エンカウント
異世界モノには必須の翻訳スキル。ニュアンスも完璧に翻訳してくれます。これがなきゃやってられないね
いきなり世界を救えと言われても、今何が起きているのかさえわかっていない私達にはどうしようもない。
まずは現状を説明してもらわなければならないだろう……大方予想はついているが。
周りにはフルプレートメイルを身につけた騎士のような人々が、私達を囲むようにして立っている。
周りの生徒たちは突然のことに理解が追いつかず、ちょっとしたパニック状態に陥っている。
「ここどこ?さっきまで教室にいたよね?」
どうしたものかと思案していると、担任の先生が手を叩いて叫んだ。
「皆さん、落ち着いて!先生もよくわかっていませんが、ここは学校では無さそうです!あちらの方に話を聞いて来るので、騒がずに待っていてください!」
「うん、さっきまで教室にいたはず……とりあえず先生の言う通り待ってよう?」
「これって異世界転移ってヤツ!?ついに俺の時代キタ?」
先生が率先して動いてくれたのが功を奏したのか、生徒たちも落ち着きを取り戻し始めていた。中にはこの状況を架空小説と同じ状況だと捉える人もいるようだ。……かくいう私もその1人だが。
「優香、どこー……あ、いたいた。よかったぁ、優香も一緒で……。」
そう言いながらこちらに向かって来たのは私の親友、星井有希。家が隣同士だった上に幼稚園からずっと同じクラスで、私の1番の友達だ。
「あ、有希。よかった、有希がいなかったら私どうしようかと……」
ここだけの話、私は有希に友情以上の感情を抱いている。……それを有希に求めたりはしないが。
「ねぇ優香、これって何が起きてるの?」
「うーん、私もよくわからないけど、所謂『異世界転移』ってやつじゃないかな……?」
「あー、最近ラノベでそういうの流行ってるって聞いたけど……」
「皆さん、こちらの方が説明してくださるそうです!私についてきてください!」
先生の方で話がついたようだ。
「じゃあついて行こっか。」
「そうだね、何もわからないままだし……」
最初に目の前にいた女性と先生に連れられて2分ほど歩くと、中央に台座と大きな水晶玉が置かれた部屋についた。
クラスの一部男子が「ステータスオープン!ってヤツだろコレ!」
と騒ぎ始める。私もそうだろうとは思うが……
「まずは皆様に謝罪をさせてください。この度は、私達の勝手で皆様をお呼びたてしてしまい、申し訳ありませんでした。皆様にもそれぞれの生活があったことと存じます。それをこのような形で無理矢理奪ってしまったことは、どれだけ謝っても許されないことでしょう。しかし……私達にはもう、これ以外の方法が無かったのです。」
……まぁ要約すると、凶暴な魔物を生み出す『魔王』が生まれちゃって、この世界の人間じゃ倒せそうな見込みがないから勇者として私達を呼んだ……っていう、ラノベでもよくある流れだった。
あの女性はイリアって名前で、私達を呼び出したガルド王国の聖女をやってるらしい。
他にも帝国や獣人の国、宗教国家もあるみたいだけど、一度に聞かされても追いつかないだろうという聖女の配慮で、この世界の常識はまた今度ということになった。
「皆様をこの部屋にお連れしたのにはもう一つ理由があります」
そして男子諸君のお待ちかね、ステータス開示の時間だ。
「こちらの水晶玉に手を触れて『ステータスオープン』と口に出すと、水晶玉にステータスが映し出されます。水晶玉に触れなくてもステータスは確認できますので、他人に見せたくないという方はそれでも構いません。気になったスキルや職業についてだけ質問する、と言う形でも大丈夫です。」
「ま、他人に見られて困るようなもんでもないっしょ。ステータスオープン。」
軽い調子で水晶玉に触れたのは学級委員の佐々木浩二。
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名前:佐々木浩二
職業:魔法剣士
スキル:翻訳(Lv.EX) 剣術(Lv.1) 投擲(Lv.2.) 光魔法(Lv.1)体力増強(Lv.2) 筋力増強(Lv.2) 軽業(Lv.1)
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「魔法剣士だってよ、結構強そうじゃね?」
「光魔法……!」
聖女さんがビックリしてるし、光魔法持ちは勇者候補みたいな感じなのかな?
