくし、それに鍛治を見てるのは楽しい。」

「なんか、有希と一緒にいるとなんでもできちゃいそうだな……」

「ん。優香ならなんでもできる。私が保証する。」

「……急に知らない世界に連れてこられて凄い不安だったけど、有希のおかげでなんともなくなった気がする。ありがとう、有希。」

「不安なのは皆同じ。これからがんばろう。」

「そうだね、これから頑張ろう。」

そのまま抱き合って眠りについた。


――――――――――


 明くる朝、聖女様が各部屋を訪ねて生徒達を訓練場に集める。

「昨日もお話ししましたが、この世界は魔王の脅威に晒されています。皆様には一刻も早く魔王に太刀打ちできる力を得ていただかなくてはなりません。ですので、これからはほぼ毎日ここで訓練を受けていただきます。」


「すみません、質問なんですけど」

手を挙げたのは浩二。

「なんでしょうか。」

「魔王ってのを倒した後、俺たちって元の世界に帰れるんですかね?それだけはハッキリさせておいてもらいたいんですけど」

「なるほど。元の世界に帰れるかについてですが、結論から言えば帰ることは可能です。手段自体は今すぐにでも用意可能です。」

その言葉に一瞬クラスメイトが沸き立つ。

「しかし、皆様を召喚したことで魔王が警戒を強め、強力な妨害魔術を使用されてしましました。その結果、他の世界と繋がりを持つことが現時点では不可能になっています。」

なるほど、どちらにしろ魔王は打ち倒さなければならないと。


「他にも質問がございましたら、遠慮なくお聞きください。」

そう言って話を進めていく。

 通常の魔物よりも強力な『魔人』の存在、ガルド王国以外の大国についての話、そしてクラスメイト各人に配布される武装について。

 武装といっても訓練用のもので、それぞれ「○術」に応じた簡易なつくりの武器を受け取った。私に関しては、王城の鍛治場を使って自作しなければならないようだ。まぁ原理すら知らない武器なんて作れるわけがないからこれは納得だが。

 ということで昨日と同様に、他の人たちが訓練に励んでいる間私は作業に勤しむことになった。

 有希は見学を希望してくれたが、この程度鍛治と呼べるかすら怪しいので断腸の思いで断った。

 「今回作るのは模造刀だしね。」

 訓練用の模造刀であれば、形と重心さえしっかりしていれば問題ない。

 設備の使い方はお抱えの鍛治士達に教えてもらったので問題ない。

「それじゃ、やりますか!」

 といっても、模造刀なんて適当な金属を熱して叩いて終わりだが。

 使い道のなさそうな鋼材を貰い、炉で熱して成形する。同じように使い道のなさそうな木材を削って鞘と柄を作り、目釘を打つ。目貫はいらないだろう。

 絵に紐を巻いて握り心地を確かめる。

 腰に差して抜刀・納刀を繰り返したり、何度か振ってみて重心を確認したら終了。

 炉に火をつけた時と同じように一礼して火を消した。


「なぁ嬢ちゃん。今作ってたやつ、モゾウトウ、とか言ったか?」

ずっと私の作業を眺めていた鍛治士の一人がさ話しかけてくる。


「ロングソードとはちょっと形が違うみたいだが、どんな武器なんだ?」

「これは刀という武器の訓練用の模造品です。」

「カタナっていうのか。それで、どんな武器なんだ?パッと見た感じじゃ刃は薄いし細いから、鎧なんかに簡単に弾かれちまいそうだが。」

「模造刀だったら確かにそうかもしれないですけど……玉鋼を使った真剣だったらそう簡単にはいかないはずですよ。」

「タマハガネ?なんだそれ、俺の知らない金属か?」

「分類的には鋼と一緒なんですけど……作り方がちょっとめんどくさいんですよね。長時間炉に張り付かなきゃいけなくて……もし作ることになったら、皆さんにもお手伝いをお願いすることになるとは思うんですが」