佐々木がやったなら、とクラスメイトが続々とステータスを開示し、残るは私だけ。光魔法持ちもチラホラ存在し、今のところ皆戦闘職ではあるが……
「あとは私だけかな。ステータスオープン」
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名前:星野優香
職業:刀鍛治
スキル:翻訳(Lv.EX) 刀術(Lv.5) 剣術(Lv.3) 熱耐性(Lv.5) 投擲(Lv.3) 精密操作(Lv.7) 鍛治(Lv.7) 木工(Lv.3) 炉造り(Lv.5) 体力増強(Lv.6)筋力増強(Lv.5)炎魔法(Lv.1) 錬金術士(Lv.1)
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まぁこの程度だろう。さすがに鍛治は高めだったが、まぁまぁ良いステータスと言えるんじゃなかろうか。と思ったが、聖女様にとってはそうでもないようで。
「とうじゅつ、ですか……?カタナとは、なんでしょうか……?」
「あー、この世界に刀って無いのかなぁ……?」
「カタナ?については、後でお聞かせください。ひとまずステータス開示は終わりですので」
「それでは皆様、これからそれぞれのスキルに応じて訓練をしてくださる教官の下にお連れします!訓練場でお待ちですので、ついて来てください!」
聖女様が先導する。
「軽く説明させて頂きます。職業というのはその人がどんな職業に適しているかを示しており、後から変わることもあります。また、スキルはへレベルが高いほど習熟度が高いことを示しており、目安としては1が素人、3で中級者、5で上級者、8で達人。さらに一芸が秀でていたりする人はレベル9や10まで届くこともあるそうですが、基本的に8で打ち止めと言われています。」
「じゃあ優香の刀術はかなり高い方ってことですか?」
「そうなりますが、いかんせんカタナというものを知らないので実際どうなのかもわからないところではありますが……と、つきましたね。ここが訓練場です。」
到着した場所では総勢10名程の教官らしき人達が待ち構えていた。、吹き抜けの広場のようになっており、壁際には的や木剣、簡易な作りのつ弓なども置いてあり、一通りの訓練は行えそうな雰囲気だ。
「剣術を持ってるヤツはこっちに来い!」
「弓術の人たち、こっち来てー」
「棒術の人たち、こちらへどうぞ」
各々が生徒を呼び集める中、私はどうしようかと考えていると
「優香さん、でよろしいですか?」
聖女ちゃんだ。
「あ、はい。私、どうすればいいですか?刀術の先生はいらっしゃらないようですし……」
「そうなんですよね……うーん……あ!そういえば、木工をお持ちでしたよね?」
「はい、一応……」
「でしたら、訓練用に木製のカタナ?を作ることはできますか?木材であればある程度は用意できますので……。そして、剣術の教官と模擬戦をしていただければ刀の有用性なども多少は分かると思いますので」
「いいんですか?でしたら、ある程度繊維が詰まってて重いものをお願いします。」
「わかりました。兵士さーん!」
聖女様が兵士を呼び寄せ、木材と加工器具を持って来させる。他の人たちが基礎指導を受けている間に作ってしまおう。
木刀の製作は向こうで死ぬほどやったから身に染みついている。初めて使う木材で少し戸惑ったが、他の人たちが教官との打ち合いを終えるまでには作り終えた。ところで……
「聖女ちゃ、聖女様、ずっとご覧になっていて飽きたりしませんか……?」
「ふぇ?いえ、楽しかったですよ!どんどん形ができていって、面白かったです!」
「そうですか、それなら良かったですが」
木刀作りを見て楽しいと言うのは今まで有希ぐらいしかいなかった。異世界にも珍しい人はいるものだ。
できた木刀を軽く振って重心を確かめる。刀というより大太刀になってしまったが、まぁ問題無いだろう。
「では、こちらで模擬戦をお願いします」
異世界最初の先頭が教官相手とは、ついているのかついていないのか……。
「嬢ちゃんだからって手加減しねぇぞ」
「こちらこそ、本気でいきます。」
互いに獲物を構える。相手は剣を中断に、私は太刀を下段に。
いつのまにかクラスメイトや他の武器の教官、兵士たちも集まってきている。
「始め!」
合図の直後に動きは無く、互いに円を描くように間合いを詰めていく。一定までい近づいたところでどちらとも無く飛び出し、獲物をぶつけ合う。正面から相手の武器を受け止め、力任せに打ち払う。
二度、三度とぶつかり合ったところで
「嬢ちゃん、刀ってのは大剣みてぇな、中々力任せな武器なのかい?」
と。
「いえ、そんなことはないですよ。刀の真骨頂はこれからです。」
「そりゃ楽しみだ」
そしてまたぶつかり合う。今度は正面から受けるのでは無く、側面を使って緩く受け流していく。水の流れのように、相手の力を受け止めて自分のモノにし、刀を振る。それなりに対応し難いはずだが、難なく避け、受け止めてしまう。
「中々やりますね」
「軽々と受け流しておいてよく言うよ。並の人間じゃ受けるのすら難しいってのに」
「今度はこちらからいきますよ」
言うが早いか、身体を地面スレスレに倒して地面を蹴る。相手の視界から消えることで成立する、簡易的な縮地のようなものだ。
下から切り上げ、咄嗟に受けて下がった所を追いかけて二撃、三撃と追いかけていく。
更に追撃を加えようとしたところで、水を差すように横から矢が飛んでくる。刀で受け止め、飛んできた方向を睨む。
「───ほう、気づきますか。」
そいつは銀髪に赤い目で角を生やした、いかにもな見た目をしていた。
「ッ!?なぜ魔人がここにいる!警備はどうした!」
「おぉ、こわいこわい。警備なんて、簡単に出し抜けちゃいましたよ。僕を止めたいなら結界ぐらい用意してもらわないと。勇者達の姿も拝めましたし、僕は帰りますからお気になさらず〜。」
そう言うと魔人とやらは瞬時に姿を消してしまった。
「……刀は剣と同様に扱っても大丈夫そうですね。本日の訓練はこれまでとします。皆さんお疲れでしょうから、お部屋でゆっくり休んでください。先ほどの件に関しては後ほどご説明させて頂きます。それぞれのお部屋はあちらの兵士からお聞きください。」
「だそうだ。ほれ、帰った帰った!」
「みんなお疲れー。」
「みなさん、お疲れ様でした。」
各々教官にお礼を言って部屋を聞きに向かう。
「優香、凄かったね。」
「そう?ありがと。」
有希だ。相変わらず可愛い。思わず抱きつくと有希もハグを返してくれる。
「有希は弓術だっけ?」
「そうだよー。レベルは4だけどね」
「4でもすごいよ。さすが弓道部。」
「えへへ。でも、弓道で使ってた弓とはちょっと違うんだよね。」
「そうなんだ」
「うん、こっちの方がちょっと短くて……って、持ち上げないでよー」
有希は身体が小さいから簡単に抱き上げられる。本当に可愛い。
「私達のお部屋ってどこですかー?」
「はい、優香さんと有希さんのお部屋は客間の1、2番になっております。」
「お、隣同士じゃん。やったね」
「おろしてー」
「一緒にお風呂入ろっか」
「おろしてってばー」
こうして私達の異世界生活が始まった。