「まぁ、見たところ今日初めてハンマーを握ったって訳じゃあなさそうだし、ある程度の腕があるってんなら協力は惜しまねえけどよ」

「それと、私刀以外の鍛治仕事はそれほど得意ではないんですよね。なので、いずれそちらの方面でご教授いただけたらと」

「それなら任せとけ。この城には最高の鍛治士が揃ってるからな。知ってることだったらなんでも教えてやる。」

「ありがとうございます。では私は訓練があるのでこれで。」

鍛冶場を後にする。あり合わせの物とはいえ、この世界で最初に作った作品だ。大事に扱おう。




「戻りました。」

「! 優香だ。」

「あ、優香さん。」

戻ると有希、聖女ちゃんに挟まれた。どっちもちっちゃくて可愛い……。


「ようやく戻ってきた。私の訓練に付き合って。」

有希が手を引いて訓練場の空きスペースに連れて行こうとする。有希の言う訓練とは、いつも二人でやっている物のことだろう。

「わかったから、ちょっと待ってね。聖女様、私は自主練ということで大丈夫でしょうか?」

「はい、構いませんよ。もしお望みであれば他の武器の方達と模擬戦を行なっても構いません。」

「ありがとうございます。」

訓練といってもほぼ自主練習か。元の世界と変わらないな、と思いながら有希の下へ向かう。

 有希は既に弓を構え、準備万端だ。私は刀を腰に差し、つかに手を置いたまま有希に向かって半身の姿勢を取る。有希は弓を引き絞り、私は目を瞑る。


集中。物音を一つも逃さぬよう、周りの物音に意識を向ける。


ヒュッ、キンッ


抜刀したタイミングで風切り音が鳴り、模造刀に当たった矢が弾かれて飛んでいく。

 一度目を合わせて笑い、その後も同じことを繰り返す。合間合間の時間はバラバラで、矢と刀がぶつかる場所もバラバラ。

 見る人によっては、単に私の反射神経の訓練にも思えるだろう。


「なぁアレ、何やってんだ……?」

「さぁ、優香の反射神経鍛えてるんじゃないのか……?」

「カッカッカ。そんな生優しいもんじゃねぇぞアレは。」

お、教官は何をしているか見当がついていそうだ。

「アレはお互いが相手の攻撃するタイミング・場所を予想して攻撃を放ってるんだ。矢を弾くとか刀に矢を当てるとかじゃなくて、互いの予想が完全に噛み合った結果刀と矢がぶつかってるだけだな。」

「なんだそれ、意味わかんねぇ……」

「その証拠にほら、二人が手を動かすタイミングも同じだし、どっちもずっと目瞑ったままだろ?いわば集中力と連携の特訓ってところか。」

「確かに、言われればそうかも……?」

「そうは言っても、原理が理解できたところで実践できるかは別だがな。それぞれ相手に絶対的な信頼を置いてるんだろう。じゃなきゃあんな芸当できっこないだろうな。」

「弾いてなかったら頭に当たってる矢とかもあったよな……。俺には一生無理だな。」

「俺なんて見てるだけで怖いよ……」

「今の小僧達にここまでは求めんが、そのうちこれぐらいできるようにはなってもらうぞ。」

「「え?」」


「ほらほら、いつまでも見惚れてないで訓練続けるぞー!」


30分ほど経っただろうか。声掛けも無く構えを解き、並んで地べたに座る。


「どうだった?」

「いつもと変わらなかった気がするけど……優香の振りがちょっと遅れてたかも?」

「普段の刀と違うからかもね」

「それだ。あとは変わらず、いつも通り。」

「やっぱり真剣作らないとかなぁ〜」

「たぶん作らないとダメ。魔物とかもいるらしいし、マトモな武器は必要。」

「玉鋼作るのめんどくさいんだよなぁ〜……」

「私も手伝うから。」

「本当に70時間付きっきりでいてくれる?」

「それは……無理かも。でも炉を作る手伝いとかはできる。」

「本番は有希のお手伝い無しかぁ〜」

「……上手にできたらご褒美あげる。」

「本当!?」

「本当。だから頑張って。」

有希からのご褒美と聞いてやる気が跳ね上がった私は聖女様の所までダッシュ。


「ということで王城の鍛治職人さんを5日ほどお借りしたいのですが。」

「へ?」

「優香、一から説明しないとダメ。」

一通り聖女様に説明をする。倉庫などにも無い以上、真剣は最低1本だけでも打っておいた方がいいこと。真剣を作る上で玉鋼は無くてはならない物だということ。玉鋼を作るには数日の時間がかかるということ。そして玉鋼を作るには大量の砂鉄と木炭が必要なことなど……。


「わかりました。タマハガネを作るにあたって必要な材料や人員はこちらで工面しましょう。ですが、炉の設計や実際作る際の流れなどは全てあなた方に任せるしかありません。それでもいいですか?」


「むしろそこまでしていただけるのがありがたすぎるぐらいです。」

想像以上に協力的だ。材料まで用意してもらえるとは……。いや、用意してもらえなかったらそれはそれでどうしようもなかったが。


「異世界から無理にお呼びした勇者様ですから、最大限お力をお貸しするのは当然です。」

「本当にありがとうございます……!」

「私からも。ありがとう、聖女様。」

「お気になさらず。そのかわり、最高の物を作り上げてくださいね?」

聖女ちゃんが悪戯っぽく軽く笑う。


「はい、必ず!」

更に気合が入ってしまった。これは最高の物を作らなくては……。

取り急ぎ炉に必要な砂や砂利などを調達してもらい、木炭や砂鉄が揃うまでに炉を作ってしまおう。


鍛治士さん達、急に重労働を押し付けるけど許してね……!


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